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カエデさんが書いたサイドストーリー 「道程(みちのり)」


■ 16
 運 命

直江は土手に寝転がっていた。
トク,トク,トク...
自分の心臓の音がこんなに愛しいとは,病気になるまで気付かなかった。
−ああ,自分は生きているんだ−
そう感じて安心する。
三樹子との関係は相変わらず続いており,小夜子からは治験薬を受け取っていた。
ばれたら大変なことになるのはわかっていたが,直江は半ば自棄になっていた。
長野にいたころに比べたら,ずいぶんと自分も堕落したものだと思う。
神経の休まる時間など,ほとんどない。
夜ですら...眠るのが怖くなるときがある。安眠には程遠い状態だった。

『この音を聞きながらなら眠れそうだ...』

うとうとしかけたとき,右手に何かが当たった。
蜜柑だった。
こんな場所に不釣り合いな蜜柑は,直江が手を除けると川に落ちた。
...頭上で女性の声がする。
「もう一個見っけ! 行くよー!」
生き生きとした健康的な女性だった。母親にだろうか,蜜柑を勢いよく投げている。
あの蜜柑は彼女が落としたものだったのか。
その場にいる直江に微笑みかけて,彼女は去っていった。眩しい笑顔だった。

「最近,二関さんがよく直江先生のところにくるわね」
「そうなのよ。この間も直江先生が当直のときに来て,長い間二人で医局にいたみたいよ」
フロノスはマンションで受け取ることにしていたが,小夜子から受け取るフロノスの量は徐々にではあるが増えていた。時には病院で受け取ることもあった。
看護婦が小夜子との関係を噂しているのも知っていたが,放っておいた。
院長の耳に届く頃には自分はもうここにはいないだろう。
彼女だってデータさえ渡せば文句はないはずだ。

当直の夜,直江は痛みに襲われた。
すでに病院でも痛みに襲われ,フロノスは机の引出しに常備していた。
フロノスを投与してもその日の痛みはなかなか治まらない。
高木看護婦に外出することを告げると,直江は一人外に出ていった。
酒でも飲んで痛みを忘れたかった。
「プランタン,か。」
彼がよく使うバーはプランタンといった。
『オレは春まで持つだろうか。歩けなくなってからでは遅い...』
鈍い痛みはまだ続いていた。

「直江先生,病院からお電話ですよ」
「...直江です」

終わり

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