謹慎中の直江の様子はおかしかった。
その状態に、倫子はつい「三樹子さんなら先生を救えるんですか」と言ってしまう。
そして、その三樹子に「あなたにあの人は無理よ」と言われる。
『あなたはあの人に不釣合い』
『あなたの手に負えるような人じゃない』
そういう意味。
これが「私じゃだめだったの?」という泣いた理由。
直江に拒絶された三樹子は彼の態度が変わったのは倫子のせいだと思い、倫子を呼び出す。
「プライベートなことですから」と「愛されてるならそれでいいじゃないですか」と
三樹子に強気に立ち向かった倫子だったが、去り際の「あなたにあの人は無理よ」は心にグサリと突き刺さった。
ただ直江のそばにいたいと願っていた倫子は、この前日、この思いを直江に拒絶されている。
「何を勘違いしてるんだ」
「そんなこと言われてオレが喜ぶとでも思ったか」
「オレは君が考えているような男じゃない」
倫子は直江が何かを抱えて苦しんでいることを知っている。
でもそんなことを微塵も見せずに何もなかったかのように振る舞っている彼を知っている。
多分倫子は自分がそばにいることで、直江の張り詰めた気持ちが少しでも楽になればと
ただそれだけを願っていたんだろう。でも、拒絶された。
三樹子のいうように、『私なんか先生を救えないかもしれない』と思ったはずだ。
その後、直江が自分を受け入れてくれても、二人で北海道に行っても、
「私がそばにいることで先生の負担になってはいないか」
「私は先生のために何かしてあげられているのか」
という不安はいつもあった。
一緒にいられて幸せだと思う裏で、何か言いようのない不安にかられる。
そしてその不安は的中し、直江はたった一人で逝ってしまった。
ああやはり、私ではだめだったのだ。私は先生を救えなかったのだ。
「私じゃだめだったの?」と泣きじゃくる彼女は、自分の存在が彼の救いにならなかったと思ったんだろう。
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