第86回:ピカソ展−躰とエロス(東京都現代美術館)

今秋は、ピカソの展覧会が2つ日本で開かれていますね。ひとつは以前拙HPでもご紹介した「ピカソ 幻のジャクリーヌ・コレクション展」(→ こちら を参照)でした。現在、この展覧会の会場は、すでに損保ジャパン東郷青児記念美術館から千葉県佐倉市にある川村記念美術館に移動しています(2004年12月23日まで)。そして、いまひとつが今回のピカソ展で、サブタイトルに“躰とエロス”とあります。9月18日(土)から始まっている本展の会期は12月12日(日)まで、休館日は毎週月曜日です。観覧料は一般(当日)1,300円となっています。

会場の内部は、次の5つに区分けされていました。

01. 身体と変容
02. アトリエ:画家から彫刻家へ
03. 肉体の賛美
04. アナトミーとカップル
05. 闘牛:愛と暴力のかたち


展示されている作品の多くはパリ・国立ピカソ美術館( http://www.paris.org/Musees/Picasso/ )が所蔵するもので、ピカソの1925年から1937年にかけての約160点を見て回ることができます。うち、日本初公開が94点も含まれているというのですから驚きました。

「01. 身体と変容」では、《青いアクロバット》(1929年、油彩/カンヴァス)の前で足が止まってしまいました。縦162×横130cmという画面の背景は薄いグレー、そこに水色の肉体をもった人間らしきものが描かれています。顔、長い首、足と手があるべき場所に描かれているわけではないのですね。首に直結しているのが足だったり、胴体から下の箇所に伸びているのが手だったりするのです。思い切り単純化された絵となっています。身体の配置については、思わず見間違いではないかとわが眼を疑い何度も見てしまいました。グロテスクで気味悪いと感じるか、どこか憎めないユーモアのようなものを感じるかと問われれば、私は後者だと答えます。日本初公開だそうです。

本展で見られる丸みを帯びた身体をもった女性は、1927年にピカソ(当時45歳)が出会ったマリー=テレーズ・ワルテル(当時17歳)です。すでに20年代半ばまでに妻オルガとの関係は悪化していました。オルガとキスする絵を描いたときでさえ、オルガが歯をむいている作品があることは「ピカソ ジャクリーヌ・コレクション展」のページで触れたとおりです。マリー=テレーズと出会って数年間、作品に見られるかたちはねじれたり、解体されたりしているようですが、1930年代前半には彼女をモデルとした作品が数多く残されるようになりました。「03. 肉体の賛美」では、1932年から34年までの二人がもっとも親密だった時期の作品群が見られます。《庭の中の裸婦》(1934年)は、ムーミンみたいに見える、それでいて恋人の肉体を賛美するピカソの作品なだといいます。なんというか、エロスを感じるというよりも、ほんわかとした気分にさせられてしまって肩すかしを喰った(?)ようにさえ思えます。

「04. アナトミーとカップル」に進みましょう。1930年代にはいると、ピカソは頭、乳房、胴、四肢などを一度解体させ、そのあとで再合成するようになります。見ていくと、これが顔、これが眼、これが女性の胸(リンゴのように単純化して描いています)、手足などと見分けがつけやすく、その点先に挙げた《青いアクロバット》とは大きく異なるのです。その一例として《海辺の人物たち》(1931年、油彩/カンヴァス)を挙げておきましょう。これも、なんだかユーモラスでいいです。

「05. 闘牛:愛と暴力のかたち」は1933年から37年にかけて描かれた、闘牛やミノタウロスを主題にした数多くの作品を集めた章でした。ミノタウロスはピカソ自身だといいます。閨房での男女の営みを描いた作品も多く見られましたが、暴力的なそれを描いた作品とそうでないものとを見分けようとしながら歩きましたので、けっこう疲れました・・・。

見応えのある展覧会になっていました。なお、本展のサイトは

http://www.p-forme.jp/

にあります。参考になると思いますよ。
【2004年11月19日】


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