第85回:東京室内歌劇場《インテルメッツォ》公演(新国立劇場中劇場)

東京室内歌劇場がリヒャルト・シュトラウスの《インテルメッツォ》(台本も作曲者本人)を取り上げました。私は千秋楽に当たる7月19日(月/祝)に見てきました。主なキャストとスタッフは次のとおりです。

演出:鈴木敬介
指揮:若杉弘
バレエ:東京シティ・バレエ団
管弦楽:東京交響楽団
ロベルト・シュトルヒ  多田羅迪夫
クリスティーネ     釜洞祐子
ルンマー男爵      近藤正伸
アンナ         若槻量子
楽長シュトロー     松浦健

このオペラは、シュトラウス自身が経験した実話(夫婦喧嘩)を題材にしています。話はこうです。指揮者シュトルヒの妻クリスティーナは、夫やお手伝いさんのアンナに当たり散らしたり、すぐカーッときたり、気位いが高かったりといった性格の人物です。ある日の朝、クリスティーナはウィーンへ出張するシュトルヒに嫌みを言ったり、お手伝いさんのアンナに当たったりしながら夫を送り出します。留守宅に、1通の手紙が届きます。そこには「愛しのあなた、また明日のオペラのチケットを2枚送ってね。その後はいつものバーで。」と書かれていたのです。妻のクリスティーネは激怒し、すぐさま離婚の準備に入ります。息子フランツに家を出ることを告げに行きますが、「パパはいい人だよ」と言い返されます。夫の裏切り(と思いこんでいるだけなのですが)を嘆くところで第1幕が終わります。

第2幕第1場、場所はウィーン。シュトルヒの友人たちがトランプをしながら、あのカミさんは嫌だよなという会話をするのですが、第1幕を見終わった身としては、とても共感しながら見てしまうシーンです。けっきょく例の手紙は、酒の席だったとはいえ、楽長シュトローから約束を反故にされた女性が、約束を果たさせようと考え、記憶を辿って名前を探し(勘違いでシュトライヒが割を食ったのです)、電話帳から住所を探し出して送りつけたモノだったのです。真実を知って、夫婦は和解し、その2人を息子がそっと見送るところで幕(ラストシーンで子どもを使う演出はなかなか効果的だと感じました)。

クリスティーヌの性格はさきほど書きましたけれど、釜洞祐子さんが演技と歌唱の両面でこのクセのある役をみごとにこなしていらっしゃいました。それもただ上手いというだけではなくて、時にユーモアまでともなわせていたのですから、すごいです。シュトルヒは、なんというか少し得な役にできていると思います。なにせ家族思いで、真面目で、紳士でいう具合ですから、いうことがありません。クリスティーヌに対する愛情の深さもたいしたものなのです。先ほど挙げた第2幕第1場ですが、遅れて登場するシュトルヒは友人たちからしかけられる夫人への攻撃を、しっかりかばいきります。また、さいごに夫婦和解するときにも、夫人に高額な金銭の借り入れを申し込んだ若いルンマー男爵について「お前[=クリスティーナ]にやさしくしてくれたんだろ? 面倒をみてやろうじゃないか」と度量の広いところを見せます。聖人君子という表現がぴったりです。多田羅迪夫さんが、この役を好演なさっていました。でも、シュトラウス自身が台本も書き作曲もしていますから、妻はさておき自分だけ理想の夫像に描いたきらいがないかどうか、疑ってしまいました。もしもそうなっているならば、シュトラウスはちょっとずるいですよね。また、このオペラはオーケストラも難しいように思われますが、その演奏が上手くなければ、いくら声楽陣ががんばってもオペラを見る興味は半減してしまうでしょう。その点、東京交響楽団の演奏は光っていました。

このオペラの題材が夫婦喧嘩だということからか(犬も食わないとされる代物ですから、ちょっとでも覚めた目で見てしまうと面白いと感じられなくなるかもしれないのです)、CDでもサヴァリッシュ盤(EMI)が唯一の現役盤みたいですし、どれほどレパートリーとして定着していくかについてはわかりません。ただ、当日の会場はほとんど座席が埋まっている状態だったように見受けられましたし、プログラム(対訳をつけた力作で1,000円)も開演前には完売、希望者は後日郵送の受付をする、とアナウンスされていたほどでした。この作品には、頻繁にインテルメッツォが挿入され、さまざまな曲からの引用なども多いのです。もし将来見るチャンスがあるならば、その方面もチェックしていきたい、と考えました。
(2004年7月25日)


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