第39回 : 清瀬保二生誕100年記念演奏会 第2夜 (津田ホール)

2001年2月27日(火)、津田ホールで行なわれたコンサートに行ってきました。私は6時35分頃、つまり開場約5分後にホールへ着きましたが、この時点で、すでにかなり席が埋まっていました。このコンサートの第1夜は、昨年12月6日(水)に東京文化会館小ホールで行なわれましたが、そういえばその時も、開場時から観客が列をなして入場の順番を待っていたのを思い出しました(私もその列にいました)。まず、27日のプログラムからご紹介しましょう。

◆ 第2夜 プログラム (2001年2月27日) ◆
T.ピアノ曲 (ピアノ 志村泉
  丘の春(1932) / 琉球舞踊より(1936) T・U / 第二ピアノ曲集より[T アンダンティーノ(1937)
  U ブルレスケ(1937) V エチュード(1940)] / 舞曲二曲より(1934) T
U.歌曲 
(メゾソプラノ 佐山真知子、ピアノ 志村泉)
  巣を失った雀(1965) 郭沫若(須田禎一・訳) / 私が一番きれいだったとき(1966) 茨木のりこ
V.ヴァイオリンとピアノのための二楽章(1960) 
(ヴァイオリン 手島志保、ピアノ 志村泉)
W.尺八三重奏曲(1964) 
(尺八 三橋貴風、添川浩史、加藤秀和)
X.弦楽三重奏曲(1949) 
(ヴァイオリン 手島志保、ヴィオラ 東義直、チェロ 平田昌平)

ピアノ曲は、すべて戦前の作品でした。《琉球舞踊より》がいかにも琉球を思わせる音階を用いた作品ですが、ほかは五音音階を用いたり、《ブルレスケ》のように少ない音でシンプルに書かれた短い作品であったりしました。清瀬が心がけたという単純さがそこにあった、といえるのでしょうが、20世紀も後半に生まれ、生活の時間のテンポも早くなった社会で育ってきた私のような人間(中年のおじさん!)からみると、作品の持つ単純さが、時として退屈につながる瞬間があったのも正直なところでした(同様のことは、第1夜のコンサートでも感じました)。もっと若い人たちは、どう感じるのでしょうね(もちろん個人差は大きいでしょうけれど)。《ヴァイオリンとピアノのための二楽章》の冒頭、ノン・ヴィブラートでヴァイオリンが歌いだす作品でした。そうした演奏を、はじめのうち面白く聴いていました。それにしても、途中からヴァイオリン奏者が弾きにくそうにしていたと感じたのは私だけでしょうか? 

『清瀬保二著作集』という本の中で清瀬が繰り返し述べていたことは、自分たちが生きている日本という場で、自分で考え、単にヨーロッパの模倣に終わらないように創造的な作品を作っていこうということでしたが、その結果「日本的」という言葉が何度も使われていました(「私の本棚」No.12参照)。しかし、その「日本的」という言葉は、国粋的な狭い意味でないことも再三にわたって述べられていました。第2夜だけでなく第1夜も含めて、そうした清瀬の作曲に対する姿勢は充分に伝わってきたと思います。

コンサートに話を戻すと、《尺八三重奏曲》以降が第2夜の後半のプログラムでしたが、この三重奏曲こそ、恐らく当日一番大きな拍手が送られた作品だったでしょう。編成じたいのユニークさと出てくる音の面白さという点では、この夜のプログラム中、郡を抜いていたと思います。また、邦楽だから、といった気負いもまったく感じさせないものだったと思います。私には、後半のプロが前半とは作品がずいぶん違う響きに聞こえました。前半のプロで戦前のものというのは、せいぜいピアノ曲だけなのに、ちょっと不思議な気がしています。後半は2曲とも、速い―ゆっくり―速い、という3楽章構成なのですが、書法そのものが清瀬が強く意識してきたという「日本的」な性格を色濃く反映しているとは感じられませんでした。むしろ、日本的な作品が多い清瀬であっても、ヨーロッパ音楽のオーソドックスな書法に近い作品もあるのだと認識させてくれたように思います(違うかな?)。それだけ、創作の幅の広さがあったのだと考えることもでき、興味深く聴き入っていました。前半と後半の響きの違いは、結果的に楽しめたと言えますね。

日本人作曲家で生誕100年を祝える人が出てきて、しかも、個々の作品の個性を充分に伝えられるコンサートの企画だったと思います。2晩とも出かけてよかったな、と思っています。最後に、昨年12月のプログラムも併せてご紹介して、終わりましょう。

◆ 第1夜 プログラム (2000年12月6日) ◆
T.第一ピアノ曲集より (ピアノ 小賀野久美)
   小組曲(1931)[1 耳語 2 行進曲 3 おわかれ]
U.歌曲 
(バリトン 竹澤嘉明、ピアノ 遊間郁子)
   啄木歌集より(一握の砂・悲しき玩具)
      第一集 東海の(1927) 砂山の(1923) はたらけど(1929) 友よさは(1946) いつとなく(1927)
     第二集 意地悪の(1950) かくかくに(1950) さらさらと(1950)
   園丁より(1929) タゴール(前田鐵之助・訳) / 螺旋人形(1932) 佐伯郁郎
V.第一ヴァイオリン・ソナタ(1943) 
(ヴァイオリン 手島志保、ピアノ 小賀野久美)
W.歌曲 
(メゾソプラノ 青山恵子、ピアノ 遊間郁子)
   土の歌より (中村孝助)[人の世の 繭安く うたたねの 春ひとり 疲れたと(1946-47)] /
   嫌な甚太(1928) 山岸曙光子 / 子守唄「天の童子」(1928) 前田鐵之助
   養老飴屋(1930) 前田鐵之助

X.木管とハープのための五重奏曲(1957) (フルート 野口龍、オーボエ 江原泰子、クラリネット 兼家康雄、ファゴット 霧生吉秀、ハープ 木村茉莉)
Y.男声合唱曲 
(合唱 東京男声合唱団、ピアノ 久山治美、指揮 宗像和)
   くらかけ山の雪(1959) 宮澤賢治 / 蛇祭り更新(1954) 草野心平 / 球根(1951) 岡本廣司

【2001年2月28日】


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