Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事


2006C-4,4 加藤昌史 1990年学部卒  (工学士)

 
  加藤さんは学部4年在籍時の卒業後の進路決定決定の時、早稲田大学理工学部卒業と同時に東レ株式会社に就職したいと相談を受けた。当時の早稲田大学理工学部応用化学科学生の学部時卒業生の進路状況は昭和40年代半ば以降卒業生のほぼ半数が大学院に進学していた。(学部卒業生および卒業見込み者は、学部規定条件を充足できる学生は大学院入学の推薦を受けることができ、実質的には大学院入学者の可成りの学生は推薦を受けて入学した。)また、化学系一流企業の大学卒業生採用状況は、大学院修了者と学部卒業生では、前者は入社早々から技術的な仕事を自分の判断で進めることが出来る人が多く、特に入社後の新入社員教育指導に手間も掛からず、出来れば大学院修士課程の修了者を採用したいと希望する企業が多くなっていて、その傾向はほぼ定着していた。そのような一般情勢からは東レ(株)に就職を希望する場合大学院博士課程前期を終了し(従来の大学院修士課程修了)工学修士になっていた方が採用の可能性が大きく、また加藤さんは学部在籍時の成績が上位であったので、大学院修士課程への推薦入学を受けられる可能性が高いなどの一般的な情勢を話した。しかし、これまでも学部在籍時の成績が上位であっても学部終了時に一流企業に就職して活躍している卒業生もいるので、最終的には自分でよく考えて判断するように話した。化学系企業の新規採用計画は現実にはその年の事情によっても異なるので、可能な範囲で志望企業の採用状況を調査することは有効であり、豊倉の同期で東レ(株)に在職していた人を紹介して本人がいろいろ調査できるようにした。このような調査をすると云うことは、同時にその学生も非公式な採用試験を受けるようなもので、企業が考えている採用部署に適した学生であるか否かを総合的評価されることもあった。加藤さんが行った調査段階で非公式に受けた事前予備試験のようなものでは、加藤さんは学部卒でも充分採用される可能性はあると云う評価を受けたようで、本人は学部卒業時に東レ(株)に入社できればその線で進むような道を選んだ。幸いその後行われた公式な入社試験で合格して採用になった。

  豊倉は早稲田大学在職中に多くの卒業生の就職の世話をしたが、就職する学生と採用する企業は対等でどちらも選択権があり、大学を卒業する学生就職の最終的判定はこれらの総合的な判断で決まるものである。また、学生は就職する企業を決め、入社した段階は、人生のスタートに立っただけのことであり、それからの道をどのように進むとよいかは誰も決めることはできない。最終的にはその人の一生が終わった時その人生を振り返って眺めて、その道の各時点でどのように進むとよかったかは判断出来るかも知れないがそれらは複雑で、本人の才能・能力・適性・・・に加えて世界や産業界・対象になる特定業種や所属する企業およびそこでの所属部署の情勢等によっても変わるものである。したがって、将来をよかれと予測して道を選んでも、時の流れに対して修正することも必要であり、また、その修正は繰り返して行われる可能性もあって、実際には自分に選んだ道に対して、自分の能力と運勢を考えて満足する自分を作り上げることが大切と考えている。

  加藤さんの記事を読んで、加藤さんはこの15年間総体的に順調に進んで来たように思う。一時、大学院に進学していた方が良かったのでないかと迷ったこともあったように書かれているが。その時期も乗り越えられたようで、それは、立派な人生哲学を自分で構築されたからでないかと感じた。今までの人生で構築された加藤さんの哲学は、これから経験される人生の諸々のことによってさらに普遍的な哲学の形成へと進むことでしょうし、その話を伺うことによって豊倉も大いに刺激され、啓発されることを期待している。  (2006、07, 豊倉記)

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(加藤 昌史)

略歴
1991年 4月 早稲田大学理工学部応用化学科卒業
1991年 4月 東レ株式会社入社
名古屋事業場 ケミカル技術部に配属(吸着分離プロセスの開発・設計)
1997年11月 名古屋事業場 製造部 第3合成課(合繊・プラ原料の製造)
2002年 7月 滋賀事業場 生産技術第1部(ケミカル生産・技術全般の統括、企画・管理)           現在に至る。


「 近況報告 」

  豊倉先生、平沢先生、研究室および卒業生の皆様、大変ご無沙汰しておりますが、お元気ですか? 豊倉先生から折角、機会を頂きましたので、私のような者が何かお役に立てるか?と思いつつ、卒業後の状況等をご報告させて頂きます。

  私は1991年に学部を卒業し、東レに入社しました。東レへの就職を希望したときには豊倉先生に大変ご心配を頂きました。入社して2〜3年経過し、重要な仕事も少しずつ任されるようになった頃、「大学院に進学して、先生の考え方やアプローチの手法をもっと勉強しておけば良かった!」と漸く気付き、後悔もしましたが、職場環境や運にも恵まれ、また自分なりに(多少は)努力し、今は東レの一員として一応は責任を果たせているのではないかな??と思って居ります。

  私は入社後、技術部に配属され、擬似移動床による芳香族異性体の吸着分離プロセスの開発・設計を担当しました。自ら設計したプロセスを建設し、立ち上げる機会に恵まれ、ケミカルエンジニアとして非常に貴重な経験(後述する数々の失敗も含め)をしました。 その後、製造部勤務となりましたが、世の中の環境に対する関心が益々高まり、環境規制も急速に厳しくなる中で、合繊・プラ原料製造工程の環境対策に明け暮れました。またこの間に何度か恐ろしい事故・災害も目の当たりにしました。製造業はやはり防災・安全・環境を最優先しなければならないことを再認識しましたし、オペレータや工事作業者一人ひとりの安全に対する感受性の維持・向上を図ることは非常に難しいことも痛感しました。

  2002年から滋賀事業場の生産技術第1部に異動となり、ケミカル生産・技術のHQとして企画・管理に携わっています。会社の経営方針や担当役員の戦略を具現化し、工場へ発信するという重要な任務であり、時には胃を痛めつつも、やり甲斐を感じて居ります。

  入社後の状況は以上ですが、これから企業に就職しケミカルエンジニアとして活躍される研究室の方々に何かご参考になりそうなことをと思い、技術部時代、特に入社直後の設計における失敗談をご紹介します。いずれも今思えば非常に初歩的でお恥ずかしい限りですが・・・。

(1)メーカーのデータは鵜呑みにしてはダメ
  ある不規則充填物を使用して蒸留塔を設計しました時の話です。そこそこ名の知れた充填物でしたのでメーカーのカタログに記載されていた充填物特性データをそのまま設計に使用しました。しかし実際に設備が完成し、運転を開始すると設計条件に到達する前にフラッディングが発生!! 最初は充填の仕方が悪かったのではないかと思い、メーカー立ち会いで充填をやり直したり、充填物を支持する多孔板の開孔部に充填物がはまって塞ぐのではないかと考え、少しサイズの大きい充填物を多孔板の上に敷いてみたりしましたが、殆ど効果がありません。ところがメーカーのテスト装置(アクリル製で内部が見える)を借りてモデルテストを行ったところ、カタログ値の約80%でフラッディングを起こすことが判明!! 結局、充填層を数メートル継ぎ足し、還流比を下げることで一件落着しました。メーカーカタログにあるデータや設計計算式は、鵜呑みにせず確認テストを行うことをオススメします。また設計の安全率や、万が一計画通り性能が出なかったときの次の手を考えておく必要があります。

(2)対流は曲者
  横型で内部に垂直バッフルがある電熱ヒータを設計したときのことです。「通常のS&T型熱交換器は総括伝熱係数により熱交換量が決まるが、電熱ヒータは投入電力分は確実に温度が上がる筈」と安易に考えていました。一応ヒータ表面温度を計算し、流体の分解温度以下となるよう設計しました。しかしこの電熱ヒータがある日、突然漏電を起こしました。緊急停止し冷却後に内部を点検すると、上部のヒータが炭化して真っ黒焦げになっていました(危うく大事故を起こすところでした)。その後、アクリル製のシェルを製作し、モデルテストによりヒータ内部の流動を観察したところ、対流により横型ヒータの上部と下部で大きな温度差が生じることを確認しました(いわゆる風呂釜現象)。シェル内の流速が温度差による浮力に負けたため、流体がバッフルに沿って流れず、上部に高温の滞留部分が生じて分解温度を超えてしまったのです。流体の分解により生成したカーボンは当然ながら伝熱を阻害します。それでも電力が供給され続けたため、ヒータ表面が過熱して孔食が発生し、短絡したのです。

  同様に発熱反応を伴う触媒反応装置でも対流によるショートパスを見落とし、大変苦労した経験があります。今後も対流には注意したいと思います。

  これ以上書きますと、「どこが東レの一員として責任を果たしているのか?」ということになりますので今回はここまでにしたいと思います。失敗談なら最近でも山ほどありますが、さすがに年齢的にも洒落にならない立場となってきましたので割愛させて頂きます。

  このHPで研究室卒業生の皆様の近況報告等を拝見させて頂きましたが、皆様がそれぞれの立場にて、本当に寝る時間も惜しんで目標の実現に向けて大変な苦労をされ、更なる向上を目指して努力しておられることを再認識し、大変刺激になりました。今後も時々このHPを訪れ、この刺激を自分のエネルギーに変えていきたいと思います。

top

Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事