第91回:五嶋みどり+R.マクドナルド デュオ・リサイタル(東京オペラシティ コンサートホール)

五嶋みどりさん。以前から聴きたいと思いながらチャンスを逃していたヴァイオリニストでしたが、このたび初めて実演に接することができました。東京で行なわれたこの2人のリサイタルには、ベートーヴェン、ヤナーチェク、ドビュッシー、ブラームスが演奏されたAプログラムと、現代作品ばかりを集めたBプログラムとがありました。私が行ったのは、1月12日(木)に行なわれた後者です。プログラムは、

ジュディス・ウィア 247本の弦のための音楽(1981)
イサン・ユン ヴァイオリン・ソナタ第1番(1991)
アレキサンダー・ゲール ヴァイオリンとピアのための組曲 作品70(2000)
ジェルジ・クルターク ヴァイオリンとピアノのための3つの断章(1979)
ヴィトルド・ルトスワフスキ パルティータ(1984)


チケット売り出しの時点から予告されていたのですが、Bプログラムには、ちょっとした工夫が凝らされていました。購入したチケットをコピーし、所定の申込用紙に必要なことがらを記し、切手を同封して主催者に宛てて送るとディスクがもらえて、リサイタル当日に演奏される作曲家のことや曲のことがある程度わかるオプションがついていたのです。CDを想像していた私のもとに届けられたのはDVDでした。おかげで、すべて初めて聴く作品ばかりだったのですが、いくらかの予習めいたものが可能となりました。

リサイタルの演奏は、非の打ち所がないものだと感じました。では、同時に聴いた作品についても満足感が得られたかというと、ちょっと微妙でした(汗)。

ジュディス・ウィアは1954年生まれの女性作曲家。五嶋さん自身が書かれたプログラム解説によれば「折衷主義の作品を多く発表している作曲家として、近年のイギリス出身の新進気鋭の作曲家の一人として確固たる評価を受けています」と紹介しています。そうか、50代になって確固たる評価を受け始めていても、まだ新進気鋭と呼ばれる余地ってあるのですね。同年代としては勇気づけられます。それはともかく、この作品は全10曲がほとんど切れ目なく演奏され、演奏時間も約10分という短いもの。曲の区切りは認識できましたし、ヴァイオリンとピアノのデュオ作品であって、ヴァイオリンとピアノが対等の立場で曲をかたちづくっているところまでは感じ取れました(具体的には両者が同じリズムを刻んでいることが多かったように見受けました)が、それ以上でもそれ以下でもなく、なんというかわくわく感とかしっとりした味わいとかといったものが私には残りませんでした。

イサン・ユンのソナタについては、作品の後半に眠気におそわれてしまって、聴けていない部分があります。ですから語る資格なしなのですが、緊迫感にあふれた音楽で始まってヴァイオリンとピアノのやりとりが高まり静けさをたたえて終わったことは、しっかり記憶に残っただけに、将来聴く機会に恵まれたときにはしっかり聴き直したいと思います。
休憩を挟んで、アレクサンダー・ゲールの作品です。2000年にヴァイオリニストのパメラ・フランクのために作曲したのだそうですが、奏者が事故に遭い初演がかなわなかったという作品です。3楽章からなり、全体的にヘブライ風の性質をもっていることが比較的容易に聴き取れました。しかし、先のDVDで作曲者は、すぐにはわからないかもしれないがと断って、ベートーヴェンの《クロイツェル・ソナタ》がピアノの左手の音型とヴァイオリンの音の処理を重ねるところなどでゲールの作品に影響を与えていることを示唆しているのですが、こういうヒントをもらっていても、わかりませんでした(笑)。いろいろな工夫が詰まっていそうな作品ではあるのですが、ヘブライ風の旋律の印象だけが強く残りました。

クルタークのは5分ほどの作品だったでしょうか。ほんとうに短い曲。短いといえばウェーベルンの《4つの小品》を思い出しますが、五嶋さんはプログラム解説の中でクルタークの作品はウェーベルンの作品の対比をし、クルタークの方が試験的な要素が少ないように感じられ、コミュニケートしようとしているようだと書いておいでです。ヴァイオリンの開放弦が多く使われ、しかも抑えられた音量で演奏しなければならないのです。それは見事な演奏でしたが、それにくわえて3つの断章の異なる性格と全体の統一感のようなものを感じ取れればよかったのでしょうが、残念ながらそこまでいたりませんでした。

ルトスワフスキの作品では、ヴァイオリンとピアノが緊迫した音を奏でるところから始まりました。ラルゴの楽章でヴァイオリンとピアノがそれぞれじっくりと聴かせた(ヴァイオリンのハーモニックスなどはきれいで印象的でした)あと、最終楽章へ。第1楽章から第2楽章へ移るときに、また第2楽章から第3楽章へ移るときに、それぞれアドリブ・セクションがおかれています。1984年の作品ですから、もっと早く聴いておけば良かったと感じた作品でした。

現代作品というと、ついその道のスペシャリストが演奏するものと相場が決まりがちですが、五嶋さんの試み、いつかまた期待したい気持ちをもって帰ってきました。
【2005年1月16日】


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