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豊倉賢略歴
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2007C-2,2 鵜飼 健司 1993年大学院博士後期課程修了  (工学博士)

 
  鵜飼さんは豊倉が早稲田大学を退職した年の3月大学院を修了して工学博士の称号を取得した卒業生です。今回鵜飼さんが寄稿した記事にも記述されているように、鵜飼さんは卒論研究を始めてから6年間豊倉が世話した最後の学生で、豊倉の退職に関連した行事には卒業生の世話役や研究室の纏め役をしていた平沢教授と研究室学生の実働部隊との間で調整役を果たした。特に大学院後期では、理工学部助手を兼務して毎週決められた時間に担当科目の担任教員の下で学部学生の教育補助も務めた。

  鵜飼さんは、学部在籍中の成績は応用化学科学生中のトップクラスで、大学院へは推薦にて進学した。研究室に所属した学生間では中心的な存在で研究室行事の世話もしていたようであった。学業においては、どの科目も満遍なくよく勉強していたようで、どの科目もそつなく良く出来たようであった。その意味では、どの科目がずば抜けて素晴らしいのかはっきりしないようでもあったが、何事についても自分の考えをしっかり持っていて、時に応じて自分の考えていることを自信を持ってハッキリ述べていたようであった。早稲田大学の学生は、皆それなりに自分で考えた意見を持ち、それに基づいて行動していた。そのことは、学生として素晴らしいことであり、そのような行動が的確に行える学生は優秀学生としてみなされ、何処へ行っても高く評価されていた。

  豊倉はそれを実行出来る学生を育てることを教育の一つの目標にしていたが、早稲田大学の卒業生が活躍する場はそのような優れた人達が集まる場であり、そのような人達の間でも充分活躍出来る卒業生を送り出すように務めた。そのことは、通常の高等教育を受けた人がそれまでに学び、経験したことで考えても判断できないことに対して、独自の考えに基づいて周囲の人達が評価するような提案をするような学生に育てることと考えていた。化学工学会のトップクラスの人達が集まる会合の懇親会で、最近工学博士を取得した若手研究者の中には、新しい知識は豊富になっているが、自分自身の独自な研究手法を身に付けてない人が多くなっていると嘆く話を耳にすることもあったが、そのように歪められた学卒者世に送り出してはならないと気にしていた。それは、日本やアジアの国々で受験戦争が厳しくなり。試験の成績が重視された近視眼的な教育制度(先進国に追い着こうとする後進国的な評価法で、真の先進国になるためには弊害になることがあると考えている。)に対する有識者の声が高くなってきていると豊倉も考えていた。

  豊倉は本来、大学院の学生教育は、オリジナル理論・技術の構築に貢献できる研究者・技術者を養成することと考えて研究指導をしてきた。特に、鵜飼さんには大学院の研究を通してオリジナルな研究成果を上げることによって、オリジナルな研究成果を提出する考え方と方法を身につけることを期待していた。鵜飼さんが記述した博士後期課程の思い出の中に反省めいた記述があるが、それは学問や研究することに対する彼の謙虚さのあらわれで、豊倉は鵜飼さんが記述しているように物足りないと思ったことはなく、むしろ研究を進める難しさの実感を表しているように読みとれた。豊倉が考える化学工学基礎の研究目標の一つは、まず、新しい実験事実を発見することであり、それによって操作条件の実験結果に対する寄与を明らかにしてそれらの定量的な関係を提出することである。その次の段階としては、それに続く新しい理論への展開や新しい生産技術構築への発展等があり、鵜飼さんの一連の研究はこの過程を辿って着実に成果を上げたと評価している。特に鵜飼さんの研究実験で明らかにしたカルサイトの効率的な反応晶析段階で、過渡的な準安定中間体が生成し、それが転移する現象はカルサイトの晶析に適切な過飽和状態を提供している実験事実を見出したもので、この分野における画期的な発見であった。このような発見ができたのは、鵜飼さんが記事にも書いているように、化学実験をキチンと行って実験結果を出すことに熱中したからであって、自分の得意なことを自信持って進めたためと思っている。新しい貴重な研究成果は自分の得意なことに没頭して初めて得られるもので、それは、これから研究活動を志そうとする若い研究者・技術者の参考になる貴重な記事である。

  鵜飼さんは自分の考えで、大学院修了後東邦ガス(株)に就職し、総合技術研究所に勤務している。そこで行っている研究課題は大学院でのそれと異なっているようだが、大学院での経験はそこでの活動に役に立っているようで、物事の本質をよく理解するとそこでの経験は一見全く異なったように見える分野の仕事にも役立つもので、近い将来それらの経験を通して構築している鵜飼さんの研究哲学などを再度寄稿して頂き、同門卒業生と発展的な討議が出来たらと期待している。   (07年3月、豊倉記)

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(鵜飼 健司)

略歴
1999年 3月 博士後期過程終了
1999年 4月 東邦ガス株式会社入社、総合技術研究所配属
 以降、現在に至る。

賞罰

1999年 3月 早稲田大学水野賞受賞
2005年 6月 日本ガス協会論文賞受賞


「 博士後期課程の振り返り・近況報告 」

はじめに
 1999年博士後期課程修了の鵜飼と申します。豊倉・平沢研究室OB・OGの皆様、こんにちは。豊倉先生がご退官される際には、平沢先生と一緒に記念文集の編集やご退官記念パーティーの準備でドタバタとしていたのが、もう随分と昔の事のように感じられます。その節は、至らぬところも多々あったかと思いますがご容赦下さい。

 豊倉先生に最後にご指導頂いた博士後期課程修了生でありながら、先生に薦めていただいた就職先とは全く分野違いのガス会社に就職しており、直接的には晶析や化学工学とは関連性の無い仕事をしております(後で触れますが間接的には役に立って?おります)。今回、こんな私にも原稿のご依頼を頂きましたので、雑駁ではありますが、過去の振り返り、近況報告や最近考えている事など記させて頂きました。

博士後期課程時代を振り返って
  修士課程から博士後期課程に渡る5年間を振り返って見ると、研究の進め方においては、先生の言われたことをあまり聞かずにマイペースでやらせて頂いたと思っています。元来、手を動かすことが好きで、考えるよりも先に実験をした方が早いと思う性質でしたので、実験も重要では有るがそこから理論(=式の導出)を求めることに重きを置かれる先生に対し、理論の追求は二の次で、新しい実験結果を出すことに熱中していたため(勿論、それなり頭を使って考察はしましたが)、先生にとっては物足りない学生ではなかったのかなと思っています。

  それにも拘らず、たくさんのディスカッションの時間を割いて頂き、考える力を大いに養わせて頂いたことに感謝しております。今は全く、分野外の仕事をしており、さらにどちらかというと技術ではなく、マネジメント中心の仕事をしています(手を動かす仕事が無いのがとても不満ではありますが、やむを得ないですね)。ただ、月並みな言葉ですが、大事なのは研究(=仕事)に対するアプローチの仕方であり、養わせて頂いた物事の見方、考え方は仕事を進める上で大いに役立っております。

現在の仕事内容
 入社して直ぐに研究所に配属されてからは一度も異動が無く、しかも同じ研究テーマを担当しています。研究テーマは固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発です。私の属する東邦ガスは都市ガス業界では業界3位の規模とはいえ、東京ガス、大阪ガスに比べると遥かに規模も小さく、研究開発といっても出来る事は知れています。ただ、小さいになりにも特定分野は大事に育てており、私の担当テーマもその一つとして扱ってもらっています。一寸した宣伝としては、昨年の愛知万博で国内では初めてSOFCを公共の場で運転しました。(そのおかげで、メンテナンス諸々の対応で、半年間の開催期間中に万博会場に20回以上出向く破目になりました。しかし、裏方仕事のみでパビリオン見学はしていません。残念ですが・・・)

  このSOFCについては、当社は基礎的な材料開発から手掛けており、現在、幾つかのメーカーと共同で開発成果をベースとして商品化開発をしています。SOFCは酸素イオン導電性のあるセラミックスを用いており、当社ではスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)という材料をベースに開発していますが、これ以外にも電極触媒に用いるレアアースの複合粉体もありまして、これらをメーカーにスペックを提示して作ってもらっています。使う側からしてみれば、組成をきっちり合わせるのは当たり前として、出来上がった粒子は単分散で比表面積もきっちりと指定スペック通りに作り込んだものが欲しいわけですが、実際には、2成分から5成分系のものを共沈法で作っている訳ですので、組成ずれがあったり、ロット間で物性の振れが大きいなどなかなか良い物は出来てきません。そういった場合に、晶析を専攻していただけに作る方の難しさは良く理解しており、心の中で相手に悪いなあと思いつつも、使う側の立場から、もっとしっかりと作り込みをしてくれと要望している次第です。従ってメーカーとのディスカッションでは、過去に積み重ねた知識が役にたっており、昔を思い出しながら議論しています。

  最近は、自動車用や家庭用の1kWクラスのもので固体高分子(PEFC)タイプが盛んに開発されておりますが、SOFCにはPEFCとは異なる利点がありますので、少しでも早く市場に出せるように努力しておりますので、市場に出た際にはよろしくご検討下さい。

ガス機器事故について
  昨今、ガス機器のCO中毒問題で世の中をお騒がせしております。お客様への周知が不足していたことは真摯に反省すべきで業界の者としてお詫び申し上げます。ただ、問題の根底にあるのは、商品の作り手の常識と消費者との乖離であり、これはガス機器だけの問題ではないと考えています。この乖離の象徴的なものとして、あるガス機器メーカーのトップが、「換気扇を回さずに給湯器を使うことは考えていなかった」という趣旨の発言をしておりました。屋内の空気を用いて燃焼させる機器の説明書には換気が必要事は記載していますし、作り手としては換気扇を回すというのは常識だと思っています。しかし、実際はそうではなく換気扇を回さないで給湯器を使うお客様が少なからずいることがわかった段階で、注意を喚起する対策を打つ必要があったのだと思います。ただ、この判断は難しいところで、例えば、車のタイヤをぎりぎりまで使うと制動距離が伸びる危険性をもっと周知すれば(営業車に多そうですが、残り溝が無いとか、ヒビが入ったようなタイヤで走っている車を見かけます)、年間何千人も亡くなっている自動車事故も少しは減るかと思いますが、それほど積極的な周知をしているようには思えません(自動車関連の方、悪意はありませんのであくまでも例えとして読み流して下さい)。

  いずれにせよ、商品を提供する側、特に開発する技術者としては、如何にお客様の視点、常識で考えられるか重要であり、何か気づくことがあったら、本当のお客様視点で考えてみることが必要だと思います。昨今、効率性重視で、会社側の都合で問題が起きることもしばしばありますので、会社の論理だけではなく一技術者の良心として上記の心構えは持ち続けたいと思います。

子供を取り巻く環境について
  私事ですが、一昨年、1歳11ヶ月の息子を亡くしました。心室中隔欠損や心臓と肺が繋がっていない等を合併した先天性の心臓疾患で、手術で肺に血がまわるようにバイパスの人工血管を入れるなどして延命措置は取っていたのですが、力及ばすでした。当時は入退院の繰り返しで、家内にも娘にも相当な負担が掛かっていたと思いますが、その日を生きることに真剣に向き合うと全くそのようには感じなかったように思います。その縁で心臓病の患者会に入っていたのですが、どこの家族も明るく皆さん元気にやっておられました。   その事を思うと、最近、自殺、他殺を問わずに子供の痛ましい事件を聞くたびに悲しい思いをします。口先ばかりで出来ることは無いのですが、どんな小さなことでも良いので、皆様も身の回りで子供が安全に過ごせるように少しでも気配りをして頂ければと思います。


  特に、いじめの問題は親の気配り次第で何とか減らせるのでは無いかと思います。

  以前はだらだらと遅くまで仕事しがちでしたが、今は20時までと決めて、絶対に家に帰るようにして、娘と風呂に入ったりして一緒に過ごす時間を絶対にとるようにしています(いつまで一緒に風呂に入ってくれるのかは判りませんが)。これからも子供と向き合う時間をしっかりとって、何かあっても気づける親でありたいと思います。

  また、それと同時に、生きていられることの有難さをもっと大事にして行きたいと思います。そういう意味では、今も精力的にライフワークの晶析を極めようとしておられる豊倉先生には感服いたします。私も環境負荷低減のための仕事をしたい思いで、ガス会社に入りました。まだ、大した仕事は出来ておりませんが、初心は忘れずに残りの会社生活を全うしたいと思います。

  以上、雑駁で恐縮ですが、これにて結びとさせて頂きます。ご拝読ありがとうございました。

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