第27回 : エドワード・ホッパー展(ザ・ミュージアム)

エドワード・ホッパー(Edward Hopper 1882-1967)。アメリカの画家です。初めて知った名前のような気がしてザ・ミュージアムに足を運びました。今回のホッパーの個展は、初期から晩年にいたる作品から約90点を展示しています。ちょっと見た感じでは、ホイットニー美術館所蔵の作品が比較的多かったです。これには理由があって、Encyclopedia BritannicaのWeb版=Britannica.com(http://www.britannica.com/)で調べると、この美術館こそエドワード・ホッパーの世界最大のコレクションを有していると分りました(納得!)。私は、展示されている作品と上映されているビデオを見て、おおいに刺激を受けて帰ってきました。

会場は、次の四つのコーナーに仕切られていました。
[1]ニューヨークでの画学生時代、パリ滞在
[2]ニューヨーク: 初期の活動と版画制作
[3]ニューイングランド: 海岸と町並み
[4]都市・孤独・光
([ ]内の番号付けは、小関が便宜的に行ないました。なお、[3]から[4]へ行く途中に、ビデオコーナーが設けられていて「エドワード・ホッパー 〜アメリカの心を描いた画家〜」が約12分、上映されています。これは、とても参考になりました。)

実は、ホッパーの生涯と作品について、Britannica.com(http://www.britannica.com/)にある”Hopper, Edward”の項目を調べましたが、意外と短い記述しかありませんでした。手持ちの資料を使って、うんと短くまとめてみましょう。若い頃はイラストレーションを学んだこと、やがてパリに行って刺激を受けたこと、その後版画で成功したこと、やがて絵画で身を立てるようになり都会の日常を取り上げた作品を多く残したことなどです。

[1]の画学生だった頃の作品は、パリに行った後のそれと比べると、画面がやや暗く感じられます。[2]では12点展示されたエッチングの中から、『夜の影』Night shadows 1921)が印象に残りました。夜の通りを高い所から眺めて、一人の男とその影、もう一つ画面中央あたりに横長に伸びる影が描かれている、そんな作品なのですが、どこかしら孤独感が漂ってくるのです。

話を先に進める前に、ホッパーの作品が見られるHPをご紹介しておきましょう。
Webmuseum, Paris中の”Hopper, Edward”(http://metalab.unc.edu/wm/paint/auth/hopper/)がそれです。ホッパーの作品は、<Interior scenes><Street Scenes><Landscapes>と3つのカテゴリーに分けられています。そして、いい作品が多く紹介されているようですが、今回の展示と重なるものは、残念ながら少数にすぎません。

[3]のニューイングランドで取材して描いた海岸や町並みは、それ以前の作品よりも、一層きわだった個性が認められました。たとえば上のHPにある<Landscapes>の2番目(=Blackhead, Monhegan  1916-19 (220 Kb); Oil on wood, 9 3/8 x 13 in; Whitney Museum of American Art, New York)を見てみましょう。広大な自然が見て取れます。もちろん、そればかりではありませんが、自然の大きさの中に人家や鉄道の踏切など、人間が手を加えて作ったものを描いた作品もあります。さらに言うと、光を意識した作品が多くなります。

会場では続いて[4]に直行しても良いのですが、ビデオコーナーが用意されていますから、ぜひこれをご覧になることをお勧めします。ここでホッパーの生涯が簡潔にまとめられて紹介され、代表作と呼べる『深夜の人びと』Nighthawks  1942 (120 Kb); Oil on canvas, 30 x 60 in; The Art Institute of Chicago)に接することができるからです。この作品は、先のHPのトップページにある、上の絵です。この作品をクリックして拡大して鑑賞してみましょう。この日、体験できなかった独特の絵画空間に接することができるからです。どうですか?真夜中で、外は当然暗いのですが、描かれたコーヒーショップの内部は明るく照らされています。店内のマスターとカウンター奥のカップル、そして何より画面の手前で一人、私たち見るものに背を向けて哀愁を漂わせている男性の存在が語りかけてくる孤独感を感じ取れませんか? こういう作品を描いていたからこそ、ホッパーはアメリカ人の間で人気があったのだといいます。

てっきりこの作品を見られるのだと興奮した私は、おもむろに[4]のコーナーに歩みを進めました。しかし、そこにあったのは、『深夜の人びと』の小さな習作が2点! ビックリして腰を抜かしそうになりました。がっかりです。一番有名らしい、この絵は、来ていなかったのですね(涙)。この作品は、ぜひいつの日か、日本の展覧会で見られるようにしてほしいものです!!

では[4]には見るべきものがなかったかというと、決してそうではありません。
『ペンシルヴェニアの石炭町』Pennsylvania Coak Town 1947; Oil on canvas 上記HPには無し)に見られる労働者の姿と光には、思わず見入ってしまいました。
『真昼』High Noon 1949; Oil on canvas 上記HPには無し)は、広々とした草地に建っている一軒家のドアを開けて、一人の女性が日を浴びているところが描かれています。女性は、青いガウン一枚だけを纏っているように見えます。一瞬ぎくっとして立ち止まる絵ですね。
『朝の日ざし』Morning Sun  1952 (160 Kb); Oil on canvas, 28 1/8 x 40 1/8 inches; Columbus Museum of Art, Ohio  上記HP<Interior scenes>の上から8番目)。これは都会の朝の一こまが描かれています。

ホッパーの面白いところは、何気ない日常をありのまま描いているように見え、そのために共感を呼ぶようです。しかし、ちょっと考えると、『真昼』や『朝の日ざし』に登場するような女性の姿が日常そのものだと決め付けるには、ちょっと難があると思いませんか? どうやら、日常を描きながらも、どこか日常を異化しながら私たちに提示する、そんな作家のようです。

もう一つ気付いたことを書き留めておきましょう。それは女性の描き方です。たいてい胸は大きく、しかも肌の露出度もかなりのもので、体つきも肉感的です。これはホッパーのもつ女性の理想像なのか、それとも願望を具体的に描いたのか(両方ということもあるかも・・・)、よく分かりませんが、見逃せない特徴でした。

最後にホッパーについて、より深く知りたい人のために・・・。
大手の書店の美術書コーナーをチラリと見た限りでは、ロルフ・ギュンター・レンナー著『ホッパー』(ベネディクト・タッシェン出版 c1992 日本語版)が1200円で入手できます。解説は、ぎっしり。絵もたくさん収められていて、ご機嫌ですよ。
『深夜の人びと』についてだけでもいいから、という方、ありました。佐々木健二郎著『アメリカ美術の本質』(文春新書 1998の第22章[p.195-203]に「ナイト・ホークス」と題して、この作品が論じられています。ただし、図版はモノクロですから、先のHPを使ってご覧になると一層よいと思います。

今回は少し気張りすぎたかな・・・? どうりで暑いわけですね(笑)。
そうそう、最後になりましたが、会期は2000年8月27日(日)までで、入館料は一般¥1200です(無休)。
【2000年8月8日記】


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