第38回 : 日本の女性作曲家展(東京文化会館小ホール)

2月3日(土)の午後、東京文化会館小ホールで行なわれた、女性と音楽研究フォーラム主催の「日本の女性作曲家展」に行ってきました。今回取り上げられた作曲家は、松島彜[つね](1890-1983)、金井喜久子(1906-1986)、吉田隆子(1910-1956)、渡鏡子(1916-1974)という4人。いずれも戦前から活躍していた先達の皆さんですね。この4人の歌曲を集めてコンサートの第1部が、渡を除く3人のヴァイオリンとピアノ作品で第2部が構成されていました。プログラムは次のとおりです。

第1部 歌曲
ソプラノ:福成紀美子  ピアノ : 花岡千春
松島彜 : 春のあした(1916) 尾上柴舟 詩
松島彜 : 真珠(1943) 竹内俊子 詩
松島彜 : オレンジの色(1931) ハイネ 詩/尾上柴舟 訳詞
金井喜久子 : ハイビスカス(1957) 川平朝申 詩
金井喜久子 : 山もも(1951) 矢野克子 詩
金井喜久子 : ふるさと(1947) 伊波南哲 詩
金井喜久子 : 東西東西(作曲年不明) 岸和一郎 詩
渡鏡子 : モクマオウの街(1972) 江間章子 詩
渡鏡子 : 野原に寝る(1953) 萩原朔太郎 詩
吉田隆子 : 組曲《道》
        1.樹(1946) 中村敏江 詩 / 2.鍬(1932) 中野鈴子 詩 /
        3.頬(1947) 竹内てるよ 詩 / 4.手(1936) 小倉雪江 詩
第2部 ヴァイオリンとピアノ作品
ヴァイオリン : 若林暢  ピアノ : 小柳美奈子
松島彜 : プレリュード(1924)
松島彜 : ファンタジー(1922)
金井喜久子 : 琉球舞踊曲《月夜の乙女たち》(1940/47?) ←この作品のみピアノ作品
金井喜久子 : ヴァイオリン曲 其ノ一( 1949)
吉田隆子 : ヴァイオリン・ソナタ(1952)

以上、正規のプログラムに加えて第1部では渡の《ある日海辺で》と《ママの立ち話》が歌われましたし、第2部では吉田の曲が1曲演奏されました(曲名、ききそびれましたm(__)m)。

全体的に楽しんで聴きましたが、とりわけ第1部の歌曲がとても良かったです。冒頭の《春のあした》を聴いたときは、唱歌風の作品が並ぶのかなと一瞬不安になりましたが、松島作品は、いわばおとなしいものから変化の多いものへと3曲が配されていました。金井作品は、沖縄音階に彩られた独特の味わいを持ったものでした。作曲年不明の《東西東西》も戦後の作品には違いないですね。それというのも<エトロフ[だったかな?]返してくださいな>とか<沖縄返してくださいな>という歌詞が歌われていましたから。渡は、比較的長めの曲が演奏されたとはいえ、「これっきり?」という気持ちが正直言って残りました。それを第1部のアンコールは見事に解消してくれて、《ママの立ち話》に見られるユーモアなどは強く印象に残りました。吉田の組曲は、ご覧のとおり作曲年の幅がかなりあります。しかしひとたび組曲となると、第3曲の<頬>と<手>は合間を置かずに演奏されていました。歌手とピアニストのどちらも素晴らしく、配布されたプログラムに歌詞が掲載されていないにもかかわらず、聴いているだけでも、かなり充分に聴き取れ、4人それぞれの歌曲の世界に引き込まれました。

第2部が始まっても、私にはまだ第1部の印象が強く残っていました。そのこととも関係するのでしょうが、第2部で演奏された作品に面白味を感じたかと言えば歌曲ほどではありませんでした。たとえば松島の2曲はどちらも生真面目ではあっても変化に乏しく、強いて言えばちょっと退屈しました。金井作品にしても沖縄音階を多用していますけれど、さほどインパクトを感じませんでした。3楽章からなる吉田のソナタにしても、第1部の組曲の印象が強烈で、損をしているように思いました。私は、第2部では演奏家を楽しみました。若林暢さんは前から一度聴いてみたかったのですが、聴けて良かったと思います。さいきんは室内楽にも力を入れているご様子ですから、機会があればそちらに足を運んでみようかなと考えながら帰ってきました。
【2001年2月3日】


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