第64回 : ウィーン美術史美術館名品展(東京藝術大学大学美術館)

いま、上野の東京藝術大学大学美術館では標記の展覧会が開催されています。ウィーン美術史美術館に収蔵されている絵画のうち、ルネサンスからバロック時代の作品を中心に約80点が来ているのです。2002年12月23日(月・祝)までを会期として、休館日は月曜日(ただし12月23日は開館)、入館料は一般(当日)1,300円となっています。

会場の中の構成は章立てされていますけれど、要するに時代順の展示と思ってください。私は音声ガイドを借りて回りました。現在、芸大の美術館は、そのHPで今回出展している「作品一覧」と、画像と説明がついた「主な出展作品」(13点)を公開していますから、参考にされるとよいでしょう(会期が終わればなくなってしまかも・・・)。

さて少し感想を書き留めておきましょう。

最初のセクションは16世紀の絵画が展示されているのですが、聖書に題材を求めた作品がけっこう多いのです。ルーカス・クラナハ(父)の《キリストの磔刑》(1501年)、ティツィアーノの《キリストの埋葬》(16世紀)などに混じって展示してあった、アンドレア・ソラーリオの《サロメと洗礼者ヨハネの首》(1520/24年)に惹かれ、じっくりと見てしまいました。この作品は、横長の画面の左に斬首役人(右手に刀を持っていたと思います)が、中央にはその役人が左手に持っているヨハネの首が、そして右にサロメがいるという構図です。首をもたれているヨハネは、頭髪部分の伸び具合が現実味を増しています。そして何よりサロメの顔が無表情なこと! こういうサロメの描き方もあるのかと驚きました。

デューラーの《若いヴェネツィア女性の肖像》(1505年)は、女性の上半身が描かれている、しかし肩から先の両腕は描かれていない作品です(さほど大きくはありません)。これは、音声ガイドの解説に助けられたのですが、肩から先の腕を描かないやり方は「ヴェネツィア派の特徴」だというのです。ティントレットの《若い女性の肖像》(1553/55年)では、音声ガイドは画家を見据えた「反抗的な女性」が描かれていると切り出します。う〜ん、画家を見据えてはいるのですが、「反抗的」という表現は当たっているか外れているか、なんとも言えないんじゃないかという素朴な疑問を感じました。

ルーラント・サーフェリーの《楽園》(1628年)は、農民が大勢描かれた村が描かれ、その右奥の方に小さな人物が二人描かれています。これが楽園を追放されるアダムとイヴだというのです。ただ見ただけでは、そこまでは分からないなと思いました。「月暦画」というそうで、よくありそうな日常を画面に描きながら、そこにそっと聖書の物語を織り込む趣向があったのだそうです。これは、日々の生活は神の世界とともにあるという考えに基づいているといいますが、この作品が描かれた当時に見た人たちは、織り込まれた物語をしっかりと読み取ったのでしょうか?

今回の展覧会には、19世紀に描かれた作品もありました。ものの本で、ウィーン美術史美術館には作曲家グルックの肖像画もあることを知りましたが、今回は、1823年にフェルディナント・ヴァルトミュラーが描いた《ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの肖像》が会場に来ていました。CDのジャケットか何かで見覚えのある絵でしたね。そういえば、さいきんベートーヴェンを聴いていないなあ、などと思いながら会場をあとにしました。
【2002年11月13日】


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