第84回:山田耕筰の遺産〜よみがえる舞踊詩(東京文化会館大ホール)

7月3日(土)の午後、標記の音楽会に行きました。ふだん行くコンサートと違って、今回は舞踊が見られるらしいことと、その作品の作曲者がすべて山田耕筰だという興味も手伝ってのことです。朝日新聞社と日本楽劇協会の主催でした。プログラムは次のとおりで、演出と振付は大島早紀子(H.アール・カオス)さんでした。

■第1部■
1.舞踊詩《彼と彼女》(7つのポエム)
   ピアノ独奏:東誠三
2.舞踊詩《若いパンとニンフ》(5つのポエム)
   ピアノ独奏:東誠三
3.舞踊詩《青い焔》
   ピアノ独奏:東誠三
4.舞踊音楽《鷹の井戸》
   舞踊:白河直子、ピアノ:東誠三、テノール:望月哲也
■第2部■
5.舞踊詩《野人創造》
   舞踊:白河直子、東京シティフィルハーモニック、指揮:矢崎彦太郎
6.舞踊劇《マグダラのマリア》
   舞踊:H.アール・カオス(白河直子、水戸紫乃、小林史佳、斉木香里、泉水利枝、長内裕美)、東京シティフィルハーモニック、指揮:矢崎彦太郎

私は以前、山田耕筰が(たとえて言えば)太極拳でもしているのかと思わせる写真を、何かの資料で眼にしたことがあります。それは、一時興味をしめした舞踊を自ら踊っているところだったように記憶していますが、いまは、残念ながらどの資料にあったと言えません。「なんだろう?」と思って印象にだけは残っていたのですが、まさかその音楽と舞踊までセットにして、実演に接することができるなんて想像もしていませんでした。

1910年にベルリンに留学した山田は、1912年に《序曲》と《交響曲》を書いています。このことは、すでに拙HPの「私のCD棚」でも触れたとおりです(← こちら を参照)。聴く身としては、これらの作品も興味をもてたわけですが、日本にヨーロッパ音楽を根づかせようと考えた山田にしてみれば、この種の音楽は日本人向きではなさそうだと判断したらしいのです。その理由は、日本では、言葉や踊りや芝居や詩と結びついた音楽が伝統となっていたからです。それにくわえて、ベルリン滞在中の山田は言われたことだけおとなしく勉強している学生ではなかったようで、同じ時期にベルリンにいた仲間たちと美術や演劇や舞踊などを見聞きし、議論しあっていたようです。そして、エミール・ジャック=ダルクローズのリトミックの学院を見学して興味を示し、1913年に帰国した後に、劇作家の小山内薫や舞踊家の石井漠らと舞踊詩なるジャンルを開拓しました。

で、話はとびますが、今年の7月3日(土)を迎えました。今回の公演では、1曲目から3曲目まではピアノ独奏のみで舞踊はありませんでした。《若いパンとニンフ》《青い焔》の2曲は、1922年11月19日に東京の帝国劇場で行なわれた「石井漠渡欧記念舞踊公演会」で振付をつけて踊った記録があるだけに、残念な気がしました。前半の最後、舞踊音楽《鷹の井戸》は歌と踊りが加わりました。《鷹の井戸》に限らず、それぞれの作品にはストーリーがあるのですが、《鷹の井戸》につけられた舞踊は、山田が作曲した当時の舞踊のスタイルを踏襲して再現するわけではなさそうで、音楽に触発されたかたちで舞踊家たちによって原作を離れることもあることを示していました。この点は、休憩後の第2部に入っても同様でした。それは、とりわけ白河直子さんというダンサーの能力を最大限引き出すことを考えたときに、ごく自然な成り行きだったのだろうと思われます。

第2部は、オーケストラ伴奏の曲が並びました。オケはオーケストラ・ピットに入っての演奏でしたが、もっともっと音を鳴らして欲しかったです。白眉は、さいごの《マグダラのマリア》でした。まず、5人のダンサーが宙づりになって、音楽に合わせて踊り、そのうちに一人が舞台の袖に引っ込み、代わりに白河さんが出てくるのです。ここからがまた凄く、白河さん以外の4人のダンサーはキャスター付きの長い椅子に乗るような格好をして、ステージから落ちることもなく(万一落ちたら、そこはオーケストラ・ピットでえらい惨事になることでしょう)、舞台狭しと踊り回ります。白河さんも、自分のソロをきちっと決めていました。

それにしても、白河直子さんの舞踊には魅せられました。まずダンスが大胆な動きをともなうことと、さらにいうと鍛え抜かれた肉体美のすごさでしょうか。後者に関していうと、何度か見られたトップレスのシーンで、上半身が逆三角形の筋肉質になっているのです。休憩時簡に女性のお客さん同士で話し合う内容も、まさしくこの点についての驚きを率直に語り合っている声が聞こえてきました。もちろん、それだけでなく、踊りの内容に関して、何度もブラヴォーの声がかかっていました。全体を通して、記憶にしっかりやきつけられる内容でした。
【2004年7月10日+7月12日(一部わかりにくい箇所を削除しました m(__)m )


トップページへ
通いコン・・・サートへ
前のページへ
次のページへ