V:「生きづらさ」について
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(14) 気がつけば、自分も世界史のなかで生きている

「天職」という言葉は、「転職」を前提とする不安定な資本主義の仕組みを補完する物語でした。社会からみれば職業とは配分された仕事のことです。分業ですから、時々の状況に応じ仕事の分け方も変わるものです。流動的な職業の背景を考えてみます。

研究職のつもりで就職したのに営業にまわされた

「理系の学校を卒業し、研究職として採用されたのに人事異動で営業に配転になった。不当だ。」こんな例はよくあります。この訴えが正当なものかは採用決定時の契約内容を見なければ正確なことはいえませんが、よほど優遇された採用でないかぎり、このような訴えは却下されることのほうが多いはずです。

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職種とは企業のなかでの分業

事務・営業・製造・研究開発など企業内でも仕事の内容は部署によって異なります。他の企業との競争によって企業の戦略も変わってきますから、自分が担当する職種(仕事の内容)も変わることは当然あります。企業としても、配転を拒否する社員は解雇せざる得ません。そんな対応すらでできないようでは、他社との競争に敗れかねません。

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分野・部門は社会のなかでの分業

業界不況に陥った造船会社が、溶接の技術を活かしてプールの製造販売をし、やがて自社で魚の養殖をするようになりました。造船マンを誇りに生きてきた技術者が、養殖マグロの営業をする。こんな例はいくらでもあります。

企業も社会が必要としている産業分野で経営しなければ生き残れません。自分が就職した会社がどのような分野に進出し、自分がどんな仕事を毎日することになるかは闇のなかです。

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国際的分業

中国やインドがめざましい経済成長をするようになり、多くの日本企業が経営不振に陥っています。廃業、値下げ、製品の高級化、海外進出、転業、さまざまな経営努力がなされています。かつて日本の自動車産業が急成長したとき、米国の自動車産業の労働者は日本車をたたきつぶすパフォーマンスをTVカメラの前で演じました。

産業の分業は国際規模で変動していきます。中国やインドでおきている経済成長はそのれぞれの国にとっては1000年、2000年レヴェルの世界史的な大変動です。

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見慣れた毎日も世界史の一部

世界史というと、なにか革命や戦争をイメージしてしまいます。それらは教科書の中の話か、冒険家のカメラマンが伝える遠い国の悲劇でしかないと、私たちはつい思いがちです。

しかし、製造から販売に配置転換された年配の会社員、同じ風景を眺めながら、同じ電車に乗って通勤し、同じ仕事を続けているOLの毎日。これらはいずれも21世紀という世界史的現在の一断面です。

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生きていくことは大変なことと覚悟を決めよ

「平穏な毎日」が続けられる人はそうでない人よりはるかに少ないと思います。「平穏」と思っている人の心にも、とどめがたい衝動や尽きない葛藤が訪れる日もあったはずです。あなたの隣人が今まさにそんな状態にあるかもしれません。

そこから大きな悲劇や、長い病が始まることもあります。病気もまた、世界史的な現在の一断面です。直立二足歩行を始めてから人類にとって「生きることは大変なこと」であったのです。それは今も変わりません。

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希望はないのか

原始の時代も現代も何も変わらないのでしょうか。そうではありません。変化のショックを和らげる緩衝装置のような仕組みが社会のなかに形成されてきています。社会保障とか国際的な協力とか不完全ながらも私たちはこれらに助けられていることは事実です。20世紀の歴史はその仕組みを大きく前進させました。

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負のスパイラル

しかし、投機マネーが世界中を駆けめぐり、穀物やエネルギーの価格をもてあそんで利ざやをかせいでいることも事実です。高騰した穀物価格に苦しんで、世界の各地で政変や暴動が起きています。財政赤字に苦しむ先進国では社会保障制度が危機に瀕しています。

人は不安だからより多くの富を求め、孤立すればするほど欲望を肥大させます。それはいっそう貧富の格差を増大させ、社会の亀裂を深め、危機を深刻な規模へと導きます。悪い状況は負のスパイラルを形づくります。

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正のスパイラル

正のスパイラルもあり得ます。信頼できるセーフティー・ネットがあれば、若者は新しいことにチャレンジします。高齢者は安心してお金を使います。子供を安心して育てられる社会であれば消費も増えます。そうすれば雇用が生まれ、新しい技術が育ちます。

生産性が上がれば、みんな豊かになるのですから、その分だけ労働時間を減らすべきです。増えた自由な時間で遊びましょう。義務から解放されて、本当にしてあげたい人のために何かをしてあげましょう。


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