第61回 : 東武美術館の閉館(2000年1月25日)

昨年の2月、池袋にあったセゾン美術館がクローズしました。あれからやっと1年経つかどうかというところです。ところがきのう(1月24日)、東武美術館が来年3月をもって閉館(!!)するとのニュースが流れました。この美術館も池袋にあるんです。美術館も冬の時代を迎えているようで、このほかにも昨年は新宿にあった三越美術館が閉まりましたし、山種美術館がより狭いスペース(!)に移転したのもここ1、2年のこと。実は今回の東武美術館も、消息通のあいだでは「危ないらしい」と知られていた気配があります。さいきん、このことをそっと教えてくれる人がいました・・・。

池袋駅の東口では、先に閉館したセゾン美術館が現代美術中心に企画展を展開してきましたが、一方西口では東武美術館がどちらかというとオーソドックスな路線を歩み、美術ファンを楽しませてきました。セゾンは徹底して企画展専門のいわば貸し小屋に徹しましたが、東武はというと、常設展ができるようになることに美術館のレゾン・デートルを見出し、ドーミエの版画を収集していたのを読んだことがあります。事実、ここ2〜3年、年に1回の割でドーミエの版画展を実施してきました。

1992年にオープンしたこの美術館は、はじめの5年間、「エルミタージュ美術館展」を催しました。名画が毎年やってくるので楽しみに次の会を待ったものです。その後も、印象に残る展覧会がいくつもありました。「ゲルニカへの道」と題するピカソの展覧会など、その最たるものの一つです。そう、ブリューゲル展も忘れられません。ヨーロッパ美術と違った視点も一方でもち、インドやチベットの仏教芸術の展覧会も行ないました。これも記憶に残っています。しかし、最近の企画をみると、一時のエネルギーはどこへ行ったのだろうと思わせる面もあって気になっていました。

昨日の新聞によれば、東武美術館は百貨店・電鉄系の美術館の中では唯一、国宝や重要文化財を公開できる施設だったということです。私は大学を卒業して以来、長いこと美術館から遠ざかっていましたが、実はここができたことが、再び美術館に足を運ぶ(しかも、以前よりも多く)きっかけを作ってくれました。丸10年も持たずにクローズするのは、何とも口惜しい気持ちでいっぱいです。

私自身は足の便がいい池袋から、短期間のうちに二つも美術館が消え行くことにショックを受けているのですが、この先、国立の美術館が巷間言われるように独立法人化の道を辿っていくようなことにでもなれば、私たちが日本にいながらにして良質のヨーロッパ美術に接する機会がますます狭められていくことになるのではないでしょうか。そんな不安を増大させるニュースでもあるような気がして、なんとかならないのかなぁ、という気持ちがぬぐえません。


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