第84回 : ピカソ展 幻のジャクリーヌ・コレクション(損保ジャパン東郷青児美術館)

標記の展覧会が開催中です。会期は10月24日(日)まで。休館日は月曜日。ただし、10月11日(月)は開館します(翌12日(火)も開館)。あ、それから10月1日(金)は「お客様感謝デー」として無料開館するんだそうです。入館料は一般1000円です。

ここ数年開催されてきた日本におけるピカソの展覧会は、テーマがはっきりしたものが多かったと思います。たとえば「ピカソとこども」であったり、「天才の誕生」と題して少年期の作品群を集中的に見せたり、「1914年−25年」のそれであったりという具合です。しかし、今回はピカソのさいごの20年をともに暮らした2番目の妻ジャクリーヌの手許に残ったコレクションから、キュビズム時代から晩年にいたる油彩画約60点(人物画が中心)と彫刻、水彩、素描を含んで約120点が日本にやってきました。特別なテーマが設定されているようには見受けられませんでした。

本展覧会のちらしを読むと、これまで「ジャクリーヌ・コレクション」の全貌は非公開で、その作品群は門外不出とされてきたという内容の記述がありました。その前半は「そうだったのか」と思って読みましたが、後半の門外不出の箇所では思わず首をかしげてしまいました。というのも、瀬木慎一著『ピカソ』(集英社新書 2003)[→ この本については、こちら も参照してください]によれば、ピカソの死後、カナダのモントリオールとスイスのジュネーブでコレクション展を催したとあるのです。そして、1986年当時、このコレクション展が日本に来る計画もあったというのです。なぜ、それが実現しなかったかというと、この年の10月、ジャクリーヌがピストル自殺を遂げたことと関係しているのでしょう。ひょっとすると、それ以後、コレクション展が容易に行えないようになっていたのかもしれませんね。ともあれ、日本では初の「ジャクリーヌ・コレクション」展です。

さて、展示された作品から、興味をもって見た作品をいくつか挙げておきましょう。まず、同じ年に描かれた2つのキスの絵。一つは《赤い背景の接吻》(油彩/カンヴァス 1929年)。もう一つは《接吻》(油彩/カンヴァス 1929年)。前者はキスするうちの一人(さいしょの妻オルガ・コクローヴァらしい)が、なんと歯をむき出しにしています。といっても、思い切って抽象化してありますからユーモラスでさえあるのですが、虚栄心が強かったらしいオルガとピカソは、当時冷え切った関係にあり、どうもそうした事情がこうした作品になってしまったようで・・・。それに対して後者は(これも抽象化されていますが)もっと穏和です。このキスの相手は、オルガではなく、当時すでにピカソの心を捉えて離さなかったマリー=テレーズ・ワルテルでしょう。制作年代はいっぺんにとびますが、《トルコ風の衣装をまとうジャクリーヌ》(油彩/カンヴァス 1955年)や《緑色と黄色の帽子をかぶった座る女》(油彩/カンヴァス 1962年)の2点も、その色づかいや画面構成などに惹かれながら見ることができました。《座る恋人たち》(油彩/カンヴァス 1970年)。この作品までくると、制作年代(つまりピカソの年齢)のせいか、タッチが太くそしてやや大まかな印象を受けます。ただ、それにしても作品がもつユーモアや生命力には衰えを感じることがなく、驚嘆してしまいました。好企画だと思います。
【2004年9月29日】


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