第83回:パシフィック・クロッシング2004 アメリカ音楽のあらたな流れ 1 地球音楽への道〜ルー・ハリソンを偲んで(自由学園・明日館講堂)

今年から藤枝守さんを音楽監督に、日米の現代音楽を聴き合うための、パシフィック・クロッシングというコンサートのシリーズが始まりました。実はコンサートの情報誌を見ているときにも、さいしょは見落としていた(失礼)のですが、本番の数日前に偶然気づきました。というわけで、6月29日、池袋と目白のちょうど中間あたりに位置する自由学園の明日館講堂へと出向きました。プログラムは、すべてアメリカの作曲家ルー・ハリソン(Lou Harrison 1917-2003)の作品が特集されました。次のような内容です。

1.ルー・ハリソン:エヴリン・ヒンクセンのためのワルツ(1977)
サラ・ケイヒル(ピアノ)
2.ネック・チャンドからのシーン(2001−2)*日本初演
1.もたれかかる女性−2.岩の庭−3.ぶらんこのついたアーチのある入り組んだアーケード
ディヴィド・タンネンバウム(ナショナル・スチール・ギター)
3.ラルゴ・オスティナート(1937/1970改訂)*日本初演
ディヴィド・タンネンバウム(ギター)
4.サマーフィールド・セット(1988)
1.ソナタ−2.グランド−アレキサンダーの勝利のためのラウンド
サラ・ケイヒル(ピアノ)
(休憩)
5.エヴリン・ヒンクセンのためのワルツ(ギター編曲:ディヴィド・タンネンバウム)
ディヴィド・タンネンバウム(ギター)
6.嘆きの歌(1978)
7.ワルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの《パレスティナの歌》による変奏曲(1978)

ディヴィド・タンネンバウム(ギター)
8.セレナード(1978)
1.ラウンド−2.エア−3.無限カノン−4.ウスル・・・スィナンへの小さなオマージュ−5.オマージュ
ディヴィド・タンネンバウム(ギター)、高田みどり(打楽器)
9.ヴァリッド・トリオ[さまざまなトリオ](1986)
1.グンディン−2.ボウル・ベル−3.悲歌−4.フラゴナールを讃えるロンドー−5.舞曲
サラ・ケイヒル(ピアノ)、ディヴィド・タンネンバウム(ギター)、鈴木理恵子(ヴァイオリン)、高田みどり(打楽器)
(アンコール)Reel for Henry Cowell 
サラ・ケイヒル(ピアノ)

これだけ盛りだくさんのプログラムでしたが、比較的短い曲が次々と演奏され、しかも聴きやすい作品が揃っていました。ですから、どれも飽きずに聴き通すことができました。作品は、ギターの調弦を変則的にして、わざと「調子外れ」の音階が響いてくるものもあれば(《ネック・チャンドからのシーン》)、ミンネゼンガーの歌を土台にしたものもあり(《嘆きの歌》《ワルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの《パレスティナの歌》による変奏曲》)、知人のための音楽もありました(《エヴリン・ヒンクセンのためのワルツ》《サマーフィールド・セット》)。作品を書く際の視野の広さが感じられ、しかもそれらが楽しめる作品に仕立てられているようで好感を持ちました。不思議なことに、仕事が終わって少々疲れて会場についたはずなのに、演奏を聴いているうちに疲労回復がすすみ、元気を取り戻して家に帰りました。

この日、もっとも興味深く聴いたのは《ヴァリッド・トリオ》でした。この作品の第1曲はステージ上にピアニストとヴァイオリニスト、ステージの後ろにヴィブラフォン奏者がいて、冒頭、ピアノの内部奏法とヴィブラフォンの音が会場の前後からダブってきこえて演奏が開始されました。この作品を構成するすべての曲がこの編成あるいは場所の配置で演奏されるわけではないのですが、いずれにせよ、ライヴでなければ味わえない醍醐味をもった作品でした。第5曲のさいご、打楽器がほかの2人よりも少しばかり先に終わってしまうアクシデントもありましたが、この曲の良さを伝えてくれたことに違いはありませんでした。

私が足を運べたパシフィック・クロッシングのコンサートは、この日だけでしたが、来年以降もできるだけ息長く続いていってほしいと思います。
【2004年7月7日】


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