第26回 : マティスとモデルたち(東武美術館)

来年、閉館することが決まっている池袋の東武美術館コーヒーブレイク第61回参照)は、いま行なわれている展覧会のほか、「京都大原三千院展」「コートールドギャラリー所蔵 オランダ・フランドル風景画素描の世界」「トゥールーズ=ロートレック展」の四企画を残すのみとなりました。いま行なわれている企画展は、7月13日(木)から始まった「マティスとモデルたち」です。会期は9月3日(日)までで、毎週水曜日が休館日となります。入館料は一般が1,000円です。どんな展示がされているのだろうと思って、行ってきました。

「マティスとモデルたち」展では、マティスの人物表現に的をしぼって、という触れ込みで、欧米や日本国内の美術館や個人コレクションから油彩、素描、版画、彫刻など約80点が展示されていました。

会場に足を踏み入れると、そこは1階の展示スペースです。これまでは、パーテーションで区切られることが多かったのですが、今回は何と1階は平土間として使われ、作品1点1点の間隔は、ゆったりとスペースがとられています。よく行なわれるように、会場内部がいくつかのセクションに分かれている、ということもありません。「ちょっと物足りないな」というのが私の第一印象でした。

マティスといえば、1905〜06年に絶頂期を迎えたフォーヴィズムの画家として注目を浴びたことが有名です。しかし今回の展示では、1920年あたりから以後の作品が主なものでした。なるほど、オダリスクを主題とした装飾的な作品が目につきます。一方、ブルジョア家庭の婦人をモデルに描いた作品が、意外と少ないと感じました。こうした人たちに楽器を持たせて、家庭の中でアンサンブルを楽しんでいる作品が、もっとバランスをとって展示されているに違いないと思い込んで行ったものですから、少し肩透かしをくった気がしました。つい思い出してしまったのが、1996年に伊勢丹美術館で行なわれた「コーン・コレクション展」。マティスの作品を主軸に置いた展覧会でしたが、こうした点のバランスの良さは、今回と比較になりません。

私は1階から2階へと、ゆっくり見て歩いたのですが、3階でまたしても首をかしげました。ここに展示されているのは、1947年に制作された「ジャズ」という、全20点からなるシリーズの作品です。会場の解説を読むと、当時、マティスは身体的な疾患に悩んでいたが、そこからかえって新たな「切り絵」技法を発見し、一連の色紙の切り絵にもとづいて印刷された色彩図版が、この作品だといいます[会場の2階に張り出されてある年譜には、1937年、ロシア・バレエ団より『赤と黒』(ショスタコーヴィチ音楽、マッシン振付)の衣装と舞台装飾を依頼されたときに、最初の切り絵制作を行なったとありますから、1947年当時に新たに「切り絵」技法を”発見した”という表現が適切なのかどうか、私には判断できません。質問しそこねて帰ってきてしまいました]。「ジャズ」という一連の作品には人間も登場しますが、実はそればかりではないので、マティスの人物表現に的をしぼったはずの展覧会にふさわしい作品なのかどうか、「??」と思ってしまったのです。見ていて飽きない作品ではあるのですがね。

では、がっかりし続けたかというと、それがそうとばかりも言えません。
油彩、版画、切り絵にいたるまで、線の動きの滑らかさや色彩の追求の仕方など、味わいの深いものだなと実感できたのですから、良い点も強調しておかないといけないでしょうね。。

余談ですが、会場の1階に何点かのマティスのポートレートが用意されていました。それらを見る限りでは、マティスという人は、室内のアトリエでモデルを前に絵を描いているときでも、帽子をかぶっているのです。ジェントルマンの証明かな、と想像しながら見てきました。

それから、この展覧会専用の絵はがきが販売されていませんでした。
これは、少し寂しい・・・。
【2000年7月17日記】


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