第47回 : 日伊現代音楽フェスティバル 第5夜(東京芸術劇場大ホール)

6月27日(水)、「日本におけるイタリア2001」の一環として行なわれている日伊現代音楽フェスティバルから、その第5夜、トスカーナ・オーケストラのコンサートを聴きに行きました。このフェスティバルの第4夜から第6夜はオーケストラの演奏会ですが、各回ともパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール優勝者を招いてプログラムを組んでいるのも特徴で、第5夜は庄司紗矢香さんが登場しました(ちなみに第4夜はジョヴァンニ・アンジェレーリ、第6夜はビン・ファンとゲストは日替わりになります)。まずはプログラムからご紹介しましょう。
ルチアーノ・ベリオ ソロ 〜トロンボーンとオーケストラのための(1999)
  クリスチャン・リンドバーグ(トロンボーン独奏)
ニッコロ・パガニーニ イ・パルピティ
  庄司紗矢香(ヴァイオリン独奏)
ニッコロ・パガニーニ <庄司紗矢香アンコール>
「ネル・コル・ピウ」による変奏曲 (この曲のみヴァイオリン・ソロ)
フランツ・シューベルト /ルチアーノ・ベリオ レンダリング(1990)
トスカーナ・オーケストラ  ルチアーノ・ベリオ(指揮)
私はトスカーナ・オーケストラ(ORT-Orchestra della Toscana)って今回初めて知りました。1980年にできた比較的若いオーケストラで、 1983年にルチアーノ・ベリオが芸術監督として迎えられました。レパートリーはバロックから現代作曲家の作品まで幅広いといいます。

第1曲の《ソロ》は、トロンボーンとオーケストラが同時に音を鳴らしつつも、それぞれが異なった道を進んでいくもので、決してお互いが”話し合う(トークする)”ことはないといいます(と、このあたりはプログラムの曲目解説から得た知識です・・・)。なるほど、そうかと思いながら聴いていましたが、オーケストラの第1トロンボーンがトロンボーン独奏の向うを張って活躍する箇所もありました。クリスチャン・リンドバーグの妙技は相変わらずで、この人の独奏を堪能することができました。

さて、ヴァイオリン独奏に庄司紗矢香さんが登場です。パガニーニが、ロッシーニの《タンクレディ》からアリア<こんなに胸騒ぎが>の旋律をテーマに作曲した変奏曲が演奏されました。オーケストラは1曲目とは打って変わって、完全にイタリア・オペラのアリア伴奏のモードに切り替わっていました。独奏ヴァイオリンも、この曲をよくこなして、聴いていて楽しめました。

私にとって当夜の一番の贈り物というのは、その後に演奏された庄司さんのアンコール演奏でした。15分ほどかかる無伴奏の曲ですが、パイジェッロの《水車屋の娘》の<わが心もはやうつろになりて>による変奏曲が聴けたのです。これがまた立派な演奏で、大きな拍手が送られたことは言うまでもありません。

休憩後演奏された《レンダリング》は、こういうアイディアの曲もあるのか、という感じの作品で特に好き嫌いが言えるほどの作品ではありませんでした。これはシューベルトが亡くなる前に書き留めた第10交響曲のためのメモをもとに、ベリオが修復をしたというものです。もともとのシューベルトの草稿は、ほとんどピアノ曲のような書き方だそうです。そこはベリオのオーケストレーションによって音になったのですが、興味深かったのは、スケッチとスケッチの間の空白の処理です。そこはチェレスタとオーケストラで進行していくのですが、動画にたとえて言うならば、それまで輪郭がはっきりとわかる画面だったものが急にモザイクがかかったような感じということもできるでしょうし、あるいは現実と夢を行ったり来たりできるとするならばこんな感じかな、とも言えます。チェレスタとオーケストラが鳴らしている音は、その前後とどういうつながりがあるのか私にはわかりませんでした。無理に推測して、シューベルトならばこのように作ったろうと処理していないのですから、わからないというのは、ある意味で自然なのかもしれません。全3楽章を通して、同様でした。自分からもう一度聴きたいとまでは思えない作品でした。
【2001年6月28日】


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