第83回:RIMPA展(東京国立近代美術館)

8月21日にスタートしたこの展覧会の会期は10月3日(日)までで、途中、作品が2〜3回展示替えされます。9月13日(月)のみ展示替えのため休館しますが、ほかの日は会期中無休(!!)。観覧料は一般(当日)が1300円で、時間に余裕をもって行くと、同じ日に常設展も見られます。今回は、まず会場の構成からご紹介します。

T.光琳−−近代が再発見した日本美
U.宗達・光悦−−芸術における個性と統合
V.江戸から明治へ−−抱一・其一を中心に
W.琳派の近代−−菱田春草から加山又造まで
X.RIMPAの世界−−きらめき・型・反復


以上です。ただ、会場に足を踏み入れてすぐに見られる作品は、実はクリムトの《裸の真実》(1899年)という軸風の絵なのです。構成を見ても、歴史的な順を追って展示していないセクションがあります。それは、「T.光琳」と「U.宗達・光悦」。琳派が歴史に登場してきたときの画家は宗達で、光悦とのコラボレーションでも知られています。活躍の場は、徳川幕府草創期の京都でした。尾形光琳(1658〜1716年)は、その生年を見てもわかるとおり、17世紀後半ですね。そして京都で消え去ろうとしていた宗達風の絵や光悦風の書を試みて、琳派を確立させたのが光琳でした。

では、本展がなぜこういう構成になったのかというと、明治になってさいしょに再発見された琳派の画家が光琳だったからのようです。次いで大正時代になると、宗達や光悦の芸術が再評価されるにいたったというのです。さらに、昭和にはいるころまでに、江戸で光琳画風を継承した酒井抱一や鈴木其一らの芸術が再評価されました。また、琳派の芸術に刺激された日本の画家たちが琳派的な作品を生み出していきましたし、海外にも琳派的と呼べる作品が生まれるようになりました。つまり、琳派を近代の眼から捉えなおしてみよう、そんな試みをしているのです。だからこそ、日本美術に数えられる琳派をあえて東京国立近代美術館でとりあげたのですね。

印象に残った作品に移りましょう。

光琳からは《風神雷神図屏風》(18世紀/江戸中期)をとります。右手の風神と左手の雷神のユーモアにあふれた表情と、屏風全体から伝わってくる力感が好ましく感じられました。宗達からは《牛図》(17世紀/桃山−江戸)。水墨画なのですが、なによりも描かれた動物がかわいらしく、そして墨のにじみを巧く利用した「たらしこみ」という技法が使われています。光悦からは《樵夫蒔絵硯箱》(17世紀/桃山−江戸)を挙げておきましょう。その蓋は高く盛り上がっていて、斜めから見ると何が描いてあるんだろうと思ったのですが、うえから見ると樵夫(きこり)でした。これは、蓋を開けてずらして置くと、箱の内側に蕨と地面が描かれていて、それが蓋の樵夫があるいている地面と連なっているという趣向が凝らされています。「きこり」が描かれたのはなぜだろう、と思いますが、物語に取材したものだとか自画像だとか複数の説があるようです(残念ですが、この硯箱の展示期間は9月6日までです)。「V.江戸から明治へ」は省略して、「W.琳派の近代」からは菱田春草の《落葉》(1909年 永青文庫蔵)で、これも9月6日までの展示。ただし7日以降は菱田春草の同名で異なる作品《落葉》(1909年! 福井県立美術館蔵)が展示されるようです。どう違うかも興味ありますが、私が見たものは、画面全体は遠近感にやや乏しいものの、画面の前面のほうに描かれた落葉は、手前のものと少し置くにあるものとが見て取れるような気がするのですが、あるところから先、遠近感は一切なくなるような感じでした。しみじみした印象が好ましかったです。

私は、遠近感に乏しい平面的な絵を見るのは苦手ですが、今回の企画展は、「たらしこみ」技法などを使って描かれた水墨画の柔らかさ、デザインの面白さなどなど、飽きずに見て回ることができました。ただ、「X.RIMPAの世界」でクリムトやらウォーホルなどの作品が琳派に関連する脈絡のなかで展示されているのを見ると、少々不思議な感覚にとらわれつづけました・・・。
【2004年9月4日】


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