第4回 : オペラ『脳死をこえて』(東京文化会館大ホール)

6月26日(土)。東京文化会館リニューアルオープン記念事業の一つである東京室内歌劇場公演、オペラ『脳死をこえて』を見に行きました(大ホール)。午後3時の開演でしたが、この日はオペラだけでなく、午後1時30分からフォーラム「脳死移植の幕開け」もありました。私が到着したのは、午後1時25分頃のことでした。
この作品は、原作が藤村志保、作曲は原加壽子の手になります。演出は栗山昌良が担いました。原作者は、十数年前にレシピエント同士のソフトボール大会を見て心を動かされ、脳死のことを調べ始めたそうです。作曲者は、その原作を読んで感動しオペラ化したそうですが、臓器移植を進めるために作曲したわけでないと明言なさっていました。何度めかの上演になるそうですが、オペラのビギナーに属する私は、今回が初めて。とても衝撃的な作品でした。

1幕。能管と打楽器が奏でる、ゆったりとしたお囃子が聞こえてきます。祇園祭が近づく京都です。しばらくやりとりがあって、電話が鳴ります(ベルの音もアンサンブルが演奏します!)。森子のもとに夫・栄一の交通事故の知らせが届き、かけつけた大津の病院で、医師から"ほぼ「脳死」"だと告げられ、植物人間と脳死の違いも説明されます。
2幕。京都の病院に栄一を移した森子は、そこで夫の脳死を宣告され、臓器移植(角膜と腎臓)を考えて欲しいと言われます。苦悩のすえ、森子は夫の臓器提供を決意します。
3幕。四国に住む腎臓移植適合者第一位の子どもは、海が荒れて病院へ行けません。父親の訴えに心を動かされた男が命がけで船を出し、その子は病院に間に合います。父親が船の上で打ち鳴らす団扇太鼓の音が強烈な印象を与えます。病院に控えていた第二位の適合者との明と暗が描かれ、エピローグへ。再び祇園囃子が聞こえます。さいごは子守唄で静かに幕を降ろします。

オペラは幕間の休憩を入れずに一気に演奏されました。題材としては異例のものでしょうが、岩井理花(森子)と久岡昇(重松医師)らの熱のこもった歌唱や、星出豊指揮のソナス・アンサンブルの演奏にも支えられて、見終わってみるとずっしりとした充実感が残りました。同時に「さて、あなたは脳死と臓器移植について、このあとどう考えますか?」と宿題が残されたようで、何か考えさせるヒントをたくさん与えられたオペラだったように思います。ちょうど、同じ作曲家の手になる『祝い歌の流れる夜に』のように…。

さて、宿題と受け止めた問題は、自分なりに考えてみようと思います。近々、脳死と臓器移植について「コーヒーブレイク」で取り上げられたらいいな、と考えています。オペラ上演に先立って行われたフォーラム、その翌日インターネットで探して読んだ高知新聞の記事などに参考になることがありました。それらをもとに考えたことをまとめてみましょう。
【1999年6月29日】


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