V:「生きづらさ」について
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(2) なぜ学校にいかなければいけないのですか

物語という考え方を実際の生活の問題に応用してみたらどんな効果があるか、学校や教育をめぐる問題をとおして試みてみます。

最近、家族間で殺人事件がよく起きています。原因はさまざまですが、学校や教育といった問題がきかっけになることも多くあるようです。心を病む教師も増えています。そして何よりも若者たちが孤立して悩んでいます。学校とは何か、しばらく考えてみます。

学校に行かないプレーッシャーは大きい

不登校の子どもやその家族にとって、学校へ行かないことは精神的に大きな負担になります。自分たちだけが社会から取り残されてしまったような気持ちになります。学校以外にも必要な知識や技術は習得できる時代ですが、なぜか学校へ行かないことの負い目はつらくのしかかってきます。

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学校教育は通過儀礼

この心理的な圧迫は実は長く歴史によってひきつがれてきたものに由来しています。それは通過儀礼という儀式です。古来から各地で行われていき子どもから大人になるための儀式です。特定の年齢になると学校へ行くという制度は実は通過儀礼という儀式がかたちを変えて近代社会に取り入れられたものなのです。

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通過儀礼には合理的な根拠はない

通過儀礼の内容は時代や地域によってさまざまです。

こんな例が紹介されています。ある年齢に達した男の子たちが、新月の夜、先輩たちに案内されて遠くに出かけます。道中はひと言も声をたてることは禁じられています。闇の中で突然、石のようなもので前歯を折られます。声を出さずひたすらこらえなければなりません。わき出る血を吐き出すことも禁じられています。こんな試練を経て少年たちは大人の男として受けいれられます。

このように一夜の恐怖に耐えるだけで終わる通過儀礼もあります。しかし、近代の学校教育という通過儀礼は延長されるばかりで、現在では16年以上におよぶこともあります。

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学校教育のはじまり

学校教育が普及するまでは、子どもは「小さな大人」でした。市民革命で人権という考え方が広がるにつれて、大人とは異なる「子ども」という人格が認められるようになりました。子どもの発達する権利を保障するために学校教育という制度が整えられていくようになりました。

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読み・書き・そろばんの時代

日本には寺子屋という歴史がありました。この伝統を引き継ぐかたちで明治の初期の学校教育は「読み・書き・そろばん」を内容としていました。識字率を上げることは近代化に欠かせない条件でしたから、これは時代の要請に十分答えることができていたのでしょう。

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新しい身分制の仕組み

身分制によって社会秩序が維持された時代が終わり、新しい秩序が求められていました。学校教育はそんな時代の要請にも応えることができました。成績の優秀なものは上級の学校に進学し、さらに優秀な者は東京に集められて官僚組織や産業を支える人材の中核として育っていきました。

同世代の若者が学校教育を終える年齢に達すと、そこには学歴によるピラミッドが見事にできあがるようになりました。

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出世競争が学校教育を拡大させた

20世紀に入り産業が発達すると、事務職や技術者など管理的な職務が増えました。そこには一定の学歴をもつ人たちが配備され、社会に中間層が形成されました。彼らは新しい知識や文化にも敏感で都市的な生活習慣を受けいれ、その生活スタイルはひとつのステータスとなっていきました。

20世紀後半になると、中間層の生活スタイルが広がり、高校・大学進学者の数も拡大し続けました。このような変化が起きはじめたころ石油を基盤とするアメリカの大衆文化が広がりました。この文化は戦後生まれのベビーブーマーたちの勢いを得て爆発的に膨張していきました。通過儀礼の期間が大幅に延長され始めたのです。

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学校に行かないと社会に出られない時代

学校に行った者は学校教育で本当に大人になるだけの何かを身に付けられたのでしょうか。学校に行かなかった者と行った者との間にある決定的な違いは、行かなかった者の心に住みついたコンプレックスです。「学校に行かなかった」という負い目が彼を支配してしまうのです。

そのうち彼は学校どころか通常の社会生活からも自分を閉ざしてしまいます。やがてこの不幸な物語は家族の間で共有され、家族全員を逃げ場のないところへと追いつめて行きます。悲劇はこうして準備されました。

この自縛から逃れるためにも、「学校という物語」をもう少し考えてみます。


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