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紹介したい資料(一部未収集のものがあります)

題名 ハイヂ 世界少年文学名作集 第8巻


訳 : 野上彌生子
出版社 : 家庭読物刊行会 460頁 発行日:
1920/02/15大正9 価格:2円50銭
一葉/口絵及挿絵三色版 ; 三葉/口絵及挿絵写真版 箱有  当時の単純労働者の日当は50銭

説明  (参考画像)   リンク  リンク2(初版表紙紹介新聞記事)
ハイジの日本最初の翻訳。英語からの重訳。旧かなづかい。
わかりやすい文章で作品内容を充分に表現した画期的な翻訳だったとされる。
訳者は戦前から戦後まで長く活躍した実力派の作家。夏目漱石に師事し、ギリシャ神話なども翻訳。
小説の代表作は「秀吉と利休」など。
スピリ作品は他にも「コルネリの幸福」を訳出している。

現在もっとも代表的な翻訳は詩人である矢川澄子訳だが、矢川は野上訳を絶賛して
「ハイジはほんとに幸せな紹介者をえたものだ」と書いている。
また、日本における児童動物文学の代表ともいえる椋 鳩十がこの本に小学生のときに接して、大きな影響を受けている。
この本はアニメ・高畑ハイジの原本となったともされる。


題名 楓(かえで)物語


訳 : 山本憲美訳
出版社 : 福音書館(下関) 417頁 発行日:1925/6/10大正14 価格:2円

説明 (参考画像) (紹介)
英語からの重訳。小冊子形式で読みやすくなっている。頁数は多いが内容は簡略化されている。 
また登場人物が、楓(かえでちゃん)=ハイジ、久良子=クララ、弁太=ペーター、本間=ゼーゼマン、古井=ロッテンマイヤー、柴田=セバスチャン、お常=チネッテ、伊達=デーテと、名前が日本風に置きかえられている唯一の翻訳。
海外作品の名称置き換えなどの日本化は、明治・大正期には一般的だった。
(「不思議の国のアリス」は「愛ちゃんの夢物語」(1910)と訳されている)


題名 アルプスの山の娘(ハイヂ) 岩波文庫

訳 : 野上彌生子
出版社 : 岩波書店 321頁 発行日:1934/06/15
 昭9年  価格:40銭

説明 (参考画像)
この版が長くハイジの代表的翻訳となる。1920年に訳されたものを改定。
19
49/04/20 第15刷100円、1952/07/31_22刷120円と戦後のインフレを反映して価格改定されていく。

「美しいアルプスの自然を愛する純真な少女ハイヂの物語。スイスの女流作家ヨハンナ・スピリの代表作を野上弥生子の名訳で贈る。」とブックカバーの紹介文(1991)にある。
1935/02/05 昭10 第03刷 40銭(所蔵)  1950/09/10 昭25 第18刷
1935/08/15 昭10 第04刷 1952/07/31 昭27 第22刷 120円(所蔵)
1939/10/30 昭14 第10刷 40銭(所蔵)   
1941/09/15 昭16 第13刷改版  1991/03/07 平03 第30刷 553円(所蔵)
1949/04/20 昭24 第15刷 100円(所蔵)  


題名 アルプスの少女 世界繪入童話


訳編 : 秋葉かずお
出版社 : 岩井書店 128頁 発行日:1947/05/05 価格:25円
カラー口絵有  さし絵 高井貞二

説明 (参考画像)
終戦直後にブーム的に出版されたハイジ・スピリ本の一冊。
もっとも早く新かなづかいを使用している。
小学生むきに簡略訳されている。


題名 アルプスの山の娘 上・下(ハイヂ) わかくさ文庫 5,6


訳 : 永田義直
出版社 : 嫩草書房(わかくさしょぼう) 発行日: 上巻1947/08/10昭和22( 下巻09/10)

説明 (参考画像)
抄訳 旧かなづかい 装幀・山本慶之助 
 上巻206頁 35円 「まへがき」1-2頁、「あとがき」205-206頁 ハイジ第1部のみ
 下巻138頁 25円 「まへがき」1-2頁 ハイジ第2部のみ
出版社は神戸で印刷は岐阜県大垣市


題名 アルプスの山の少女


訳 : 水島あやめ 1903(明治36)-1990(平成2)  さし絵 高井貞二
出版社 : 文化書院 298頁 発行日:1947/09/20
昭和22 価格:60円 →(1948/07/05 昭和23 価格:90円) 

説明 (参考画像)
水島あやめは、日本で最初の女流映画シナリオライター(脚本家)・少女小説作家
。山梨県大月市出身。
31本の映画の原作を執筆し、男性中心の戦前の映画の世界にあって、さまざまな障壁をのりこえて活躍。
多くの「母もの」「少女もの」を手がけ、作風は「小道に咲くスミレの花のよう。かれんで爽やかでみずみずしい」とされた。
水島あやめの「ハイジ」は、3回出版された。いずれも戦後まもなくに集中していて、人気のほどがうかがえる。

また「「家なき娘(ペリーヌ物語)」なども翻訳し、それが日本アニメのアニメ化企画書の挿絵の原本になったそうである。

このころの日本経済は破綻状態。翌年1948年の再版では
50パーセントの値上げとなっている。


題名 ハイジ物語 世界少年文学選集


訳 : 近藤東
出版社 : 大雅堂 176頁 発行日:1947/09/20
昭和23 価格:130円 

説明 (参考画像)
堀文子絵  「読んだあとに」173-176頁所収
(この中で訳者が「カエデ物語」を紹介している)


題名 アルプスの少女  名作物語

訳  : 吉田絃二郎
出版社 : 講談社 346頁 発行日:1949/06/30 昭和24  価格:?円

説明 (参考画像)
蕗谷虹児絵 図版有 かなりの意訳
インフレが激しく、価格改定されており定価不明 おそらく120-150円前後だったと思われる。
簡略型のハードカバー。表紙の厚紙が半分程度で貧弱。

吉田絃二郎(1886-1956)。佐賀県出身。早稲田英文科。大正から昭和10年代に活躍した人気小説家。随筆集『小鳥の来る日』はベストセラーとなり、二百版を越えた。

蕗谷虹児(ふきやこうじ)(1898明治31-1979昭和54) 新潟県新発田市出身。
大正・昭和期の挿画家、詩人。竹久夢二の紹介により「少女画報」の挿絵を虹児の筆名で描きデビュー。
モダンな画風で一世を風靡し、戦前・戦後を通して活躍。現在でも人気が高い。



題名 小さき明星 少女小説

 : 水島あやめ (原作者表記なし)
出版社 : 三和社 298頁 発行日:1949/10/01
昭和24 価格:100円

説明  (参考画像)
カラー口絵有  さし絵 内田雅美 

内容は水島あやめ訳・文化書院版とほぼ同じ。
題名を変えて別の出版社からの再版。
この題名は、ハイジの邦題としては珍しい。



題名 アルプスの少女 世界児童文庫

訳  : 馬場正男訳
出版社 : 千代田書房  287頁 発行日:1950/01/15昭和25 価格:160円

説明  (参考画像)
瀧口二郎・表紙え、さしえ
成城教育研究所編 辰野隆・中野好夫監修 「ぐっと読みやすいものにしたのです」とある。いずれ野上弥生子訳に触れるように薦めている。
序文3頁 
どの章の終わりにも「解説・教師が生徒に読み方を示唆する小文」がある。
あとがき4頁 
編者の介入が多く、学習目的が強調された版である。 馬場正男は以後、1974年まで5回ハイジを紹介している。



題名 アルプスの少女 世界名作文庫 ; 11

訳  : 水島あやめ
出版社 : 偕成社 332頁 発行日:1950/04/25 昭和25  価格:130円地方135 (1952年再版150円地方155円)

説明  (参考画像)
カラー口絵裏表2頁 佐藤漾子絵 1952年に再版されたものと同じ。
「この物語について」(作者)1-2頁所収 訳者のコメントがはじめて記されている。

文章はこれまで二回出版されたものをベースに、大幅に書き直されている。
ここまでのリライトは大変な作業であったと思われる。従来より漢字の使用は若干少なくなっている。



題名 アルプスの山の乙女 中学生全集 ; 1

訳 : 野上彌生子
出版社 : 筑摩書房 250頁 発行日:1950/07/01/昭和25 価格:170円、地方180円

説明  (参考画像)
カラー口絵「アルプスのまひる(部分)(1892)」(倉敷 大原美術館蔵)
ジョヴェンニ・セガンチニ
SEGANTINI, Giovanni イタリヤ)1858-1899

簡略訳となっている。 訳文は岩波文庫版とほぼ同じだが、文を省略して短縮化している。
「ハイヂ」の名前などもそのまま。
口絵に野上弥生子がセガンチーニを使用を指定したかどうかは不明。
この絵は明治に白樺派によって日本に紹介され、当時の日本ではセガンチーニはアルプスを代表する画家として知られていた。



題名 アルプスの少女ハイヂ

訳  : 阿部 賀隆
出版社 : アテネ出版社 342頁 発行日:1950? 価格: ?円

説明 (参考画像)
詳細不明 
関泰祐・阿部賀隆共訳の角川文庫版(1952)と関係があると思われる。



題名 ハイジ アルプスの少女  上下巻 富士ライブラリー 少年少女世界名作全集

訳  : 植田 敏郎
出版社 : 富士メール 上巻276頁 下巻281頁 発行日:1950? 価格:??円

説明 (参考画像)
詳細不明 植田 敏郎については新潮文庫版 参照 出版時期不明 



題名 アルプスの山の少女 小学生文庫9


訳  : 吉田絃二郎
出版社 : 小峰書店 65頁 発行日:1950/07/25 価格:100円


説明  (参考画像)
絵 森田元子 毎ページにさしえのある低学年用 絵本に近い

蕗谷虹児絵の本と、同じ訳者により、同一年に読者の対象年齢を変えて、新たに出版された。
同じ文章もあるが、はるかに短く、小学生用にまったく新規に書き改められている。



ハイジ 日本語訳 総合紹介 1


 ここでは、野上弥生子による日本での記念すべき初訳から、太平洋戦争の影響がまだ色濃い終戦直後の「ハイヂ」たちをご紹介しました。

 データの作成や、閲覧の便利さを考えて、年代順に15冊ずつを表示していきます。
 日本で出版されたすべての版を網羅するのが目的ですが、存在が確認されても内容がわからないもの、まったく未確認の書籍なども、まだまだあることでしょう。

 すでに存在しない出版社も数多く、多くの人々のご協力をお願いしたいです。

 戦後の混乱期の本は、紙質がきわめて悪く、すでに劣化が進行していて、普通の読書には耐えない状態のものがほとんどです。

 しかし一冊一冊手にとってみると、この時期のハイジの紹介のペースの速さ、同じ訳者による、出版社を変えての出版がくりかえされたことを実感させられます。

 野上弥生子が、中学生向けにリライトまでしていたのはおどろきました。
 当時の人気少女小説作家・水島あやめや、往年の人気作家吉田絃二郎や挿絵でも蕗谷虹児が作品をてがけるなど、ビックネームの登場は、それだけの需要があったことがうかがえます。

 すべてが不足していた時代ですが、平和の到来をむかえた喜びと熱気を感じさせます。
 
 もちろん児童文学の商業利用は容赦なく行なわれています。

 また、中川李枝子(絵本「ぐりとぐら」作者)は、昭和20年代の少女クラブに掲載された蕗谷虹児のハイジのイラストをみて、「なよなよした少女趣味の絵で、ハイジには合わなかった」(「なつかしい本の記録」岩波少年文庫)とも言っています。

総合目録