(鵜飼 健司)
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略歴 |
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1999年 3月 |
博士後期過程終了 |
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1999年 4月 |
東邦ガス株式会社入社、総合技術研究所配属 |
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以降、現在に至る。 |
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賞罰
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1999年 3月 |
早稲田大学水野賞受賞 |
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2005年 6月 |
日本ガス協会論文賞受賞 |
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「 博士後期課程の振り返り・近況報告 」
はじめに
1999年博士後期課程修了の鵜飼と申します。豊倉・平沢研究室OB・OGの皆様、こんにちは。豊倉先生がご退官される際には、平沢先生と一緒に記念文集の編集やご退官記念パーティーの準備でドタバタとしていたのが、もう随分と昔の事のように感じられます。その節は、至らぬところも多々あったかと思いますがご容赦下さい。
豊倉先生に最後にご指導頂いた博士後期課程修了生でありながら、先生に薦めていただいた就職先とは全く分野違いのガス会社に就職しており、直接的には晶析や化学工学とは関連性の無い仕事をしております(後で触れますが間接的には役に立って?おります)。今回、こんな私にも原稿のご依頼を頂きましたので、雑駁ではありますが、過去の振り返り、近況報告や最近考えている事など記させて頂きました。
博士後期課程時代を振り返って
修士課程から博士後期課程に渡る5年間を振り返って見ると、研究の進め方においては、先生の言われたことをあまり聞かずにマイペースでやらせて頂いたと思っています。元来、手を動かすことが好きで、考えるよりも先に実験をした方が早いと思う性質でしたので、実験も重要では有るがそこから理論(=式の導出)を求めることに重きを置かれる先生に対し、理論の追求は二の次で、新しい実験結果を出すことに熱中していたため(勿論、それなり頭を使って考察はしましたが)、先生にとっては物足りない学生ではなかったのかなと思っています。
それにも拘らず、たくさんのディスカッションの時間を割いて頂き、考える力を大いに養わせて頂いたことに感謝しております。今は全く、分野外の仕事をしており、さらにどちらかというと技術ではなく、マネジメント中心の仕事をしています(手を動かす仕事が無いのがとても不満ではありますが、やむを得ないですね)。ただ、月並みな言葉ですが、大事なのは研究(=仕事)に対するアプローチの仕方であり、養わせて頂いた物事の見方、考え方は仕事を進める上で大いに役立っております。
現在の仕事内容
入社して直ぐに研究所に配属されてからは一度も異動が無く、しかも同じ研究テーマを担当しています。研究テーマは固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発です。私の属する東邦ガスは都市ガス業界では業界3位の規模とはいえ、東京ガス、大阪ガスに比べると遥かに規模も小さく、研究開発といっても出来る事は知れています。ただ、小さいになりにも特定分野は大事に育てており、私の担当テーマもその一つとして扱ってもらっています。一寸した宣伝としては、昨年の愛知万博で国内では初めてSOFCを公共の場で運転しました。(そのおかげで、メンテナンス諸々の対応で、半年間の開催期間中に万博会場に20回以上出向く破目になりました。しかし、裏方仕事のみでパビリオン見学はしていません。残念ですが・・・)
このSOFCについては、当社は基礎的な材料開発から手掛けており、現在、幾つかのメーカーと共同で開発成果をベースとして商品化開発をしています。SOFCは酸素イオン導電性のあるセラミックスを用いており、当社ではスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)という材料をベースに開発していますが、これ以外にも電極触媒に用いるレアアースの複合粉体もありまして、これらをメーカーにスペックを提示して作ってもらっています。使う側からしてみれば、組成をきっちり合わせるのは当たり前として、出来上がった粒子は単分散で比表面積もきっちりと指定スペック通りに作り込んだものが欲しいわけですが、実際には、2成分から5成分系のものを共沈法で作っている訳ですので、組成ずれがあったり、ロット間で物性の振れが大きいなどなかなか良い物は出来てきません。そういった場合に、晶析を専攻していただけに作る方の難しさは良く理解しており、心の中で相手に悪いなあと思いつつも、使う側の立場から、もっとしっかりと作り込みをしてくれと要望している次第です。従ってメーカーとのディスカッションでは、過去に積み重ねた知識が役にたっており、昔を思い出しながら議論しています。
最近は、自動車用や家庭用の1kWクラスのもので固体高分子(PEFC)タイプが盛んに開発されておりますが、SOFCにはPEFCとは異なる利点がありますので、少しでも早く市場に出せるように努力しておりますので、市場に出た際にはよろしくご検討下さい。
ガス機器事故について
昨今、ガス機器のCO中毒問題で世の中をお騒がせしております。お客様への周知が不足していたことは真摯に反省すべきで業界の者としてお詫び申し上げます。ただ、問題の根底にあるのは、商品の作り手の常識と消費者との乖離であり、これはガス機器だけの問題ではないと考えています。この乖離の象徴的なものとして、あるガス機器メーカーのトップが、「換気扇を回さずに給湯器を使うことは考えていなかった」という趣旨の発言をしておりました。屋内の空気を用いて燃焼させる機器の説明書には換気が必要事は記載していますし、作り手としては換気扇を回すというのは常識だと思っています。しかし、実際はそうではなく換気扇を回さないで給湯器を使うお客様が少なからずいることがわかった段階で、注意を喚起する対策を打つ必要があったのだと思います。ただ、この判断は難しいところで、例えば、車のタイヤをぎりぎりまで使うと制動距離が伸びる危険性をもっと周知すれば(営業車に多そうですが、残り溝が無いとか、ヒビが入ったようなタイヤで走っている車を見かけます)、年間何千人も亡くなっている自動車事故も少しは減るかと思いますが、それほど積極的な周知をしているようには思えません(自動車関連の方、悪意はありませんのであくまでも例えとして読み流して下さい)。
いずれにせよ、商品を提供する側、特に開発する技術者としては、如何にお客様の視点、常識で考えられるか重要であり、何か気づくことがあったら、本当のお客様視点で考えてみることが必要だと思います。昨今、効率性重視で、会社側の都合で問題が起きることもしばしばありますので、会社の論理だけではなく一技術者の良心として上記の心構えは持ち続けたいと思います。
子供を取り巻く環境について
私事ですが、一昨年、1歳11ヶ月の息子を亡くしました。心室中隔欠損や心臓と肺が繋がっていない等を合併した先天性の心臓疾患で、手術で肺に血がまわるようにバイパスの人工血管を入れるなどして延命措置は取っていたのですが、力及ばすでした。当時は入退院の繰り返しで、家内にも娘にも相当な負担が掛かっていたと思いますが、その日を生きることに真剣に向き合うと全くそのようには感じなかったように思います。その縁で心臓病の患者会に入っていたのですが、どこの家族も明るく皆さん元気にやっておられました。
その事を思うと、最近、自殺、他殺を問わずに子供の痛ましい事件を聞くたびに悲しい思いをします。口先ばかりで出来ることは無いのですが、どんな小さなことでも良いので、皆様も身の回りで子供が安全に過ごせるように少しでも気配りをして頂ければと思います。
特に、いじめの問題は親の気配り次第で何とか減らせるのでは無いかと思います。
以前はだらだらと遅くまで仕事しがちでしたが、今は20時までと決めて、絶対に家に帰るようにして、娘と風呂に入ったりして一緒に過ごす時間を絶対にとるようにしています(いつまで一緒に風呂に入ってくれるのかは判りませんが)。これからも子供と向き合う時間をしっかりとって、何かあっても気づける親でありたいと思います。
また、それと同時に、生きていられることの有難さをもっと大事にして行きたいと思います。そういう意味では、今も精力的にライフワークの晶析を極めようとしておられる豊倉先生には感服いたします。私も環境負荷低減のための仕事をしたい思いで、ガス会社に入りました。まだ、大した仕事は出来ておりませんが、初心は忘れずに残りの会社生活を全うしたいと思います。
以上、雑駁で恐縮ですが、これにて結びとさせて頂きます。ご拝読ありがとうございました。
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