V:「生きづらさ」について
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(13) 仕事を辞めたり変えたりしない方がいいですか

石の上にも3年、と言いますが、やっぱり仕事は変えない方がいいのでしょうか。

転職って、どう考えたらいいのでしょうか。

資本主義は転職を前提とする

資本主義経済は人びとの欲求(需要)に応じて生産が行われます。新しい商品との競争に負け、消えていく職場や職業があるのは当然です。これは市場の競争をとおして決定されます。つまり、資本主義は転職を前提とした経済の仕組みなのです。

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転職にはリスクがともなう

時代遅れになった会社が倒産したり、合理化によって失業すれば、生活がかかっていますからすぐにも次の仕事を見つけなければなりません。

これまでの仕事が時代遅れになってしまったのなら、まったく新しい技術や知識を身につける必要があります。それまでには時間がかかります。若くなければ、新しい環境に対応することも簡単でありません。身につけたからといって、それで新しい仕事に就けるとは限りません。転職にはリスクがともないます。

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転職のリスク

資本主義が転職を前提とする経済システムならば、転職にともなうリスクも資本主義経済の仕組みがケアーする必要があります。確かに、新分野の産業では高い給料で新しい技術者が求められることもあるでしょうが、限られ数の人しかその恩恵には浴せません。

資本主義経済のシステムでは転職にともなうリスクは十分なケアーがなされているとは言えません。

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失業者は生け贄か

グニュグニュとアメーバーのように絶えず形を変えていく資本主義経済はその細胞膜から次々と廃棄物を出し続けています。それは仕事を失い、市場社会から放逐された失業者とその家族たちです。

彼らは、資本主義経済によって見せしめにされた生け贄のような存在です。資本主義経済の内側にかろうじて残されることになった人びとは、生け贄たちの姿におびえながら、日々つらい競争に耐えなければなりません。

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職業に隠されている身分制度

欠乏があれば、人びとは列をつくって順番を待ちます。そこに秩序や倫理が生まれます。また、待遇に格差があれば、職業に上下関係が生まれ、身分が生まれます。「職業に貴賤はない。」という近代社会の倫理は薄っぺらい「うたい文句」になります。職業にともなう微妙なニュアンスはこんなことから生じてきているのでしょう。

ですから、失業した人びとを、この身分制度の最下層におくことは、人間を経済の仕組みに隷属させることにつながります。

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経済の欠陥は政治で補え

資本主義経済の仕組みが失業という欠陥をともなっているとすれば、それは政治の力で補われなければなりません。それを行うのはセーフティー・ネットです。子供・病人・障害者・失業者・高齢者など市場経済の競争では不利な立場に立たざる得ない人びとは、社会全体で支援されなければなりません。

この支援体制が社会的に構築されていれば、転職は飛躍への挑戦の機会となるに違いありません。

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社会の力を借りる仕組みが職業だ

そもそも、社会的分業を意味する職業によって、私たちは個人としての力を何倍にも拡張することができます。画家は絵の具の作り方を忘れてデッサンに没頭し、トラック運転手はエンジンの仕組みを意識しないで安全運転に心がけます。

職業とは社会の仕組みをとおして、自分の力を何倍にも発揮する仕組みです。こう考えると、転職とは個人にとっても社会にとっても、本当はそれぞれの力をより発揮するためのシフトチェンジを意味します。


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