絵、なに?(13)FEVERNOVA 6/27
今回のW杯で使われたボール、フィーバーノヴァの評判が、選手たちの間でよくないそうです。ぼくは使っていないので全然わからないけど、これまでのボールに比べて軽すぎるらしい。
そしてイラストレーターの立場からも、これはよくない! 理由は、絵に描きにくいから。今までのボールを思い出してください(上図)。左二つはどちらも描きやすい。黒1色で描けるし。ところがフィーバーノヴァは、パターンの形も色もややこしい。イラストレーター泣かせというだけでなく、一般
の人たちにも明確な記憶が残りません。デザイナーはもっとシンプルなデザインを考えられなかったの?
さらに、ちょっとした疑問。FEVERNOVA の二つのV、日本語表記では、どうして前がバで後がヴァなんだろう?
絵、なに?(12) 絵本原画の世界展 6/6
1日(土)「絵本原画の世界展」(練馬区立美術館、9日まで)に行きました。『こどものとも』名作の原画をたくさん見ることができました。作家は、秋野不矩、朝倉摂、田島征三、長新太、中谷千代子、西巻茅子、山本忠敬、山脇百合子、わー、とても書ききれない。作家の筆の動き・息づかいが感じられる原画の美しさ、生命力、躍動感をたっぷりと味わいました。
個人的には『おおきなかぶ』(佐藤忠良)の原画が見られたことに感激。新発見は『だいちゃんとうみ』(太田大八)の線と色のすばらしさ。ぜひ本を買おうと思いました。
最近、絵本にご無沙汰しているものだから、いい刺激になりました。改めて感じたことは、みなさん丁寧に描いているということ。もちろんテクニックもあるけれど、それだけではなく、絵に込めた気持ちです。それが画面
にあふれています。だから見ているうちに気持ちが弾んできます。
月並みなセリフですが、絵本は、何歳になってもぼくたちのふるさとだと思います。ここに帰ってくれば、ぼくたちは命を取り戻せます。
絵、なに?(11) プラド美術館展 3/28
上野の国立西洋美術館で開催中の展覧会に行って来ました。ベラスケス、ムリーリョ、ルーベンス、ゴヤなどの作品が展示されています。ぼくはムリーリョの描く女性が、フラ・アンジェリコやラファエロの女性と同じくらい好きで、『無原罪の御宿り』が見られたのは幸せでした。
でも下にいる天使たち、こんなにちっちゃい羽で空を飛べるのかいな。
17世紀ごろの西洋絵画のリアリズムは目を見張るばかり。肖像画はどれも細部を病的なまでに描き込んでいます。ある貴婦人の肖像画は青い衣服や宝石や髪飾りが、見事な質感をもって克明に描かれていました。驚嘆して見ていると、ぼくの近くで見ていた50代とおぼしき二人の女性が「これはすごいわねえ」と話しているのが聞こえ、同じように驚いているのだなあと思っていたら「こんなすてきな宝石の飾り、この時代にあったのねえ」「いいわねえ。こういう服、着てみたいわ」……う〜む、視点が違うようです。
絵、なに?
(10) 形と色 1/19
町で人をスケッチするのは、時間との勝負です。電車の中などでは、いったんペンを動かし始めたら、精神を集中してペンで対象物に触れています。もし集中できなくなると形が崩れ、それは線にはっきり出てきます。
形と色について最近自分のクセに気がつきました。 彩色は帰宅後にやるのですが、短時間で人をスケッチしようとすると、形の方に注意が行ってしまい、色を覚えられなくなることがあるのです。
「あの人のコート、どんな色だったっけ?」と必死に思い出そうとするのですが、だめ。どうもぼくは色の人ではなく、形の人のようです。いや、訓練が足りないだけかな?
色についても人によって、何色に強いかが違っているのだそうです。青なら細かい識別
ができるが、赤には弱いといったようなことです。みなさんはどうですか?
絵、なに?
(9) 筆文字 1/8/02
子どもたちが、冬休みの宿題で書き初めをしていました。墨の香り、いいですね。ぼくは子どもの頃、きれいな字を書こうと努力したことがなく、マンガ文字ばかり書いていたので、書道などはまるでダメ。でもここ数年、絵と文字の関連性に注目しています。魅力的な絵を描く人は、文字も魅力的だということがわかってきて、もう少しまともな字を書かなければ、と思うようになりました。
グラフィックデザインでは文字はタイポグラフィーですから、おろそかにしていいわけがない。
特に筆文字。書道が得意な人は、年賀状なども、それだけで十分絵になります。今年も肉筆の美しい賀状を何枚もいただきました。達筆じゃなくていいから、せめて見て心地よい字を書きたい。六十の手習い(一応まだ四十代半ばです)ということで、ぼちぼち始めてみようかと考えているのです。
絵、なに?(8) 年賀状 12/27
コンピュータのおかげで、年賀状の作り方がすっかり変わりました。プリントごっこでやっていたころが懐かしく感じられますが、創造性や応用性を考えると、やはりコンピュータ。それでも、ぼくは手作りのタッチは残しておきたいと思っています。年賀状に限らず何でもそうですが、作者の体温や表情が見えてくるものが、ぼくは好きなのです。……なんて言わなくても、どうせ見えちゃうんだけど。ま、基本は、ぼくからあなたへ、です。
去年から、子どもたちの年賀状もコンピュータを通して仕上げていますが、結構うるさいクライアントです。「ここはもう少し明るくして」「ここが赤い方がいいんじゃない」……いつものこととはいえ、下請け業者の苦労をここでもしみじみと味わっております。デザイン料よこせえ〜。
みなさん、どうぞよいお年を。
絵、なに?(7)
アメリカの色
11/?
アメリカらしいパターンというと、すぐに星条旗を思い出して、特にテロ事件以後はあちこちで掲げられているようですから、明らかにアイデンティティーの一つです。あの紅白のストライプ、青に白抜きの星の図形を描けば、どんなデザインでもアメリカっぽく感じられるのですが、ぼくが思うに、アメリカ人が意外に好きな色は紫ではないでしょうか。■←こういう色。
商品、パッケージ、チラシなど、アメリカン・デザインを見るとき、ちょっと気をつけて見てください。きちんとしたデータがあるわけではありませんが、少なくとも日本人よりはよく使っていると思います。スポーツウェアでこの系統の色は、日本でもかなり一般
的になっていますけど。
やや人工的な印象が新鮮な印象を与えて、アクセントにはなりますが、使い方を間違うと気持ち悪くなります。
絵、なに?(6)
暇つぶし 11/5
電車の中、郵便局、病院の待合室などで、何もすることがないとき、何をしてますか? 雑誌や新聞あるいは本を読むという人が一番多いだろうと思いますが、本がないときは?考えごと?
ぼくはときどき、周りにあるものや人を観察して、頭の中でスケッチしています。
イスやカウンターの形、人の表情、服装などなど、見慣れていてもよく見ると、意外な驚きがたくさんあります。誰かの鞄が意味ありげにふくらんでいたりすると、今度はそこからお話が生まれるかもしれません。
道を歩いていれば、落ち葉がたくさん。葉っぱの形も色も、種類によってこんなに違うのかと、改めて自然の豊かさに感心したり。
紙とペンが近くにあれば、形を定着できますからなおいいのですが、そこまでいかなくても、頭で描くだけで(と言っても手は動いている)十分な暇つぶしはできます。
絵、なに?
(5) 10/19
仕事ではIllustratorやPhotoshopなどのアプリケーションを使うことが多いのですが、これは手描きの絵に取って代わるものではありません。手描きやコンピュータソフト、それぞれの長所を生かして制作しています。
ところで「いい絵」「生き生きした線や色」とは何だろうと、よく思います。コンピュータを使えば新しくていい絵になるわけではないのです。ベアトリクス・ポターや山脇百合子さんの絵はなぜ古びないんだろう?絵が達者というのとは違う。流行りのアニメや3Dイラストの多くは、似たり寄ったりの絵柄。そして間違いなく、数年後には古びます。
やはりここは基本に戻って、実物をしっかり見て描くことから始めようと思いました。そこから自分の「いい線」が見つかる。
絵、なに? (4)
10/17
自分の絵が下手なことは百も承知しているから、人前で堂々と描けばいいじゃないか、とこのごろ開き直っています。遠慮してたらいつまでたってもいい絵は描けない。達者な絵を描いて自慢したいんじゃないのです。下手な絵をひたすら描きためていくだけ。そしてもっといい絵が描けるようになりたいと思っています。
絵ができあがったら、てらいなく、モデルになってくれた人に見せるようにしてます。
絵に描くこと自体もその人とのコミュニケーションですが、絵を見てもらうことはコミュニケーションの第2段階。そこで新たな話題が生まれて、結構楽しかったりします。でもこんなふうに作品を見せるのは、ほとんど知り合いの場合です。
知り合いでも見知らぬ人でも、気づかれていてもいなくても、描いていきます。
絵、なに? (3)
10/15
(1)で「ぼくの線を通して、その人の美しさが表れれば、いい絵ができたということ」と書きましたが、実際は逆で、むしろモデルを通
して画家が自分を表しているのです。
10年前に買った本『人間を描こう』(喜多迅鷹著、日貿出版社)を本棚から引っぱり出してきて読んでみました。作者は美術大学を出たわけではないのですが、絵を描くのが好きだったのでしょう。とにかく世界各地を旅行して、人物をスケッチし続けています。
著者が絵について語っていることは、ひとつひとつ共感することばかりです。たとえば、「モデルがいないことを嘆くよりも、描こうという意欲の不足を嘆いた方がいい場合がはるかに多い」「描くということは、たとえその人には気づかれないとしても、その人のプライバシーを侵そうという企て」……あたってるぅ。
絵、なに? (2)
10/12
写真を上手に撮れる人は、無自覚にシャッターを切ることはしないでしょう。対象の美しさや真実を引き出すために、入念な準備をするだろうし、シャッターを切るときの気合いが違うはずです。
ビデオでもスチルカメラでも、機械の持つ便利さだけに頼ってしまうと、しまりのない写真ができあがってしまう。それに、対象に踏み込もうともせずに一瞬で済ませる素人撮影は、相手が人間でも風景でも、決していいものを生み出さないんじゃないか? ……そんなことを思うようになりました。
対象の中へ入っていくために、 面倒でも、時間がかかっても、絵を描く。それをやってみようと思ったのです。時間をかけて見つめ、描くことで、対象にふれ、コミュニケートする。これは勇気がいります。気弱なぼくにとっては一大決心です。
絵、なに? (1)
10/8/01
「私は肖像画を描くたびに友人をなくしてしまう(Every time I paint a portrait,
I lose a friend.) 」と言った画家がいたそうです。ぼくも人の顔をかきますが、あまり変なふうにもしない代わり、お世辞のような表現もしないようにしています。ぼくの線を通
して、その人の美しさが表れれば、いい絵ができたということでしょう。
このごろとにかく何でもスケッチをするようになり、人の顔にしても写真ではなく実物を見て描いています(有名人ならテレビの画面
を見て)。ぼくの目の前にいるときは、モデルにされてしまっている人もきっと緊張しているだろうと思いつつ、でもそれは紛れもなく一つのコミュニケーションです。たった5分間でも、時間をかけて書いた肖像は、無自覚にシャッターを押してできあがる写
真よりも、本人に喜ばれることが多いようです。
絵、なに?B(14〜25
) C(26〜)
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