ピカソ 
瀬木 慎一 著
集英社新書 (2003  217p
.)
ISBN 4-08-720206-2  ¥680(+抜)


■目次■

はじめに 9-20
第1章 青春の光と影 21-41
ピカソ家のルーツ/ピカソのスペイン/バルセロナからパリへ/カサヘマスの自死/「招魂(カサヘマスの埋葬)」と「人生(ラ・ヴィ)」/「ピエレットの婚礼」
第2章 「洗濯船(バトー・ラヴオワール)」の美女 フェルナンド 43-60
貧乏長屋の芸術家たち/最初のコンパニオン、フェルナンド/アポリネールとピカソ/ピカソと画商/「アヴィニョンの娘たち」の謎
第3章 二つの間奏曲 エヴァとギャビー 61-72
エヴァとの出会い/若き画商カーンワイラーの出現/ギャビーとの秘密/ピカソと女性/
第4章 「クラシック」との出会い オルガ 73-82
新しい女性像/オルガの肖像/成功と破綻
第5章 危険な愛 マリー=テレーズ 83-101
危機の時代/「顔」としての女性/街頭の偶然/関係の深化/マリー=テレーズの独占/芸術上の現われ/マヤの誕生
第6章 「ゲルニカ」の告発 103-122
立ち上がったピカソ/「フランコの夢と嘘」/「コンポジション」と「馬の頭部」の習作/「はしごの上の母親と死んだ児」と「女の頭部」/「牝牛の頭部」と「泣く顔」の習作/「母親と死んだ児」/壁画/ピカソの知的な人脈
第7章 闖入者 ドラ・マール 123-131
一人の混血女性/「ゲルニカ」の背後で/「怒れる女」と「泣く女」
第8章 女神たちの闘争 フランソワーズ 133-152
戦時下の女性たち/未婚の母フランソワーズ/フランソワーズの批評/老残のジェルメーヌ/アポリネール記念碑/再び、社会から女性へ
第9章 ジャクリーヌとの晩年 153-185
最後の妻/ジャクリーヌの日常/ムージャンのアトリエ/私の見たピカソ/「ゲルニカ」の出品交渉/知られざるピカソ/ピカソと日本/難航したソヴィエトとの交渉/行動家ピカソ/単純原理/ピカソの祭壇
第10章 ものみな死で終わる 187-212
90歳を超えて/生涯を貫いた「発見」/歴史的な前衛/遺産騒動/マリー=テレーズの自殺/娘マヤ/「ゲルニカ」返還/ジャクリーヌ夫人の沈黙の自死/ピカソの世界観/ピカソとは何か
あとがき 213-215
主要文献 217-216

■内容その他■
展覧会に足を運んでいると、ピカソの絵をしばしば見ることができますし、ピカソを特集した展覧会もけっこう開催されています(今秋にもあります)。そのピカソ、今年で没後30年を迎えるというのですね。本書のまえがきには、ピカソにはいまだに無数のエピソードがこびりついていたり、新たなものまで加わったりもして実像は見えにくいとあります。死後これだけ時間がたっても、人間にも作品にも論議が進行中であり、当分定まる気配もない。そこで著者は「何をおいてもその人と周囲の人々、特に女性たち、そしてその作品自体から感じ取り、見つけられるものがあるならば、重点をそこに置いて直裁に肉薄してみよう」とし、その成果が本書だというわけです。

本書は新書本ですからコンパクトですが、ピカソが描いた絵画作品から主なものを拾って著者の見方を示していきます。このようにして読み進んでいくと、ピカソの周囲に登場する女性たちがどのような人物で、ピカソのその時々の作品にいかに重要な役割りを果たしたかがわかるよう記述されています。その女性たちを登場順に列挙すると、
  ジェルメーヌ(ジェルメーヌ・ビショット)・・・名前を特定できるピカソのさいしょの愛人
  フェルナンド(フェルナンド・オリヴィエ)・・・さいしょのコンパニオン
  エヴァ(本名 エヴァ・グエル)
  ギャビー(ガブリエル・ドゥペイール)
  オルガ(オルガ・コクロヴァ)・・・さいしょの妻
  マリー=テレーズ(マリー=テレーズ・ヴァルテル)
  ドラ・マール(本名 アンリエット・テオドラ・マルコヴィッチ)
  フランソワーズ(フランソワーズ・ジロー)
  ジャクリーヌ(ジャクリーヌ・ロック)・・・2人目の妻
となります。

このなかで1915年にエヴァが病死し、1917年にオルガと知り合うまでの約2年間は、従来ピカソにとって特定の女性がいたかどうかわからなかったのだそうですが、1987年になってギャビーの存在が明らかになったといいます。そのあたりの事情も書かれています。

また、あの《ゲルニカ》にかかわる1章も独立して設けられています。どうして、ピカソが《ゲルニカ》を制作したか(その当時の作品群もふくめて)、これもスッキリとよくわかりました。意外だったのは、宗教画です。私は、かつて一度、ピカソの《磔刑》を見たことがありました。構図といい色使いといい強烈なもので、1932年という制作年代まで覚えてしまったくらいです。そして、ろくに調べもしないで、きっと探せばこうした作品はほかにもあるんだろうなと考えていました。たしかに年少の頃のピカソは、比較的オーソドックスともいえる磔刑図を描いているのですが、著者がまとめたピカソの世界観のなかには、それを除けば「ただ一度だけ磔刑図を描いたことはあったが」と記されていたのです(208ページ)。驚きましたけれど、自分のいいかげんな思い込みを正してもらうこともできました。

携帯に便利な小さな本ですが、多大な収穫をもらえたことで満足しています。

【2003年9月9日】


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