公式HPにひとしきり「最期の表情が見たかった」「彼の最期の様子が知りたい」「時間が短すぎる」などの書き込みが相次いでいたとき、その中で「もう十分です」という書き込みがあったのを覚えている。
映像がなくても、ヒントとなる場面はあったから、もうそれであえて映さなくても十分ですっていう意見だった。
直江先生が部屋中に広げられたレントゲン写真の上に倒れかかるシーンがある。レントゲン写真はあたかも湖の水面のようだと。あのシーンで直江先生の最期のシーンを想像できると。
この書き込みを見たとき、私は感動した。実は私も時間が短すぎると思っていたのだが、この書き込みをみて、なるほどと思った。すごい、とも思った。
で、このようなシーンがほかにもないかと思ったら、あった。それは、直江先生が七瀬先生に会うためにマンションを出るシーンだ。テーブルの上にあったガラスのボートをポケットにしまう。そして、マンションを出るとき、部屋を振り返って遠い目をする。
「このとき直江先生は部屋に戻ってくるつもりはなかったのでは」という意見があるが、私は6話の時点ではそんなことは真剣に考えていなかったのではないかと思う。もちろん、自棄になっていた気持ちはあっただろうから、まったく否定はできないけれど。
しかし、部屋を振り返った直江先生の表情には確かに「もう戻らない」という悲壮感があった。だから、この直江先生の姿は、北海道に発つ前、マンションを後にするときの姿ではないかと思うのだ。ガラスのボートは確かに最期まで直江先生は持っていったし。
ビデオを撮り、封筒に「志村倫子様」と書き、ハーモニカとともに椅子の上に置く。ここなら彼女はすぐに見つけてくれるだろう。
そして、コートを着て、ガラスのボートをポケットにしまって、マンションを出る。部屋を出る前に、振り返る。そのとき、彼の頭に蘇ったものはなんだったのだろうか。
|