12 日本作曲家選輯 山田耕筰
山田耕筰:
(1)序曲ニ長調(1912)
(2)交響曲ヘ長調《かちどきと平和》(1912)
(3)交響詩《暗い扉》(1913)
(9)交響詩《曼荼羅の華》(1913)
演奏 
ニュージーランド交響楽団(1),アルスター管弦楽団(2)〜(4)/湯浅卓雄 指揮
 [CD]  NAXOS      8.555350J[CD]       ¥1,000(税抜)        
拙HPではNAXOSの「日本作曲家選輯」に含まれるCDが初登場です。これまでになかったいいシリーズですが、たまたま取り上げないまま今回を迎えました。本シリーズの発売順とは違いますが、今回は山田耕筰の管弦楽曲4曲を収めたCDです。上の欄の曲名のさいごにしるしたのは作曲年です。大正のはじめに1年しか時間をおかずに作曲された4曲が収められています。

1912年作曲の《序曲》と《交響曲》はアカデミックな作風、翌年作曲の2曲の交響詩《暗い扉》と《曼荼羅の華》はR.シュトラウスやドビュッシーをブレンドさせたような趣きをもっています。たった1年のあいだに山田に何があったのだろう? と思ってしまいますが、はじめの2曲は山田が留学した学校で書くようにいわれた課題だそうです。それで作風がこうも違うのか、とちょっと肩透かしをくらったような気になりました・・・。

《序曲》は3分30秒ほどの短い曲です。ニュージーランド交響楽団の明るい響きが耳に残ります。一方、交響曲《かちどきと平和》は4楽章からなり、アルスター管弦楽団の落ち着いた響きを聴くことができます。同じ指揮者が振っても、オーケストラが違うとこうも響きが違うものかと実感できます。ただ、交響曲のスコアの始めのほうを見る機会があったのですが、序奏が終わって奏でられる第1ヴァイオリンの動機(8小節)には「sul G」、つまり「G線で」と指定がしてありました。ヴァイオリンで一番低い音がでるG線で第6か第7ポジションまでつかって旋律を歌わせるのですから、山田は太く落ち着いた音色で演奏されることををイメージしていたのでしょう(こうしてみると2つのオーケストラの選択は適切だったといえるのでしょう、きっと)。また解説(片山杜秀氏)によれば、第1楽章の動機の後半には、《君が代》の旋律の一節が(そのままの音型ではないのですが)織り込んであると書いてあります(そういわれて聴かないとわからないかもしれませんが)。山田には、日本人の手になる最初の管弦楽曲と交響曲を書いているのだという自負があったでしょうから、課題として仕方なく書かされたという意識とは違う、もっと創意や工夫を凝らして書こうとしたのだろうと想像しました。

後半に収められた2曲の交響詩は、《暗い扉》は三木露風の同名の詩に、《曼荼羅の華》は斎藤佳三の同名の詩に基づいて作曲されています。死への不安あるいは死に対する諦念がテキストとなった前者、昼に出るべき太陽が夜に輝いているというシュールレアリスティックなテキストをもち、やはり死をテーマとする後者。いずれも大編成のオーケストラのために書かれました。交響詩のもとになったテキストを考えると、山田がアカデミックな書法を横において、世紀末を想起させる作品を書き上げたとしても、理に適ったことのように思えるのです。山田はドイツ留学以前に東京音楽学校で学んでいますが、それにしてもアカデミックな書法の作品と、もっと自由な後期ロマン派的な作品を時間をおかずに書ける能力ってすごいなと感心してしまいます。

NAXOSのこのシリーズでは、以前に橋本國彦の管弦楽作品が話題を呼んだことがありました。私もそのディスクを聴いて驚いた一人ですが、今回のように日本人の手になる最初の管弦楽曲と交響曲を含むディスクを聴くと、こちらも興味津々で聴けます。このシリーズが、より一層充実したラインナップになることを期待しましょう。
【2004年2月1日】


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