第65回 : ピカソ 天才の誕生展(上野の森美術館)

本展覧会は、産経新聞社と上野の森美術館( http://www.ueno-mori.org/ )の主催で、すでに9月21日(土)から開催されていて、会期は来る12月8日(日)までとなっています。今回はピカソの少年時代の絵画やデッサンを見られるというので、早く行きたかったのですが、それが果たせないでいました。手帳を開いて予定をチェックすると、11月22日は仕事で丸一日上野にいる予定があり、おまけに金曜日です。上野の森美術館が午後8時まで開館している曜日ではないですか(他の曜日は午後6時まで)。当日、私は仕事を終えると、おもむろに会場へと向かいました。ちなみに会期中は無休で、入場料は一般1300円です。

産経新聞社と上野の森美術館は、1999年にも「ピカソ展」を開催していますが、その時はパリにあるピカソ美術館から85点ほどの作品を借りて展示していました。今回は、バルセロナ・ピカソ美術館( http://www.museupicasso.bcn.es/index.htm )から、なんと約220点の作品が来ていました。その内訳はデッサン203点、油彩19点(うち2点はパリ・ピカソ美術館から特別に借りたもの)です。これだけの点数を私は小一時間で見てしまいましたが、それは私自身が絵を描かないから、デッサンはよほど眼を惹くもの意外、すーっと通り過ぎてしまったことによるのだと思います(眠かったという個人的な事情も少々加わっています・・・)。主催者は「20世紀を代表する天才芸術家ピカソの9歳から22歳までの作品は、今まで日本ではあまり紹介されたことはなく、バルセロナ・ピカソ美術館のコレクションがこれほどまとまって公開されるのは日本で初めてのことです」と上記美術館のサイトで説明を加えています。

会場の展示は、次のように11のテーマに分かれて構成されていました。
01. 幼年時代からアカデミア(美術学校)へ
02. 宗教、戦争、≪初聖体拝領≫
03. 家族の肖像
04. 自画像
05. マドリード、オルタ・デ・サン・ジョアン
06. 死(タナトス)
07. モデルニズムとクワトレ・ガッツ(四匹の猫)
08. 初めての個展
09. パリ
10. 青の時代と社会
11. 愛とエロス
少年時代から青年期にかけて取り上げたこれら11のテーマは、主催者によれば、、すべてのちのピカソの生涯において現われるもので興味深いと指摘しています。見てみると、特に何点か興味を惹かれる作品が残りました。作品のイメージは「Online Picasso Project」( http://www.tamu.edu/mocl/picasso/ )でご紹介していきましょう。以前とサイトの構成が若干違っているようですね。今回、作品を参照していただくためには、まずピカソの顔写真の上の「Works」をクリックし、作品の制作年、それとこの作品カタログに付すようになった番号を掲げておきますから、そちらをクリックしてください。以前と違うもう一点は、画像イメージが拡大されなくなったことです(!!)。きわめて残念ですが、5700点以上のピカソ作品を収めているこのサイトは、やはり魅力があります。

今回「ほお〜っ!!」と思って、眠気がすっとんだ作品を厳選して7つ挙げましょう。
(1)《ヘラクレス》[OPP.90:03](1890年=9歳 黒鉛/紙)
(2)《石膏像の習作》[参照画像なし](1895年=14歳)
(3)《裸足の少女》[OPP.95:03](1895年 油彩/カンヴァス)
    
(3)はパリ・ピカソ美術館蔵
(4)《初聖体拝領》[OPP.95:04](1895年 油彩/カンヴァス)
(5)《科学と慈愛》
[OPP.97:01](1897年 油彩/カンヴァス)
(6)《エル・ディヴァン(長椅子)》
[OPP.99:05](1899-1900年 木炭、パステル、色鉛筆/紙)
(7)《緑の女》
[OPP.01:14](1901年 墨、水彩/紙》
《ヘラクレス》の裸体を描いたのはピカソ9歳のとき。これを見て「9歳で描いた絵? 上手いもんだねえ」というのが感想でした。どこか微笑ましくもありました。それが《石膏像の習作》までくると、デッサンにデッサンを重ねた成果がでているのでしょう、思わず見入ってしまいました(ちなみに一昨年の3月に国立西洋美術館で「ピカソ 子どもの世界展」( http://www.ne.jp/asahi/yasuyuki/koseki/art_1_xxxx/art_1_0020.htm )を見たときにも《石膏像〜》について、私は「大人びている」と感想を述べていました忘れていましたけれど・・・)。しかし、これで驚いていてはいけなかったのです。《裸足の少女》にせよ、またバルセロナ・ピカソ美術館から初めて海外に出たという《初聖体拝領》といい、それそれは見事な作品です。これら2つの油彩も14歳のときの成果です。《科学と慈愛》のような、少し考えさせられる題材を1897年に扱ったかと思うと、1899−1900年にかけては売春宿を舞台に男女が戯れている《エル・ディヴァン》を描きあげます。しかし、どうも少年時代の絵画作品は、すでに完成度が高いようで、硬く真面目なタッチで描かれているのですが、意外な発見の喜びとでもいうか、後年の「あっと驚く」ような眼のつけどころはまだ持っていないように思えます(ここまで書くのは、少し酷でしょうか?)。今回私が挙げた7点の作品では、《エル・ディヴァン》あたりからいくぶん変化の兆しが見られるようになります。それまで父親から、あるいは美術学校で教わっていた絵画から離れ始めます。さらに親友を失い、青の時代を経て《緑の女》では線や色彩の柔らかさなど、これまでにない作風を味わえるようになっていきます。こうした変化、あるいは成長をみることができるのが、本展覧会の醍醐味といえるでしょう。
【2002年11月24日】


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