休日の山歩き 17 北岳 Kitadake
[南アルプス] 北岳(3193m) 広河原から往復
2009年7月19日(日)、20日(月)
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中白根から北岳を望む。
赤い屋根は北岳山荘。
手前の人々は雷鳥の親子を見守っている。
左奥に甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳。

【梅雨明けを待って南アルプスへ】
関東甲信地方で梅雨が明け、夏山シーズン到来、最初の週末は3連休だ。南アルプス、北岳を目指すことにした。当初の計画は、山梨県奈良田に車で入り、バスに乗り、広河原からテント携行で山中で2泊3日し、北岳、間ノ岳、農鳥岳と白峰三山を縦走し、奈良田に下山することだった。それが、3連休初日の土曜日は天気が悪そうだったので、東京を出発したのは土曜晩になり、2日間の行程になった。

【奈良田から広河原の登山口へ】
土曜夜9時に自宅を出発、中央道を甲府南ICで下り、1時間20分余り順調に走行して山梨県早川町の奈良田温泉に夜12時半に着いた。奈良田の駐車場の場所は、事前に早川町のHP(http://www.town.hayakawa.yamanashi.jp/mycar/mycar/map.html)で大体見当をつけていた。沿道のいくつかの駐車場は既に満車で、案内表示に従い早川沿いの広い駐車場に入った。車のヘッドライトを消すとあたりは真っ暗になったが、幸い、ハッチバックのドアを開けて話している人たちがいたので、トイレの場所を教えてもらい、ヘッドランプの明かりを頼りに歩いた後、車中泊とした。
翌朝は5時頃車を出て、駐車場内のバス停に移動した。背中の荷物は自宅の水道水3リットルや食料などで約17kgになっている。バスは起点よりプラス2分の丸山林道入口バス停ということで、やや小振りのバス2台がほぼ空の状態で来て、満員になり、5時32分に広河原に向け発車し、早川に沿って険しい道を進んだ。やがて道は右の車窓に野呂川を見下ろすようになり、対岸の高い位置に芦安からの道が付いているのが見えた。最後に橋を渡り、6時15分に広河原に着いた。去年甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳に登ってから1年ぶりの再訪だ。甲府や芦安からのバスもほぼ同時刻に着いており、多くの人々と一緒に行動を開始した。
バスを下りるとざっと雨が降り出したので、人々は屋根のある所に入り、雨具を着た。私は弁当を食べながら様子を伺ったが、雨が止んでもまた降り出すことを警戒して人々は雨具を来たまま行動しているので、私もそのようにし、午前7時に広河原を出発した。

奈良田、丸山林道入口バス停 広河原 大樺沢、左岸から右岸へ渡る
奈良田、丸山林道入口バス停 広河原 大樺沢、左岸から右岸へ渡る

【大樺沢右俣コースを登る】
吊橋を渡る手前に、注意書きがあり、「今年は残雪が多いため、左俣ルート・八本歯ルートは、冬山装備・技術がないと危険。上部二俣は道に迷いやすいので特に注意」とある。これで、登りは大樺沢から右俣ルートで行こうと決めた。広河原山荘で登山届を書き、いよいよ登山道に入る。この段階ではまだ、2日間で白峰三山を縦走し奈良田まで歩き抜ける望みを捨てきっておらず、今日はできれば北岳を経て北岳山荘まで行こうと考えていた。
白根お池との分岐ではそのまま大樺沢沿いの道を選び、沢を左手に見ながら歩き、左(右岸)に渡り、再び左岸に戻った後、沢を被う雪渓が現れた。右の斜面を高巻くか雪渓を歩くか、のいずれかなので、軽アイゼンを付けて雪渓を歩いたが、すぐ、9時半過ぎに大樺沢二俣に着き、そのまま雪渓を歩くことは左俣コースに入ることになるので、アイゼンを外し、右俣コースの雪渓に沿った草の道を登った。やがて雪渓から離れ、お花畑もあったが、雨が降り出し、ガスも漂ってきた。荷も重く、足取りが遅い。休憩して行動食の菓子パンを食べた。前後して歩いている単独登山の男性と話を交わし、今日は肩ノ小屋までにし、明日は広河原に戻らなければならないが、朝早く出発すれば間ノ岳まで往復できるかもしれない、と話した。

大樺沢を被う雪渓 大樺沢二俣から右俣コースは右へ 右俣コースを登る
大樺沢を被う雪渓 大樺沢二俣 右俣コースは右手前へ登る 右俣コースを登る

【強風の稜線を経て肩ノ小屋へ】
その先で、白根お池からの道を合わせるあたりから風が強まり、12時過ぎに小太郎尾根の稜線に上がってからは傾斜は緩くなったものの、進行方向右手(西)からの強風にあおられ、ガスで視界もきかなくなった。さらに脚に疲れがたまり、つりそうになり、休み休み歩かざるを得なくなった。コースタイム30分の所を50分かけ、午後1時にようやく北岳肩ノ小屋に着いた。小屋の手前の稜線上にテントが数張りあり、風ではためいて今にも飛びそうになっていたので、一瞬ひるんだが、左手を見下ろすと一段低い所にテント場があり、風が弱く穏やかそうにしているので、小屋で料金(500円)を払い、テント場に入った。
既に多くのテントが張られており、やや傾いているがちょうど1人用テントを張れそうな場所を確保した。雨が降り続き、しばらく待ったが雨の勢いが弱まりそうにないので、意を決して作業に入り、テント本体にフライシートを掛ける時は、さすがに風が弱いと言ってもシートが飛びそうになるのを押さえながら作業した。

お花畑 ガスの中 小太郎尾根、風雨で視界がきかず 肩ノ小屋テント場に落ち着く
お花畑 小太郎尾根 風雨で視界がきかず 肩ノ小屋テント場に落ち着く

【テント泊】
テントに入って一息つき、雨と汗で濡れた服を着替えた。近くのテントから若者の団体の元気な声が筒抜けに聞こえてくる。地図をにらみ、明日の天気の回復を期待しながら、どうも間ノ岳の往復は無理そうだが、途中の中白根までは行けそうだと見当をつけた。午後4時、早めの夕食は初めての試みとして3分茹でパスタを作り、7時には就寝した。テントを張った地面が傾いており出入り口の側に体が寄ったが、何とかしのいだ。シュラフが夏用なので防寒着を着て寒さ対策をしたが、足先が冷えた。雨は降ったり止んだりし、夜半、強く降った。
ふと、近くのテントから「星が見える」というささやき声が聞こえたので、外に出てみると、雨は止んで満天の星空になっていた。天の川もはっきり見える。東の空に三日月が上ってきていた(皆既日食の2日前の月だ)。何という天気の変わりようか。これこそ山登りの醍醐味だと思った。時は午前2時50分。翌朝の期待を抱きながら、暫しの眠りに就いた。
そうは言ってももう眠れないので、午前3時半に起床。朝食は、アルファ米が水でも作れるか試そうと、先ほど起きた時に水を注いでおいたものを、1時間後の4時に食べたが、米粒に芯があった。

ご来光 ご来光を仰ぐ人々
肩ノ小屋からのご来光 ご来光を仰ぐ人々

【早朝の北岳山頂へ】
空が白々と明けてきて、小屋の上方に昨日は見えなかった北岳山頂方向の峰も見える。富士山もはっきりと形を現した。テント場や小屋の周りで多くの人が待ち構える中、午前4時41分、東の山並みからご来光が現れた。
山小屋で1リットルの水を100円で購入し、行動食などと共にサブザックに詰め込み、5時少し前に肩ノ小屋を出発し、岩っぽい道を登る。右手に仙丈ヶ岳が大きい。肩ノ小屋から見えた峰はまだ山頂ではなかったことを知り、さらに山頂手前の峰を巻き、小屋からわずか30分の苦にもならない歩きで、ついに北岳山頂に到着した。山頂はやや風が強いが、反対方向から到着した人を含め多くの人で賑わっており、山頂標識の前で記念写真が続いている。日本第2の高峰からの360度の眺望だ。東には麓から1本の雪渓が這い上がり、緑の尾根を経て山頂までつながっている。西に仙丈ヶ岳が朝日を受けて緑色の姿を現し始め、甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山、富士山と一望だ。三角点は、近年復旧されたとのことで、真新しくコンクリートで固められていた。山頂の南側に移動すると、三角点より高い3193mの最高地点と思われる岩の先にもう一つ山頂標識があり、その先は、鞍部の北岳山荘を経て間ノ岳までの稜線のつながりが手に取るように見える。

北岳山頂は目前 早朝の北岳山頂 北岳山頂からの富士山
北岳山頂は目前 早朝の北岳山頂 北岳山頂からの富士山
北岳山頂からの仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳 合成
北岳山頂からの仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳

【中白根への稜線を往復】
山頂で30分過ごした後、6時少し前に山頂の先の稜線に歩き出した。北岳山荘は稜線の一段下に建っているのでその上を通過し、1時間20分の歩きで到着した中白根は、稜線の途中の緩やかなピークだが、ここからの展望も素晴らしく、間ノ岳まではわずかの縦走路を残すのみだ。振り返ると北岳は左右に深い谷を従えて聳えている(このページ冒頭の写真)。今回の登山はここまでと名残惜しんだ後、7時半に帰路の方向に歩き始めた。中白根の斜面を下り平坦になった所で、左手に雷鳥の親子がいたので、しばし様子を観察した。親鳥が時折首を長くし辺りを警戒する中、3羽ほどの子鳥はちょこまかと走り回っている。雷鳥のほか、高山植物もたくさん写真を撮った。北岳山荘から先は、稜線上より風が弱いことを好んで、並行するトラバース道を歩き、途中で稜線に戻り、再び北岳山頂に着いたのは9時半だった。先ほど中白根でも会った男性の単独登山者と話を交わすと、この人は塩見岳から縦走してきたが、熊の平では悪天候で丸1日動けず、今日は4日目で初めての天気だ、ありがたい、と半袖姿で話していた。風は少しあったが、日差しは暖かく、この人につられて私も防寒着を脱いで半袖になり、10時、肩ノ小屋を目指して下山に入った。

ハクサンイチゲ コイワカガミ イワベンケイ シナノキンバイ
ハクサンイチゲ コイワカガミ イワベンケイ シナノキンバイ
ミヤマシオガマ ミヤマオダマキ
ミヤマシオガマ ミヤマオダマキ
北岳山頂から間ノ岳を望む 中白根から間ノ岳を望む 合成 中白根山頂
北岳山頂から間ノ岳を望む 中白根から間ノ岳を望む 中白根山頂
雷鳥の親子 北岳山荘 北岳山荘の上から北岳を望む
雷鳥の親子 北岳山荘 北岳山荘の上から北岳を望む 鐘がある

【肩ノ小屋から白根御池小屋へ下山】
肩ノ小屋では小屋の人が総出で布団を屋根に上げ干していた。テント場では昨夜来のテントは残り少なくなっていた。私も撤収を急ぎ、小屋で当面の飲用に水を1リットル購入し、11時半、再び重い荷を背負い、広河原発16時のバスに向けて下山を開始した。しばらくの間、仙丈、甲斐駒、富士山を左右に見ながらの贅沢な稜線歩きで、昨日の風雨と視界ゼロの歩きとは雲泥の差だ。小太郎山分岐から下りにかかり、その下の分岐で白根お池への道を取り、昨日とは違う新たな道に入る。草スベリだ。草の道を下ると、やがて眼下に池と残雪を見下ろしながらの直降下になり、足の親指の爪が靴に当たり痛み出した。汗を拭き拭き白根お池に1時半前に着いた。白根御池小屋はまだ新しい立派な建物で、ただ(無料)の水がふんだんに飲めるのがありがたい。ここで話を交わした女性のグループは、奈良田から大門沢小屋まで入ったが、その先行けないので引き返し、広河原からここまで来たとのことで、肩ノ小屋までの時間をしきりに気にしていたが、今日はここに泊まることになるのだろうか。

北岳山頂付近から間ノ岳を望む 再び北岳山頂から仙丈ヶ岳を望む 北岳肩ノ小屋
北岳山頂付近から間ノ岳を望む 再び北岳山頂から仙丈ヶ岳を望む 北岳肩ノ小屋
北岳肩ノ小屋 小太郎尾根から北岳 白根御池小屋
北岳肩ノ小屋 標高3000m 小太郎尾根から北岳 白根御池小屋

【最後のつらい下山路】
白根御池小屋を出発すると、道はアップダウンの連続になり、あとは下る一方だろうと思っていた身には、肩の荷が重かった。家への土産にと白根御池小屋の水を2リットル積んだ分だけ、さらに重くなっていた。ようやくたどり着いたポイントでは、道標に登りの人向けに「急登ここで終り」と書き込みされており、ということはここから急降下が始まるのかと思った。まさにそのとおりの、木の根に頼りながらの急降下が延々1時間以上も続き、大汗をかき、水も飲んだ。足の親指の爪の痛みが続く。やがて左に沢筋を見ながらなおも急降下し、大樺沢の道と合流して傾斜が緩やかになり一安心したが、時間が3時20分になっており気が抜けず、ようやく広河原に着いたのは3時45分で、汗を拭く間もなく発車時刻を待つバスに乗らされた。ぴったりの時間計算だった。というより、初めの計算ではもっと余裕があるはずだったが、テントほかの重い荷を背負っての下りの歩きはコースタイム以上に時間を要することを計算に入れるべきだったのだ。

広河原山荘 吊橋 広河原のバス停
広河原山荘 吊橋 広河原のバス停

【帰路】
バスは16時に広河原を発ち、うたた寝するうち45分で奈良田の駐車場に着いた。丸1日半ぶりに自分の車に戻り、車内で着替えてさっぱりし、午後5時過ぎ、帰路に就いた。往路と同じ道をたどり、順調に走行し、中央道でいつものように都県境の渋滞で約2時間取られ、午後10時過ぎ、無事自宅に着いた。

【行程】
(7/18土)
都内21時発⇒中央道(八王子IC〜甲府南IC)⇒奈良田駐車場0時半着

(7/19日)
奈良田・丸山林道入口バス停5:32発(バス)⇒広河原6:15着

6:57広河原→7:31大樺沢・お池分岐→大樺沢→9:35大樺沢二俣9:45→右俣→11:50お池から合流→12:10小太郎尾根分岐→13:00肩ノ小屋(テント泊)
(歩行時間 6時間3分)

(7/20月)
4:41肩ノ小屋でご来光→4:56肩ノ小屋→5:27北岳山頂5:56→6:50北岳山荘上→7:18中白根7:34→8:12北岳山荘8:17→9:36北岳山頂10:04→10:30肩ノ小屋(テント撤収)11:34→11:55小太郎尾根分岐12:00→12:15二俣・お池分岐→草スベリ→13:20白根御池小屋13:30→アップダウン→14:00急坂へ→15:20大樺沢と合流→15:45広河原
(歩行時間 10時間49分。山頂休憩3回 計1時間13分と テント撤収 1時間4分を含む)

広河原16:00発(バス)⇒奈良田・丸山林道入口バス停16:45着
奈良田駐車場17時発⇒中央道(甲府南IC〜渋滞2時間〜八王子IC)⇒都内22時20分着

(標高差)
7/19日 広河原1520m→肩ノ小屋3000m=+1480m
7/20月 肩ノ小屋3000m→北岳3193m→広河原1520m=+193m−1673m
地図
【参考資料】
山と高原地図「北岳・甲斐駒」(2008年版)、日本百名山を登る・下(昭文社2003年)、山梨県の山(山と渓谷社2006年)、関東日帰りの山ベスト100(実業之日本社2007年)

【備考】
昨年の甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳(2008年8月2日、3日)のページに、北岳からの写真を追加した。

【追記】
仙丈ヶ岳山頂から(2008/8/3)    (左)北岳と間ノ岳を望む   (右)北岳山頂部分の拡大図
八ヶ岳・赤岳山頂から(2009/8/16)  南アルプスを望む

2009/7/31整理 8/1、8/10、8/26修正

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