V:「生きづらさ」について
女と男と家族と物語
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(1) 「どうしようもないこと」とどう向きあうか

「他人と過去は変えられない。
だけど自分と未来は変えられる。」

人生相談の切り札で、よくそう言われます。くよくよしている人に、出直しを促す気の利いた言葉です。しかし、自分や未来は本当に変えられるのでしょうか。変えられない「他人」や「過去」こそが問題であることも時にはあるのではないでしょうか。

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人は立場を背負って生まれる

この世に生まれてくることについて、人には選択権は一切ありません。誰の子供として生まれるのか。どの時代のどこに生まれるのかもすべては偶然です。普通そう考えます。

しかし偶然ではないのです。本当はその逆です。特定の時代の、特定の土地に、特定の親の子として生まれ、そのなかで生まれ育ったのが自分であって、その逆ではありません。人は立場を背負って生まれてくるのです。

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自分が育った環境は無色透明か

人は生まれ育った環境に適合して育ちます。だとすれば、人にとって環境は無色透明の存在であり、何らそれに違和感を感じたり、疎外感を感じたりしないはずです。水の中で育った魚が水でおぼれないように、私たちにとって、時代や地域は自分の身体の延長のように感じられるはずです。

それなのに、なぜ私たちは自分の環境にストレスを感じ、不満をもつのでしょう。

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環境も自分も変化する

実は環境は変化するものです。そして自分自身も変化します。自然環境も社会も変化します。

しかも、それらの変化は互いにその速さが異なっているため、人は落ち葉のようにその変化の濁流に流され呑みこまれます。ですから、それらの変化との齟齬(そご)を埋めるためにさまざまな物語が求められます。

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「どうしようもないもの」

いろいろな物語を試しても、すべてを説明し切れ、私たちを納得させてくれる物語は、なかなかみつかりません。結局、どうしようもないものが最後に残ります。

この「どうしようもないもの」こそ、本当は大切なことではないか、とも考えられます。この「どうしようもないもの」とは何かをこれから考えてみたいと思います。

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「どうしようもないもの」とは

私たちから環境を見て、それを説明したものが物語(思想・科学)です。物語は言葉ですから、納得ができるまでそれをつくりかえることができます。しかし、私たちの身体や私たち自身のなかに積み重ねられた過去は変えられません。

「どうしようもないもの」とは変化に追いついていけない私たち自身の身体や、過去とつながっています。

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物語になる過去と未来、物語にならない現在

過去に起きたことについては納得できる解釈を見つけることができます。未来についても希望を見つけられることもあります。物語だからです。人が創る必然的な世界です。

しかし、過去と未来に挟まれたこの瞬間、物語にならないこの現在は偶然です。必然にされた過去というという事実と、自由という未来の物語がぶつかり合う現在は、予測不能な他者との戦いの戦場でもあります。

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身体と時代と地域は与えられた条件

私たちが身体を持った瞬間からすべては始まります。その時、自動的に私たちは時代と地域という具体的な条件を背負います。

それはひと言で言えば世界史(人類史)です。生まれた時代と地域によって私たちは世界史的現在という条件を背負うのです。具体的に言うと、食べるもの、着るもの、考え方などなど人として行うすべての流儀を引き受けることになります。それは政治(幻想・観念)と経済(物質・資材)という要素で構成されています。

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「説明できないこと」と「どうしようもないこと」

私たちは納得できないことがあると、「なぜ、なぜ」とその理由や起源を知りたがります。しかし、その答えが得られたとしても、やっぱり最後に「なぜ」が残ることがあります。

それは言葉が飛翔していくときに地上に残した最後の足跡のようなものです。それは、なぜ私はこの世界に存在するのかという問と同じ処から発せられている問なのです。そして、私たちは促されるように「どうしようもないこと」としてそれを受けいれることになります。

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「どうしようもないこと」と習俗

個人として「どうしようもないこと」は社会として見れば、習俗です。「なぜ」の疑問を起源までさかのぼってみても納得できない社会的な決まり事は人びとはそれを習俗として受けいれています。

「そんなくだらないこと」といってそれを排除しようとすると、その由来が謎すぎで危惧を感じてします。なにかとんでもない事態を引きおこしてしまいそうで改めることを躊躇してします。それが習俗です。

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