タカラヅカ・ベルエポック〜歌劇+歴史+文化=宝塚 タカラヅカ・ベルエポック U〜宝塚モダニズムは世紀を超えて 津金澤聡廣/名取千里 編著 神戸新聞総合出版センター 1997 210p. [II]神戸新聞総合出版センター 2001 190p ISBN4-87521-244-5 \1700(抜) [U]ISBN4-343-00121-0 \1800(抜) |
■はじめに■
本書の存在は3年ほど前に知りましたが、なかなか読むきっかけがありませんでした。昨年(2004年)は宝塚歌劇団創立90周年の記念の年に当たり、初台の東京オペラシティで「夢みるタカラヅカ展」が開催され、どんなものだろうかと行ってみました。歴史的に貴重な資料も展示されてはいましたが、衣装やポスターなどが多く展示されていて、思うにファンでないとにわかには理解しづらい面が残ったのでした。せっかく足を運んだまでは良かったのですが、こうしたストレスを抱えて帰ってきましたので、それを解消する意味でこれら2冊の本を読み始めたのでした。では、まず目次からご紹介しましょう(これら2冊の図書のうち、実際には2冊目だけに「U」というローマ数字があるのですが、便宜的に1冊目に「T」と付けることにします)。
■目次■
[T] なぜ「タカラヅカ文化」か 津金澤聡廣 2-5 「エコばちゃ」 半生を踊りに、そして宝塚に捧げた“江戸っ子”天津乙女の素顔 鳥居広司 10-18 三十年目の初体験 時岡禎一郎 19-26 宝塚大劇場 被災から復活への舞台裏 白川公一 27-46 宝塚ホテルの阪神・淡路大震災 大井皓二 47-57 宝塚歌劇は文化復興のシンボル 名取千里 58-63 夢に生き、夢を与える 麻路さき×深谷晉 64-79 星組「エリザベート」あれこれ 古川京子 80-84 世界に発するメッセージ 久米川斎 85-88 世の男性諸君よ 宝塚の男役に恋をしろ! 恩知四郎 89-92 我が父 堀正旗の思い出 野添泰男 93-104 堀正旗の作品のことなど 津金澤聡廣 105-111 坪内士行と宝塚国民座 長楽美智代 112-129 宝塚歌劇に永遠の繁栄を 古川明 130-136 「宝塚音楽学校」のこと 杉本和子 137-139 親子四代タカラヅカファン 伊藤栄一 140-141 ムーランルージュの羽根扇 タカラヅカ舞台衣装の原点を探る 徳山孝子 142-151 西洋音楽の窓口としての宝塚歌劇 宝塚交響楽協会の栄光と消長 近藤久美 152-168 なぜかくも宝塚は名を知られているのか 倉橋滋樹 169-177 小林一三と宝塚歌劇 清新にして高尚なる大衆娯楽 津金澤聡廣 178-186 資料1 宝塚国民座上演目録 187-192 資料2 宝塚交響楽協会の公演記録 193-205 あとがき 名取千里 206-210 U まえがき 津金澤聡廣 3-5 「大阪人・上方文化・宝塚歌劇」 黒田清×古川明 10-25 柴苑ゆう 退団後のこと 名取千里 26-40 夏城令 宝塚の思い出 41-44 宝塚歌劇、その演出の妙味を探る 横澤英雄 45-54 白井鐵造とシャンソン 近藤久美 55-67 レビューに見るオリエンタリズム 徳冨奈津子 68-77 鴨川作品の思想と作品 第二作「邪宗門」について 田中加代 78-94 庄野英二と高木史朗の『星の牧場』 高橋美幸 95-104 演出家・小原弘稔の思い出 辻本由美 105-110 宝塚音楽学校の創立と変遷 太田哲則 111-117 宝塚歌劇における脚本公募史 田畑きよ子 118-129 昭和初期の舞台衣装 木下真からの聞き書きを中心に 徳山孝子 130-136 阪急学園そして池田文庫・宝塚文芸図書館 大内昌子 137-149 “日本ジャズの父”井田一郎と宝塚歌劇 時岡禎一郎 150-157 橋詰せみ郎と宝塚少女歌劇 「大阪毎日新聞」との共存共栄 津金澤聡廣 158-169 東京から見た宝塚歌劇 平松澄子 170-172 宝塚歌劇の取材活動 辻則彦 172-175 「宝塚」から見えてくるメディアの視線 畑律江 175-178 写真家・中山岩太とタカラジェンヌ 前田典仁 179-181 時を超えるタカラヅカ 朝日新聞社の保存資料から 石井晃 181-184 宝塚音楽学校関連資料 185-187 あとがき 名取千里 188-190
■内容■
目次を見れば、だいたいの想像はつけられると思いますが、学術的なエッセイあり、元タカラジェンヌへのインタビューあり、宝塚の音楽に関する論考あり、演出に関する論考あり、昭和初期のレビューに関する論考あり、その他幅広く宝塚歌劇団にまつわる記事がさまざまな視点から提示されています。
私自身には「タカラヅカ」体験というものが乏しく、それが文化として血肉になっている感覚はありません。ところが「U」の「東京から見た宝塚歌劇」(p.170-)を読むと、東京では宝塚歌劇を正当な演劇文化として評価せず、したがってメディアでもピントはずれな記事も多かったと指摘し、それにつづけて「圧倒的に影響力を持つマスコミが集中している東京で、このていたらくは哀しさを通りこして憤りすら感じたほどだ」と実に手厳しいのです(ちょっと恐怖感すら覚えました・・・笑)。振り返ってみると、私もまさしく宝塚歌劇に対して先入観をもっていました。それが軌道修正されたのは、ほんの数年前のこと。以前ご紹介した『宝塚戦略』(津金澤聡廣 講談社現代新書)を読んだあとのことでした。
本書に登場するのは、学術的な論考だけに限っていません。率直な体験談や対談なども含まれているのですが、それがまた宝塚歌劇がいかに深く京阪神の人々に受け入れられていたかを想像させてくれます。しかし10年前の大震災で宝塚歌劇がどののような打撃を被ったか、そしてそこからどうやって立ち直ってきたか。1冊目の前半で印象深いのは、こうした関係の記録でしょう。堀正旗、坪内士行などについても興味深く読めました。2冊目の前半では戦前のレビュー華やかなりし頃の記述が目立ちます。たとえば《モン・パリ》とか《パリ・ゼット》とか・・・。この辺りを読んでいるとき、私は新たなストレスを抱えるようになっていました。それは、当時の作品のさわりだけでも音で聴きたいけれど、それができないということでした(それは、本書読了後に奇跡的に解決されました。『宝塚歌劇 戦前編』というCD4枚組が入手できたのです。実はこのCD、いまでは入手できないと思っていたので、ある店で実物を目の前にして信じられない思いでした・・・。これについては、いずれ触れる機会があるかもしれません。ひょっとして、ですけれど)。2冊目の中盤以降は、戦後の宝塚作品も含んで、どのような作品が演じられたか、その意味は何かといった問題が取り上げられています。その後は、目次を参照していただきたいのですが、2冊目の本文の最後の方に、日の丸とナチス・ドイツの卍型の国旗が並べて掲げられ、小林一三が挨拶している写真を見ると、一瞬どっきりしてしまいます。
宝塚を無理に好きになろうなどと言う気は毛頭ありません。しかし、それが生活に根ざしているさまは、いわば宝塚文化圏から離れて暮らしている人間にとっては想像を超えていると思われるのです。主観的・客観的両方の記述がみられる本書は、どうして宝塚歌劇がそこまで影響力をもつのかについて考える際に、示唆に富むヒントを与えてくれるといえるでしょう。
【2005年2月28日】
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