(H)シミュレーション:ケーブルの周波数特性
ケーブルメーカのデータシートをもとに、ケーブルの周波数特性をシミュレーションしたので、 実測値と比較してみましょう。 また結果を「ギターケーブルの選び方 節約編」としてまとめました。
シミュレーションしたケーブル
  • CANARE LC03 長さ 3m/5m
  • BELDEN 8412 長さ 3m/5m
  • BELDEN 9395 長さ 3m/5m
  • BELDEN 9778 長さ 3m/5m
  • BELDEN 8410 長さ 3m/5m
(注意)ギターケーブルとして使う事を前提にシミュレーションをしているので、 用途がオーディオ一般の場合には、直接参考にならないと思います。

更新 8/Sep/2013
BELDEN 8410 を追加
更新 8/Sep/2013
ケーブル長さ 5m でのシミュレーションを追加
(H)結果の早わかりまとめ
ギターケーブルの選び方 節約編
シミュレーション結果と実測値から、ギターケーブルの周波数特性は、その静電容量(pF)の影響を一番に受ける と考えて良いと思います。 またケーブルの静電容量は長さに比例します(長さが2倍になれば、静電容量も2倍)

よってケーブルの静電容量だけに着目した場合、以下のような節約的選択ができますが、 最終的な判断は各自でお願いします (プラグの形状、接触性、ケーブルの太さ・柔らかさ、耐久性、ノイズ耐性など 実際には他にも考慮すべき点があります)

  • BELDEN 8412 は比較的高価なので、特性が近くてより安価な BELDEN 9395 を代わりに使う。 あるいは、1.2倍程度長めの CANARE を使用するとちょうど 8412 の特性に近くなる。
  • 中音域寄りのピーク周波数が欲しい場合には、高価なケーブルを選ぶよりも、比較的安価で長いケーブルを使う。 CANARE ケーブルの長さ違いを何本か取り揃えておくと便利。
  • エフェクター間を接続するパッチケーブルは短いので、ケーブルによる特性差が小さい。 なので安価で接触性が良いケーブルを選べば十分と思える。
  • 高音域寄りのピーク周波数が欲しい場合には、CLASSIC PRO / Belden 8410 のような静電容量が小さいケーブルを選ぶ。 また可能であればケーブルを短くする。
  • (S)エフェクター前後のケーブルが音に与える影響で 確認したように「エフェクター前ケーブルは音重視で選び」、「エフェクター後ケーブルは扱いやすく安価なケーブルが使える」
(H)シミュレーション条件
等価回路(H)
(R)実測:ケーブルの周波数特性で使用した測定回路条件でシミュレーションを行いました。
ハムバッカーのシングルコイルタップに相当する回路定数を設定しています。 ケーブルの静電容量(pF)は 下図の Ccable 部分です。R3 の 1MOhm は測定時に接続したエフェクターの 入力インピーダンスです。 また音源の出力インピーダンス Rout を 10kOhm に設定しています。
C_Cable_RM_Data
シミュレーション条件(H)
ケーブルメーカのデータシートをもとに、ケーブルの静電容量を下表のように設定しました。 データシートは各メーカの Web からダウンロードできます。
Cable name Capacitance [pF/m] Cap. 3m[pF] Cap. 5m[pF]
Belden 8410 108 325 541
Belden 8412 190 571 951
Belden 9395 180 541 902
Belden 9778 148 443 738
Kanare GS-6 160 480 800

Belden 8412 の結線方法
8412の2芯線の1つをHot側に接続し、他方をシールドと一緒にCold側に接続する、一般的な結線方法での 静電容量を設定しています。
C_Cable_8412
[図] Belden 8412 の結線方法
(H)シミュレーション結果(周波数特性)
まとめ(各ケーブルの選択表)
シミュレーション結果と実測値から、各ケーブルの選択表をピーク周波数(共振周波数)別にまとめると 以下のようになります。
ピーク周波数 ケーブル 備考
標準的な特性 CANARE/BELDEN 9778 BELDEN 9778 は少しだけ高音域寄り
少し高音域寄り CLASSIC PRO/Belden 8410  
少し中音域寄り BELDEN 8412 / 9395 8412 と 9395との差はあまり無い

各ケーブルの周波数特性
周波数特性グラフを見てみましょう。ケーブルだけでなく、ピックアップを含んだ周波数特性になっています。 静電容量が小さいケーブルほど、ピーク周波数(共振周波数)が高くなっています。 けれども Belden 8410 を除けば、ピークの周波数の差は1KHz以内に収まっており、ケーブルによる差はさほど大きくありません。
またケーブル長 3m と 5m の特性を比較すると分かるように、またケーブルが長なる程ピーク周波数は低くなります。
C_Cable_SM_Data3m
[図] 各ケーブルの周波数特性 (3m)

C_Cable_SM_Data5m
[図] 各ケーブルの周波数特性 (5m)

実測値との比較
シミュレーション結果と実測値はほぼ一致していると考えて良いでしょう。 両者のピークの周波数(共振周波数)の差は、シミュレーションで設定した ハムバッカーピックアップのインダクタンスが、実際の値からずれているためと考えられますが、 今回のケーブル比較の観点からは問題無いでしょう。 (測定に使用したピックアップのデータが無く、インダクタンスには標準的な値を設定しました) C_8412_RM
[図] BELDEN 8412 長さ 3m 周波数特性