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豊倉賢略歴
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2006C-2,2 佐藤晶英 1980年大学院修士課程修了  (工学修士)

 
  佐藤さんは学部4年進級時の研究室配属で豊倉研究室所属となり、1974年より研究を始めた2次核発生速度に関する研究グループ一員としてその研究を行った。この頃、2次核発生現象は世界の晶析研究者間で最も活発に研究されたテーマで、晶析研究を行っている世界の主な研究室の主要テーマになっていた。豊倉研究室は日本国内でこの研究を開始したのは最も早かったが、主要先進国の研究者と較べた場合後発で、豊倉研究室としての独自性を出すために、工業晶析装置・操作の設計に適用できる核化現象に焦点をおいた研究を独自に考案した実験装置を用いて行った。その結果、研究を開始した翌年には新しい研究成果が得られ、日本国内では1975年開催された化学工学協会関東支部主催の秋田大会にて、国外では春のAIChE National Meeting および秋のEFCE公認のSIC(Symposium on Industrial Crystallization)で発表してそれぞれの会場で評価を受けた。その後この研究は急速に進展し、佐藤さんがこの研究を引き継いた段階では撹拌槽内の2次核発生現象を装置内に懸濁している結晶が回転している撹拌翼と衝突する領域で発生する核発生速度と撹拌翼が直接結晶に衝突しない領域での発生速度に分けて研究した。

  この研究を開始した段階では装置内の核発生速度はそれぞれの領域で発生する核発生速度の和として推算できると想定して研究を行ったが、実測された装置内の核発生速度は撹拌翼と結晶との衝突によって発生した結晶核の発生速度より遙かに少なかった。このような実測結果はそれまで発表されたことがなく、その測定結果を説明するために、撹拌翼との衝突で発生した多数の結晶核はそれを懸濁した過飽和溶液が撹拌翼の回転域の上方で懸濁している結晶層を通過する過程でそこに浮遊している結晶に付着して結晶核数が減少すると想定した新モデルを提出した。

  この研究成果は佐藤さんの大学院前期課程修了後1981年にハンガリーのブタペストで開催されたSICで内山さんが発表し、大きな反響があった。この研究はその後も後輩によって引き続いて研究され、1986年に東京で開催された第3回世界化学工学会議で豊倉が過飽和溶液内に浮遊する微結晶が粗大結晶に固定される様子を発表し、それと関連して、過飽和溶液内で発生する結晶核が装置内の晶析現象に種々の影響を与える重要な現象があること示し、それ以降この現象は広く認められるようになった。今考えても、佐藤さんが大学院在籍中に行った研究成果は画期的なもので、それが、広く認められるまでには10年余の年月がかかったが、21世紀の晶析工学の発展に貢献する貴重な成果であると評価されるようになっている。

  今回寄稿頂いた記事をチョット読むと、表面的には佐藤さんの仕事は豊倉研究室の研究とは直接関係ないようですが、化学製品の生産という面から読むといろいろ参考になることが多々ありました。特に工場の生産となると、やはり広い分野の技術を総合して初めて市場から評価される製品を生産出来るわけで、また社内の職務分担でその責任を果たすことの重要性を経験に基づいて記述されており、卒業生の皆さんの参考になることが多いことと思います。(06年3月、豊倉記)

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(佐藤 晶英)

略歴
1980年 3月 早稲田大学大学院理工学研究科卒
  同年 4月 三菱化成工業株式会社入社・三菱モンサント化成(株)名古屋工場へ配属
1985年 10月 三菱モンサント化成ビニル(株)四日市研究部へ転勤
1989年 4月 同名古屋工場へ転勤
2098年 1月 三菱化学MKV(株)本社へ転勤
2005年 9月 丸井加工(株)へ出向


「 大学での経験と会社の仕事の関係について 」

 現在私は樹脂加工の仕事をしています。大学を卒業してからずっと汎用樹脂の加工それも業界用語ではフィルムと呼ばれている厚みが薄い膜状のものに携わってきました。このようなものの用途は、農業用・工業用・土木用・包材などと幅広く使用されていますが、通常は直接目に触れるものはあまりないかもしれません。しかしながら、色々な製品を作る上で、大切な役割を果たしています。例えば携帯電話・パソコンなどの電気製品に使用される半導体を生産する工場では、私が関係したPVC製のフィルムがその工程に使用されています。また自動車にも同様に外装部品として使用されています。また、今は農業用のマルチと呼ばれるポリエチレン製の薄いフィルムの生産に携わっておりますが、広く農家では野菜を生産する上では大事な資材です。

 今までの仕事を振り返ってみますと、直接に大学で学んだことがそのまま役に立つこと は多くはなかったかもしれませんが、化学工学という学問は色々な問題に対して広く対応が可能な考え方を提供してくれたと感じています。

 樹脂加工の分野のうち、フィルムの表面処理を行う分野がありますが、これなどは私が卒業してから日本化学工学会にその分野の専門の分科会が発足しています。私が会社に入ってから勉強した時、アメリカでの研究成果に基づいての話が大変役にたちました。アメリカでは1970年代に多くの研究が化学工学の手法によりされていました。日本では当時はその分野では研究はあまりされていなかったようです。そのため日本にはあまり良い研究はなかったのですが、アメリカの研究が進んでおり、それを実際の仕事の場面で理解でき活用できたのは大学で化学工学を学んでいたからだと思います。

 その当時は不安定なエマルジョンをフィルムに均一に塗布することはかなり難しい仕事とされ、また会社の他の開発者により塗布液は完成していたのですが、手作業でフィルムに塗りつけるような状態でした。そこで安定的に塗布ができるようなプロセスを考案しました。その結果会社はその仕事でかなり利益を上げることができました。最近特許により利益を上げた場合会社より多額の表彰金を受ける制度ができましたが、その第1号の対象になりましたので間違いありません。私個人は製法にまつわる仕事であり、ノウハウのかたまりでもあり、あえて特許をださなかったので、表彰対象からもれてしまいました。今から振り返ると残念な気持ちもしていますが、製品は特許だけではできないものであるということだと思います。数年前話題となった中村さん発明の青色発光ダイオードの件も、発明者に限らず私のようなプロセス技術者も関与していたものと思います。その人たちの気持ちが良く理解できます。話がややそれましたが、まとめふうにいいますと、大学で学んだ直接の知識ではなく、手法ともいうべき点が役にたった事例ではないかと思っています。

 以上は私個人のささやかな事例ではありますが、化学工学の基本的な考え方である物質収支は色々な場面で役に立つ考え方であると思います。会社を経営する上で、いわゆるお金の収支を取りますが、これは物質をお金に換えたと思えば良く、このお金がどのように変化していくかが重要な経営テーマです。会社は適正な利潤を上げていくことを考えることが重要ですが、その入出を検討することは、物質収支を検討することと同類と言ってもよいかもしれません。よって経営を考えることにも大学で学んだことが大いに役にたっていると言えます。

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