魔王の世界征服日記
第3部シコク
ガレーシップというのは奴隷船である。
帆船なのだが、基本的に船の中央に仕掛けられた穴を通した櫂をこぐことで前進する。
しかしそれでは奴隷が幾ら居ても足りない。
そう。そこで考案されたのが魔物を動力に用いる方法だった。
オオアライを出航するガレーは、その動力として飼い慣らされたいぬむすめを使用する。
いぬむすめは見た感じとかなり違い、比較的頑丈で力持ちである。
知能は犬並なので、躾れば充分エンジンとして使える訳である。
ついでに説明すると、この船は上から特等、1等、2等船室とホテルのような配置になっている。
まともな部屋なのは特等船室だけだが。
後は施設がどうなっているかで分配されている。
2等船室は毛布と枕が後で配分される。
1等船室はベッドが備え付けられているが――カーテン程度のしきりしかなく、個室風なだけである。
「ねぇゆぅちゃぁん」
「巫山戯るな。お前ら特等で何で俺達が2等船室で雑魚寝なんだ」
「だったらお前達も特等船室で」
「何故俺とナオが一緒なんだよ」
とまぁ。
乗る前からごたごたと騒がしい連中である。
「まお様、ボク達は特等船室で」
「望姉。そんなお金の持ち合わせはありません」
まおがお金を持っているわけがない。
そもそも、まおうは魔王なのに財政が逼迫した魔王軍を率いている。
何故か宿に泊まる金すら出ないような感じなのだ。
人間と同じ通貨単位で同じお金を何故使っているのかはひみつだ。
「というか、なんでお金持ってるんだよ」
「あ。……まお様、それを今ここで言っていいんでしょうか」
何故かにやりと笑うウィッシュ。
じとり。
嫌な予感がして、まおはぶんぶんと首を振った。
「賢明な判断で御座います」
「だとしても望姉、お金足りないのは確かです。ここは二等船室しか選択できませんというか選択肢は有りません。そもそも」
わいのわいのとチケット売り場で騒いだ挙げ句、全員同じフロア同じ場所の二等船室へと向かう事になった。
「……そろそろ暴走してもいいか」
ユーカはミチノリをぎゅっと横抱きにして歩きながら、ナオを見て言う。
彼は額を揉みながら、呆れた顔で呟く。
「聞いて良いか?ユーカ。最近お前、なんか違わなくないか」
ミチノリは彼女にぶら下がるように、引きずられるようにしてくっついている。
「ああ、多分生理だ」
「こらこら」
キリエがジト目で睨み付けながら、腰に手を当てる。
「下品だ!少しは考えろよ」
「すまないキリエ」
ナオは思った。もしかするとこのユーカが本来のユーカなのかも知れないと。
「人間何でも限界は良くないんだなぁ」
「何の話をしてる」
ナオが納得したように呟くのを、キリエが聞きとがめて眉を寄せる。
「それより、胸当ては外すなよ。動く時はすぐ動けないと困る」
キリエは自分の胸当てをこんこん、と叩きながら言う。
肩当ては有った方が良い、程度だが胸当ては違う。
胸の筋肉は腕の動きを支える働きがある。心臓を守る理由もある。
そして胸当ては首を守るための襟を取り付けられる為、最低限度付けておきたい防具である。
「あー、それだけどよ。どっちか夜半起きておこう。夜魔物が出られたら厄介だ」
「そうだな」
ぽてぽてぽて。
まおの前で相変わらずわいわいと騒ぎながら、二等船室に向かうナオ達。
楽しそうに見えなくもない、その様子を見ながら壁を眺める。
木で出来た船室の廊下。
時々、地図や船内配置が書いてあったりする。
「わあ」
額縁に入っているそれらはもう古びて黄色い色を浮かべていて、触ったら壊れそうだ。
うずうず。
ぺり。
「きゃーきゃー」
「ああ、まお様は子供ですねぇ」
「まったく」
ちらりとヴィッツを見ると慌てて手を後ろに隠す。
「ヴィッツ?」
「え、何ですかお姉さま、私は額なんか触ってないですよ」
触ったようだった。
航海はおよそ三日。今晩オオアライを経つガレーは、一路南へと進路を進め、夜のうちに西へと進路を変える。
後はゆっくりと南西方向へ、シコクへ向けて二日後の朝に到着する予定だ。
一日目は何事もなくただ夜が訪れて、丸窓から差し込む朝日に全員が目覚めた。
個室と言うほどではないが、カーテンで区切られた絨毯の部屋の中に全員が車座になっている。
「こういうのも悪くないですね」
ぺたんと座り込んで、自分の腰まわりに毛布を巻いてぬくぬくと座り込むウィッシュは、どこかぽやんと幸せそうだ。
「私この揺れがきらい」
大きな船と小さな船の違いは、体感する揺れ方だろう。
ガレーシップクラスの大きさだと、寄せては返す緩やかな揺れになる。
船酔いはむしろしにくいもので、小さな激しい小刻みな揺れに比べて周期も長い。
嫌いな人間はどっちにせよ嫌いなのだが。
まおは蒼い顔をして、寝ることもできずにふらんふらんと身体を揺らしている。
「取りあえず横になってなよ。多少違うだろ」
ナオは壁を背に、手元に斬魔刀を置いてマントを羽織るようにして座り込んでいる。
今キリエが熟睡中である。別に夜昼関係なしで、寝ずの番をするためだ。
「うー、ねてたらねてたでおなかが妙に動くからぁ」
ぽてり。
座っている苦痛に耐えきれなくなったのか、それでも横に倒れてしまう。
うーうー唸っているが、夜は寝ているから今寝れないのだが。
「子供が居るみたいな感覚か?」
「それはぜんぜんわかんないよぉ」
ちなみに聞いたユーカも判らない。
「冗談はともかくとして、気分が悪いなら甲板に出た方がいい。風に当たれば多少違う」
むにー。
眺めるというより、何とか頑張って目を向ける、と言う方が正しい。
まおは草臥れた顔でユーカを見上げる。
「ほんとー?」
「ああ。連れて行ってやるから起きろ。立てるか?」
ちなみに一応説明しておくと、全員が殆どグロッキー状態だ。
ここに来るまでの旅の疲れで眠り惚けている。
起きてると行ったって元気に見て回る程も元気がない者と、元気をため込んでいるナオ達を除けば、まおとユーカぐらいしか行こうと思う者も居ない。
「気を付けていけよ。落ちても誰も助けられないからな」
「ああ。落ちたらそれまでだって覚悟していくことにする」
立ち上がりかけていたまおは、蒼い顔でもう一度ぺたりと座り込んだ。
「やだいかない」
ぷい。
「冗談だ、冗談だって。わざわざ落ちに行くことはないだろう」
そう言いながら、まおの両肩をぽんぽんと叩いて、彼女を引き起こす。
のろりと立ち上がる彼女は、それでもやっぱり気分が良くなさそうだ。
「危なかったらユーカを蹴り落としていいから。風に当たってこい」
「ああ。落ちたらナオを恨んで三代祟る事にするさ」
まおの肩を抱くようにして、そのまま二等船室を出ていく。
ナオはそれを見送って、部屋を見回した。
ちょこりと座るウィッシュ以外は、殆ど眠っている。
朝食は済ませた。ちなみにヴィッツは食べてないそうだ。
「ナオさんも眠ったらどうですか。魔物は夜現れるんでしょう」
ウィッシュはにこにこと笑いかけてくる。
「いや、何時出てきても良いように準備しておく方がいいだろ」
「でてきそうなら、私が起こします。こう見えても結構魔術は使える方ですし」
にこり。
自信があるのか、それともただ安心させようと言うのか。
「……じゃあ居眠りしても大丈夫だな」
ナオが口元を歪めると、くすくす笑って応える。
ヴィッツが寝返りをうって、ミチノリは寝言なのかむにゃむにゃと何か呟く。
「賭けてもいいですよ。貴方達が無事でなければ、私達は安心できませんでしょ」
「なら賭けなくてもいいだろ。そっちの一人勝ちだ」
くすくす。
ナオは、少し張りつめていた気を緩めて、伸びをする。
「ふふ、すこしは落ち着きました?」
「緊張してるみたいに見えたんだ」
「いえ、これから魔物の巣窟に向かうでしょ?緊張しない方がおかしいですから」
そう言えば、とナオは、彼女の言葉に逆に訝しげに眉を寄せて聞く。
「おま……ウィッシュ達はどうなんだ?何故シコクに向かう?」
ウィッシュは、そうね、と言いながら右手の人差し指を頬に当てて首を傾げる。
「シコクにはね、ちょっとしたものがあるんですよ。魔術に欠かせない石が。『命の雫』ってごぞんじありません?」
「あ、ああ」
命の雫は、貴重な宝石である。
ナオが知っている限り、魔力をため込んだ塊のようなもので、ユーカに至っては持ってるらしいが見せてくれすらしない。
持つ者に膨大な魔力を提供する宝石で、握り拳ほどのサイズがあるという。
流通しているのはこの『欠片』のレプリカだが、それですら個人で所有する事は出来ない値段が付く。
本物の『雫』クラスの宝石は世界に一つあるかないかと言われている。
「……元々、アレはシコクに有ったものらしいのですよ。塊では人に扱いきれるものではなくて、今あるようなサイズに切り出されて配分されたとか」
「ふぅん。そうは言ったって、危ない所にいくんだろ?怖いとか思ったことはないのか?」
くすくす、と再び笑うとおかしそうに右手を振る。
「だから一緒させて貰ったでしょう?もう。占いによれば、シコクに行く兵士がいるから付いていったら安全だって、卦がでてたんですよ」
「あれ?まおは何か隠し事してるっぽかったけど、そんな簡単に言っちゃって良いの?」
「ええ、もうここまで来たら隠しても仕方ないでしょう。確かにあんまり言うべき事ではないですから」
確かに。
もし、本当に雫の在処を知っているのであれば、金に目が眩んだ人間ならどうなるか判らない。
尤もそんな人間だとしても、喉元まで危機が迫るこの位置では、言うことを聞かざるを得ないだろうが。
ナオは少しだけ不機嫌に口を尖らせて、肩をすくめた。
その言葉には真実味があり、納得するだけの理由があったから。
まさかそれが嘘だとは思えなかった。
揺れる船内では、階段を昇るのも一苦労だ。
まおはユーカに支えられながら、何とか狭い階段を上っていく。
「うぅうぅう、何時になったら出られるのぉ」
「結構長いから、少し我慢しろ。何、三階建ての建物の階段を上る位だ」
がーびーん。
「ぃえぇえええ」
目の前がくらくらするのに、意識がくらくらと飛んでいきそうになった。
「もーいーよー、帰って眠りたいよー」
「いいからいいから。全く我慢の効かない娘だ」
ユーカはまおを後ろから抱きしめるようにして、逃がさない恰好になる。
こうなると逃れるより、ただされるがまま上った方が楽だ。
無理矢理、というかその抵抗すら出来ずにとてとてと上っていく。
「こらこら、自分で歩け」
「はーい」
と応えながらも、ぬくぬくと暖かいのを振り切るのが嫌で、身体を預けたまま上っていく。
ユーカも言葉では言う物の、突き放すような真似はしなかった。
登り切ると、廊下が続いていて、丸窓の付いた扉が幾つか並んだホテルみたいな場所に出た。
「ここが特等船室だ。これだけしかないが、中は宿と変わらない」
「はぇ」
それを横目で見ながら、廊下の端にある、やっぱり丸窓を填めた大きな扉まで行く。
ユーカがぎこぎこと音を立てるそれを開くのを、彼女は黙ってみていた。
風は、以外に弱く、今は櫂をこいでいるんだろうと感じさせた。
だらんと力無く垂れ下がった帆に、マストに立つ水夫。
そして、特等船室を見下ろすような艦橋が備わっている。
「はあーっ、すごいやー」
そこは、見たことのない空間だった。
周囲には水しかなく、まるで永遠に続く水の中にそびえるように、木造の建築物がある。
そんな風に見えて、まおは周囲をぐるっと見回した。
ユーカは先刻までふらふらしてた子供が元気になって、おかしくてくすくすと笑う。
「風がなくても関係なかったな」
ため息をつくと、彼女は穹を見上げた。
雲一つない蒼穹。特にこれと言って不審はない。
「ねねねーねねー、ねぇねーってば」
「ねばっかりでわからん。何だ、どうした」
マストを指さしたり、艦橋を指さしたり。
ともかくしばらくはこれで元気だろう。
簡単に相手してやりながら、まおが揺れに慣れる事を願った。
「あんまり端に行くなよ」
一応、甲板のへりには落ちないように柱が立ててあるが、ともすれば気休めだ。
尤もさほど荒れてもいないし、大丈夫だろうが。
「うん」
風は冷たくも暖かくもない、不安を消してくれる優しい感触。
遙か眼下に見える海面の白い波は、暗い水面は吸い込まれそうなぐらい小さく見えて。
嘆息するばかりで言葉が思いつかない。
「不思議だな」
ユーカは彼女の真後ろから声をかけた。
「まおは本当に魔術師か?」
びくっ。
振り返らない。
「他の連中は魔術を知らない。だから気づいていないのか、そう言うものだと思っているのか気にしないが」
否。振り替えれないのだ。
まおの真後ろ、振り返ろうにも振り返るだけの余裕がない。
「魔術師は、あのウィッシュとかいう女だけだろう。確かに、『珠』かも知れないが魔術が扱えるとはどうしても思えない」
見下ろすまおを閉じこめるように、両腕が柵を握る。
これで横にも逃げられない。
まお、ぜったいぜつめいのぴーんち!
「……実は貴族のお嬢様か、何かなんだろう?ヴィッツってのはお付きのメイドってところか」
「え?」
ユーカは別にまおを問いつめる気はなかった。彼女自身、疑問だったから確認しておきたかった。
まおはイレギュラー。
ユーカは会うべくして彼女に出会ったはずなのだ。
彼女に会うことで、より何かの真実に近づく。
知りたいことが目の前に有ったとしても気づかないよりもそれはしあわせなことだ。
「答えなくて構わない。別に、まおが何だとしても良い。何故シコクへ向かう?」
もう、まおは完全にユーカの腕の中にあった。
この体勢なら、海に落ちる以外に逃げる手段はない。
これだけ身体が近いなら、言葉にしなくても動揺も伝わる。
――シコクに向かう理由なんて、ない
まおは答えようがなかった。
別にシコクに目的があるわけじゃない。
ついでにいうとシコクは怖い場所では有り得ない。彼女にとっては。
「魔術師ではないまおがシコクに向かうからには、守るべき相手が増える。最低限度それだけは考えておかなければいけないだろう」
「あ、あの」
振り向こうとして、今度は動けないように押さえつけられてしまう。
「答えなくて良い。ただ人間がこれだけ動いているんだから、もう止めることもできない。多分今度こそ、世界が動く」
まおは身じろぎも出来ず、頭の上から聞こえる声に耳を傾けるだけ。
「まおは何を求めて何をしているのか、私は知らないし知ろうとしない。ただ、間違いなく私はまおに会わなければならなかった」
殆ど独白に近いかたちで、彼女が呟くのをまおは海面を見下ろしたままで。
「私に?」
「――まおがシコクに向かわなければならない。多分そう言うことなんだろう」
ユーカが占いによりシコクに舵を取ったのは、彼女達が動くことで『動く事態』を起こさなければならなかったから。
それが、まおがシコクに向かう事、なのだとすれば。
「謝るべきなのか、謝らなくても構わないのか判らない」
いつの間にかユーカはまおを背中から抱きしめる形で、海を覗き込んでいた。
「まおを見ていたら、私がまるで悪い人間のような気がしてきたよ」
彼女の言葉に返す言葉はなかった。
――ユーカのせいで、私がシコクに向かう?
『思いこみ』だと言うべきだろうか。
多分、それを理論的に否定して論破してくれる。彼女はそう言う存在だ。
まおは珍しく、回転しない鈍い頭をバターにならない程度に回して、何とか理解しようとしてみる。
……無理だった。
ユーカの考え方その物が、想像できない。
「判らないけど」
だから、自分の目の前で交叉している腕を、まおはつかんだ。
「ほらほら、さどおけさがもうけたら風邪をひくっていうでしょ?気が付くだけでもやさしーとおもうな」
「……風が吹いたら桶屋がもうかるんだろう」
ユーカが震えるのがまおには判った。
「そ、そーともいうね!」
今度こそ、間違いなく吹き出していた。
「だから、誰かが何かをしたらきっとそれは、どこかで何かの切っ掛けになるんだと思う。別にそれは悪い事じゃない。きっと」
「ここで団扇をあおいでたら、サッポロで台風が発生して三百人もの死者が出たとしても?」
明るい声で、無茶な冗談を言う彼女に、まおは頷いて答える。
「もしかしたら、団扇であおがなかったせいで干ばつになって、二千人の死者が出たかも知れない」
ああ。
ユーカは思わず納得した。
そして、言葉を継ごうとするまおをそのまま抱きしめる。
「……ゆーかさん?」
不思議そうに声を出して、振り仰ごうとするが、勿論彼女は見えない。
「世界ってのはままならないし、まだまだ理解しなければならない事も多くある。……絶対生き残ろう」
袖振り合うも多生の縁。
まおは返事の変わりに、もう一度彼女の手を握り返した。
とはいえ。
実際にまおは少々考え込んでしまった。
別にシコクに向かわなくてはならない訳ではない。
気が付いたら確かにずるずるとシコクに向かってしまっていた訳だが。
――むー、むむむ。まじーとかちゃんとしてるかなぁ
いつの間にか敵だったはずのウィッシュやヴィッツとも、仲がいい訳ではないが、決して争う程の関係ではなくなっている。
放置するには気がかりだが、このまままおだけ引き返したって問題はなかった。
「どーしてるんだろーなぁ」
いつもの位置にいないマジェストを思って、少し心配になった。
もう随分と会ってない。
ここでいきなり居なくなっても、多分問題ないだろーし。などと考えながらもとの船室でごろんと横になっていた。
昼食を終えて、ゆっくりと日が傾き始める。
殆ど眠りについているのか、静かで、会話そのものも少ない。
「どぉかぁしたのぉ」
思わず出た声を聞きつけたのか、ミチノリが声をかけてきた。
「んあ?あ?うん、ちょっとね」
なんて説明しようか、一瞬戸惑って言葉に詰まると、彼はにこぉっと笑みを浮かべたまま話を続けた。
「さびしい?」
「え?」
どきっとした。
「うんー。みっちゃんねぇえ、まおちゃんみてたらぁ」
と、わきわきといつの間にか装備していた巨大な手袋を動かして見せる。
「抱きしめたくなったから」
「こらこらっ」
びし。
彼はその巨大な人差し指を立てて見せると、小首を傾げた。
「とぉいうのはぁ、冗談でぇ。ずーぅっ……と気を遣ってぇなぁい?」
「え」
すと彼の雰囲気が、いつものほわんとした暖かいものから変わる。
「時々きぃになぁったからぁ」
うん。
まおは思わず頷きかけて、自分でも本当はどうなのか判らなかった。
「みっちゃんをおにぃさんと思ってぇいいよ」
「思わない。別に」
いきなり即答を喰らって思いっきり寂しそうに部屋の隅に向かうミチノリ。
「しくしくしくしく」
「あーうっとうしいっ!夕食にするぞ夕食!」
相変わらずキリエに怒鳴られる彼だった。