第93回 : 《ルル》公演(新国立劇場オペラ劇場)

今年2月に上演された《ルル》は、当初、2003年秋に日生劇場で行われた二期会公演と同様3幕版を用いるというアナウンスでした。ということは、少々長丁場になりますから、こちらも体調を整えていかなければなどと考え、楽しみにしていたのです。ところが、1月19日になって「新国立劇場といたしましては高い水準を維持した公演を聴衆の皆様に観劇いただくため、本公演を三幕版から二幕版に変更して公演することとし」たと驚くべき発表があったのです。つまり、3幕版では水準の低い公演しか提供できないというわけです。いやしくも日本のナショナル・オペラ・ハウスですからね、何をか況やです。くどいようですが、冒頭に記したとおり、すでに2003年に二期会が3幕版の立派な公演を果たしています。

よほどチケットを払い戻ししてもらおうかとも迷ったのですが、そこはそれ、前回の二期会公演とは演出家も出演者も指揮者もオーケストラも異なるわけで、やはり見ておこうという結論に傾き、2月11日に行ってきました。主なキャストとスタッフは次のとおり。

ルル : 佐藤しのぶ
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢 : 小山由美
劇場の衣裳係/ギムナジウムの学生 : 山下牧子
医事顧問 : 大久保 眞
画家 : 高野二郎
シェーン博士/切り裂きジャック : クラウディオ・オテッリ
アルヴァ : 高橋 淳 
シゴルヒ : ハルトムート・ヴェルカー
猛獣遣い : 晴 雅彦
力業師 : 妻屋秀和
公爵/従僕 : 加茂下 稔
劇場支配人 : 工藤 博


演出 : デヴィッド・パウントニー
衣装 : スー・ブレイン
美術 : ロバート・イスラエル

指揮 : シュテファン・アントン・レック
管弦楽 : 東京交響楽団


今回の公演では、2幕版のさいごにエピローグを置き、3幕後半をギュッとダイジェストして、すなわちルルとゲシュヴィッツ伯爵令嬢が切り裂きジャックに殺されるシーンを置いていました。これが成功していたかというと、私にはよくわかりません。というのは3幕前半に置かれたパリでのやりとりはすべてカットされますし、同じ幕の後半といっても一部だけが再現される形ですから、もしも初めて見たとしたら筋の流れがわかりづらいことおびただしいに違いないと考えたからです。

さて、このオペラ、ルルと男たち(そう、女性であるゲシュヴィッツ伯爵令嬢も忘れてはいけませんね)との性的なやりとりをどう描くかが大きなポイントになるでしょうが、パウントニーの演出は、いろいろと見せる工夫を凝らしつつ、とても具体的に(つまり、あからさまに)仕上げていました。今回の第一の収穫は、この演出かなと思います。ルルが着る衣装も次々へと替わって、やはり欲を言えば、3幕版で公演が行なわれたならばだんだん貧相になっていくところまで見られたんでしょうにね。今回、私の印象に残ったのは第1幕で画家の妻になったルルが登場した時の衣装です。エルンスト・キルヒナーという20世紀前半にドイツで活躍した画家が描いたような都会的な衣装を身に纏っていました。このほかにも、特徴的な衣装が次から次へと見られたのですが、残念ながらこの種の領域になると私はからっきしダメで、ヴォキャブラリを失ってしまいます。指揮者のレックは、CDでこのオペラの2幕版を世に送っている人で、作品を手中に収めているようでした。オーケストラも好演。

歌手陣ではシェーン博士/切り裂きジャックの一人二役を演じたクラウディオ・オテッリとゲシュヴィッツ伯爵令嬢役の小山由美が歌唱、演技ともにすばらしかく、ことにオテッリには終演後ひときわ大きな拍手が送られていました(納得)。題名役の佐藤しのぶは、演技はとてもすばらしかったですが、声の伸びがいまひとつという感じでした。そのせいか、拍手の大きさも4番手くらいにつけていました。題名役がこれでは、ちょっと寂しい・・・。

新国立劇場には、次回はキャスティングを間違えないで、この作品の3幕版をしっかり上演してほしいものです。
【2005年2月21日】


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