第92回 : 花岡千春ピアノ独奏会〜1930年代日本のピアノ曲の夕べU(津田ホール)

拙HPの「通いコン・・・サート」第65回( こちら を参照 )では、2002年暮に開かれた、このリサイタルのパート1の感想を記しました。そのパート2が去る1月15日に同じ会場で行なわれました。

プログラムは次のとおりでした。

信時潔 組曲《野花と乙女》(1928)
          
1. Allegro 2. Moderato assai 3. Allegretto
信時潔 自作主題による変奏曲(1920)
信時潔 6つの舞踊曲(1932)
          
1. 序曲:遠くの囃子 2. きまぐれ 3. まじめな経緯 4. 田舎囃子 
          
5. 子供まじりの連寿 6. 古風な行列
小倉朗 ソナチネ(1937)
清瀬保二 琉球舞踊(1936)
          
1. Andante 2. Lento 3. Andante
橋本國彦 タンスマニズム(1933)
橋本國彦 小円舞曲(1944)
橋本國彦 おどり(1934)


この日の前半では信時の3つのピアノ作品が演奏されました。3曲からなる《野花と乙女》は、ローベルト・シューマンのピアノ小品に倣って作曲されたそうで、たしかにそうした雰囲気をもった作品でした。《6つの舞踊曲》も、やはり似通った趣をもっていますが、より日本的な印象を与える曲も含まれてきます。ただ、日本的といっても曲の始めから終わりまで五音音階で通すといった単純なつくりにはなっていませんでした。小品の1曲であっても、複数の異なる要素(または小さなまとまり)が含まれていて、それらが対照的な性格をもっていたり、対比の妙というべき結果が生まれたりしていました。そうした要素が絶妙のバランスで構成されているように思えました。このシリーズのパート1でも信時作品は取り上げられているのですが、今回、それとは別の3つの作品を聴いて、ようやくこの作曲家のピアノ作品の魅力を感じ取れるようになりました。この日の一番大きな収穫でした。

後半は、小倉朗の《ソナチネ》から始まりました(端整な作品でした)。次の清瀬の作品は琉球の舞踊の印象を作品にしたというもので、琉球音階も使われている作品だということで、にぎやかな曲になるのかなと思っていたら、たしかにそうなのですが、上品さも失わないで楽しめる作品でした。プログラムのさいごに置かれた橋本國彦の3つの作品も聴きものでした。このリサイタルの当初のアナウンスには含まれていなかったのですが、《タンスマニズム》は1933年に来日したポーランド人作曲家のタンスマンがよく使った手法を採り入れながら作曲した小品とのことです。たとえば、この作品には、なんというか複雑に響く箇所がありましたが、演奏者による詳しいプログラムノートを読むと、それはきっと異なる調整を重ねる手法を使った箇所だったのだろうなどと想像できます。この作品は、たとえば『日本の作曲20世紀』(音楽之友社 1999)には見出せるのですが、じっさいの演奏に接する機会はきわめて珍しいものだと思います。1944年に作曲された《小円舞曲》も面白く聴けました。さいしょに耳に届いた旋律は哀愁をおびた歌謡曲風のしらべでしたが、中間部で感じが変わり、特にその後半では中間部が変容してしまうかと思うほどの変化が楽しめ、さいしょの旋律が戻ってくるという案配でした。戦時中(それも後期)の作品ですから、芸術性よりも分かりやすさを前面に出していかなくてはならなかったかもしれず、仮にそうだとしても、単純に仕上げないところにこの作曲家の面目躍如といった面を感じ取ったりしたのですが、さて「戦時中だから」という、こうした感じ方が適切かどうかは留保つきにしておいた方がよいかもしれません。

このように、発見の多いリサイタルでした。嬉しいことに、花岡さんはこのシリーズを「もう少し続けたいと思っている」とプログラム・ノートに書いていらっしゃいます。すでに次回取り上げる作品の候補もおありのようで、具体的にいつ頃になるかまではわかりませんが、パート3を楽しみに待つことにします。
【2005年1月28日】


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