Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事


2006C-2,3 渡辺 直 1983年大学院修士課程修了  (工学修士)

 
  渡辺さんが研究室に配属された1980年5月には、豊倉は早稲田大学在外研究員として9月上旬までの4ヶ月ヨーロッパに滞在して研究活動を続けた。そのため、渡辺さんら新しく研究室に配属になった学生の卒論研究指導を直接行ったのは9月以降であった。しかし、大学研究室の研究指導とは、高校生の教育のように決められたカリキュラムに従って道筋通り教育するのではなく、新しい理論の構築や既に提出されてる理論の新しい適用法を開発して新製品の生成法や新しい効率的な生産技術の開発法を学生に教えることで、大学教授はそのために学生と四六時中顔を合わせて研究指導することはよくなく、具体的には個々の学生に対して最も適切な方法で指導することである。その指導内容は学生が研究して提出しようとしている研究成果に直結するような指導をすることは稀で、多くの場合、研究している学生と対等な立場で適宜研究についてデイスカッションを行い、お互いに自分の得意なことを提供しあって研究を前進させることである。

  そこでは、大学教授は学生の参考になる有用な考え方や研究哲学等を提供する必要があり、また学生はフレッシュな感覚と柔軟な思考力を発揮して斬新なアイデアを提示し、さらに研究実験を続けて研究を発展させる必要がある。このような研究は教授も学生も常に自分の知識、能力を研鑽し続けることが必要である。早稲田大学の在外研究員制度は大学教授として、世界に通用する知識や判断力等を維持し続けるために必要なことであるが、同時に世界の新しい動きに遅れることなく対応出来るような情報交換網を構築するために有効であり、在外研究期間が完了した段階ではその成果を学生の研究活動に提供できるようにすることが義務である。豊倉の在外研究期間の成果は既に本HPに紹介しているのでここでは触れないことにし、学生とのデイスカッションの時の参考に供してることを紹介する。

  渡辺さんの研究活動においては、適宜研究の進捗状況にあわせてデイスカッションを行ったが、渡辺さんは何時もしっかりした自分の意見を持っており、豊倉との討議においても軽々に自分の意見を変えて妥協することはなかった。研究方向を決めるための討議をする時には、豊倉はしばしば複数の異なる事例や考え方を提示して渡辺さんの参考に供するようにしたが、そのような時にはそれらを検討して、さらに対象を広げて大きく捉えて考えるように努力していた。このような討議の会話においては、ソフトな穏やかな言葉遣いで内容の厳しい意見を述べており、相手の気持ちに対しても充分な気配りをしていて、卒業後の将来に大きな期待を持たせる性格の持ち主であった。今回HPに卒業後の活躍の様子を紹介して頂いたが、そこでは労を厭わず常に物事を前向きに捉えて進んで居るようで、この姿勢は世の中で活躍する上では大切なことであり、多くの卒業生の参考になることと思いながら読んだ。   (2006、03、豊倉記)

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(渡辺 直)

略歴
1983 修士課程修了後、日立化成工業(株)入社。プリント配線板材料の開発に従事
1990 アメリカ事務所(ニューヨーク)に技術アタッシェとして駐在
1992 帰国。プリント回路学会より、「低誘電率高多層材料」で技術賞を受賞(日立製作所と共同)
1995 ノキア・ジャパン(株)入社現在に至る。現在グローバルソーシング部部長
注1)日立化成工業(株)は、日立製作所系列の化学会社(先月の投稿者入野君は、2年後輩)
注2)ノキアは、フィンランドに本社をおく携帯端末・基地局の会社


「 Observations on Japanese Manufacturers 」

 日本の企業と海外の企業にほぼ10年ずつ在籍してきた私は、非常に貴重かつ有益な学習・経験を積むことができたと考えている。特に、現在のノキアで、決して日本企業では経験できないあるいは困難であろう様々なことを体得できたことは今日の自分の大きな糧となっている。最初に、(日立という)典型的な日本企業で勤務したからこそ、そこで見えなかったことがノキアに来て鮮やかに浮かび上がってきたことは大きな喜びである。これは、逆に日本企業とノキアの様なグローバル企業が様々な点においていかに対極的であるかという意味でもある。それらを通して、日本企業のあり方について考えさせられることが少なくない。どちらが良い、悪いという様な単純なことではなく、その対比を分析すると、むしろ日本企業が今後生き残るあるいは成長するために何が欠如しているか示唆してくれることが何よりも大きい。

さて、下記はこれに関連したきわめて実務的な一例であるが、日本企業特性について考えさせられる内容である。それは2年前のことだが、NHKで「日の丸半導体の復活」と題するドキュメンタリーが放映された。細かいことはさておきそのストーリーを要約すると、以下の様である。

- 日本のある最大手の半導体会社が、最近米国・韓国・台湾メーカーの後塵を拝している状況を打開しようとしていた。
- そこで、ある最大手の欧州の海外携帯電話メーカー向けに半導体を採用してもらうべく開発部隊が先鋒となり、現地販社を伴って積極的にアプローチし、海外の競合他社との熾烈な戦いが始まった。
- その後客先との度重なる打ち合わせの後、「客先での評価結果が他社を抑えてNo.1」との連絡が現地の販社を通して入り、「いよいよ受注か」との明るい雰囲気が漂い社内に活気が戻ってくる。
- しかし、最終局面になって現地販社を通して「採用不可」との連絡が入り、日本側は愕然としその理由が分からず困惑を隠せない様子。
- 現地の販社に理由を聞いても、「評価結果がNo.1で、客先のエンジニアから採用を匂わすコメントももらっていたのに、何故採用にならなかったか全く分からない」との茫然自失の状態。
- その一方で、他のある中小携帯電話メーカーには少量だが採用になったとの連絡が入る。
- 「最大手はダメだったが、これを機に日の丸半導体が復活することを願う」というNHKの台詞で番組の最後を飾る。

 この番組をご覧になった方もいらっしゃると思うが、皆さんはこれを見て(読んで)どのような感想を持たれたであろうか。私は、これを見て「ああ、この負けパターンか?」と頷いた。この問題の本質は「彼らが何故採用にならなかったかその理由が理解できない」ところにある。ここが分からないと、これからも同じ過ちを繰り返すことになるだろうし、グローバルでは戦っていくことが困難だからである。

「理解できない」のは何故なのか?

 ただ、かく言う私もノキアで働いていなければ、「そうだな。今回は残念だったな。これから頑張ってくれ」と、呟くもう一人の自分がいた筈である。おそらくこの半導体会社の人達と同じ様に理解できなかったに違いない。

 確かに日本企業の開発・もの造り、中でも「現場力」は世界でも群を抜いている。ノキアもこのレベルにはなれまい。それでも、日本の製造会社の利益率に眼を転じると総じて低空飛行に甘んじている。こんなに現場では昼夜を問わず血のにじむ思いでコスト削減をし、研究開発部隊はせっせと新製品を世に送り出しているにもかかわらずである。

これは一体「何故」なのであろうか?

 この「何故?」と上記の「理解できない」は、一見別の現象のように見えるが実は同質の問題を提起しているように思う。その根底にあるのは、日本の製造会社はその焦点が余りにも研究開発・現場のみに偏り過ぎているのではないかと私は考えている。「それで何が悪いのか」とお叱りを受けるかも知れないが、何も研究開発・現場はもっと手を抜いてよいという意味ではない。日本の核となるそれらの競争力をおろそかにしていい訳がない。そうではなく、それ以外のところで(成果・利益が出ぬように)足を引っ張っているというだけのことである。もっと分かりやすく言えば、研究開発・生産以外の行為がおろそかになっているではないか。

 私は仕事上多くの日本のメーカーとお付き合いしている。担当者のみならずアッパーマネジメントの方ともお話しする機会があるのだが、残念なことに「戦術」は語れるが、「戦略」を語れる方にはなかなかお目にかかれない。つまり、研究・開発・生産の「戦術」には詳しいが、会社全体を構想した「戦略」までには考えが及んでいない。

この辺に日本の製造会社の「弱み」が隠されているのではないか。技術立国と言いながら、技術やもの造り以外のところですっかり成果・利益を持っていかれているのが現状ではないか。

 昨今MOTの重要性がクローズアップされているが、私はこれこそ将来のために取り組んでいかなばならない課題と考える。様々な産業で国内市場が飽和状態である今日、グローバルで戦うためにはあらゆる機能を構想・駆使した戦略が必要ではないのか。

 そのためには、研究者・技術者にもトータル(経営用語ではバリューチェーン)をマネジメントができる、あるいはそれらを熟慮したアプローチができる能力が求められると考える。そうすれば、少なくとも冒頭の例での「理解できない」という様な悲劇は生まれない。開発・もの造りの追求だけでは何故、トータルな成果・利益に結びつかないのかその理由を勉強すべきである。

 私が身を置いている携帯電話産業では、日本企業はグローバルでは悉く討ち死に状態である。その原因の基を辿ると、まさに上記でいう「開発・もの造り」だけに頼ったアプローチにあるといっても過言ではない。

 以上多くの苦言を呈してしまったが、本音は「日の丸製造業の更なる躍進」を切望するからこそである。

今後とも様々な経験を積み、いずれ何らかの形で日本企業に還元したいと考えている。個人的には特に、高い技術力を持ちグローバルで戦おうとしている中小企業に微力ながらも貢献できることを願っている。

top

Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事