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豊倉賢略歴
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2005C-3,4 三輪浩司 1975年学部卒(工学士)

 三輪さんは卒業論文で精製晶析法の基礎研究を行っていたが、その頃の研究成果はその後纏めてAIChE Meeting 等で発表した。三輪さんの卒論研究はその論文完成に貢献し、1980年以降の世界の精製晶析に対する研究室の評価に繋がった。三輪さんの研究室生活は1年であったが、研究室に配属される前から三輪さんのことは良く覚えていた。と言ってもそれは三輪さんが研究室に良く出入りした訳ではなく、講義中の受講態度がどことなく他の学生と異なっていて豊倉の記憶に残っていた。豊倉の学部講義のテストを記憶している卒業生は多いと思うが、テストは難しく、豊富な知識を良く整理していてそれを充分考えて回答を作成出来る学生は書く内容が非常に多く、時間いっぱい書き続けても書き尽くせない問題であった。試験後にテスト時間が足りなくて満足な回答を書けなく失敗したと言って採点を聞きに来る学生はいたが、そのテストの成績は概ねよかった。しかし、自分は充分準備したので満足な回答が書けたと云う学生は成績が良くなく、やっと単位を取る程度の者が多かった。実はこのテストを三輪さんは私の在職中の抜群の成績でパスし、30年経っても忘れることの出来ない学生であった。研究室時代も卒業してからも三輪さんとはそれ程頻繁に会ってなかったが、三輪さんと会った時には無駄な話はほとんどなく、その話題内容に対しては何時も冷静に考えて自分の意見を述べており、おかしなことで意見を聞くと何時もにやっと笑ってそれはまずいのでないですかとソフトにハッキリ話されていた。研究室の卒業生は皆月島機械が日本の代表的な晶析装置メーカーであることを知っていた。豊倉は晶析等のことで元専務の守田さんを初め多くの役職者と親しくしていて、これらの人とはしばしば会っており、三輪さんの評判は聞いていた。しかし、三輪さん自身は余り個人的な話をしない人でしたので、三輪さんの実体は良く知らなかった。2〜3年前だったと思うが、今度三輪さんが執行役員になったと聞いたとき、やはり流石だなと思って三輪さんに直接お祝いを話したことがあった。今回、HPの記事でプラントメーカー技術の本来の姿を紹介していただき、大学の研究者は企業技術を技術者の立場になって学び、学者の理論をもっともっと産業界と調和の取れたものに発展させねばならないと思っている。
                            (05、5 豊倉記)

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(三輪浩司さん略歴)
昭和28年 名古屋生まれ
昭和50年 早稲田大学理工学部応用化学科卒業
同年    月島機械株式会社 入社
昭和50−51年 ろ過設備計画担当
昭和52年−57年 結晶設備担当 主として溶融精製開発
昭和58年−64年 海外向け設備計画担当
平成7年  プラント計画部課長
平成12年 同部長
平成14年 バイオ事業推進部 部長兼執行役員
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(三輪浩司)

「工業晶析の技術者としての経験」

社会人としては月島機械という機械メーカーに就職して、かれこれ30年間様々な化学プラントに関わってきましたが、最も多かったのが晶析に関する設備計画でした。月島型DP結晶缶という商品を持っていたこと、砂糖、硫安などの結晶製品の製造設備に経験を数多く持っていたことから、月島機械において結晶化は主要技術でした。私自身も豊倉研卒業者であるから結晶について詳しいだろうと誤解され、入社2年目から結晶設備に関わり、約15年ほど主担当者として工業晶析に関わってきました。私自身がどの様な設備に関わってきたかを説明すると共に、工業晶析はどの様なものか、機械メーカーからどの様に見ているかを自分なりにまとめてみた。

【晶析技術とは】
晶析は分離・精製技術の1種であり、場合によってはハンドリングの向上を目指した固形化とも見なせる。晶析による分離・精製は長い歴史の中で様々な産業に用いられてきている。古くは3白の時代と言われた、肥料、砂糖、塩の純度を上げる操作としての精製として、更に化学産業においては様々な化学製品の製造プロセスにおいて精製技術として採用されてきた。結晶化に付随して分離操作があり、ろ過、遠心分離などが採用され、一般的にはその後乾燥工程が続く。

 結晶化に求められる精製効果は分離性と密接に関係している。つまり除去対象である不純物は母液中に存在するため、如何に分離後の結晶に付着する母液を少なくするかが精製効果に大きく影響する。一般的には大きな結晶を作ることが望ましいが、分離性を考えた場合大きいこともさることながら粒子の均等性が大きな影響を与える。100ミクロンの不均等な粒子と、70−80ミクロンの均等な粒子では均質な粒子の方が付着母液の少ない分離が可能である。このため工業晶析の結晶装置は粒子径が均質であること、つまり均等数が大きい事が求められる。工業的晶析操作では装置内の過飽和度分布を出来る限りなくすことが望ましい。この指標として、操作過飽和度がよく使われる。これは結晶生産量を装置内循環量で割って得られる簡単な指標ですが、工業装置の指針としては、重要なものです。様々な物質を長期間の基礎研究なく確実な設備に仕上げていく事が求められている機械メーカーにとって、操作過飽和度を適正に設計するが最も重要であると言っても良いと思う。一般に循環量を上げることにより操作過飽和度は下がり、1次核発生が抑制され、2次核発生によって結晶粒径が決定される。このため2次核発生が少なく、大きな循環量がとれる結晶缶が望ましいと言える。但し、工業晶析の用途の80−90%は医薬あるいはスペシャリティーケミカルでありバッチ晶析である。このため装置としての工夫よりも操作面でのノウハウに開発の主体は移る。具体的には溶媒の選定、晶析手法の選定、冷却速度の調整、種晶の添加、微晶の溶解操作など、個別のノウハウの積み重ねが重要となる。一方、コモディティーケミカルの分野での結晶化は連続が主流となる。ここから私が経験した連続結晶化装置に関して述べる。

【携わった結晶化技術】
硫安
古くは合成硫安、石炭からの都市ガス製造のCOG硫安、MMA廃液の硫安などあったのですが、私が入社後手がけたのはナイロン原料であるカプロラクタムからの硫安製造です。カプロラクタムの製造工程でベックマン転移反応で用いられる硫酸の処理として、中和して硫安を製造する。旧来型のプロセスでは5万トンのカプロラクタムで25万トンの硫安が製造された。インドFACT社向のラクタム設備の基本設計を千代田化工建設(株)が受注し、硫安部分を月島が受け持った。硫安は従来からクリスタルーオスロ型の結晶缶が用いられており、インドでは3重効用型のシステムを採用している。建設当時のインドは近代化に向かう前であり、今のような力強さはなく、建設工事も5年を要し、試運転段階では保証期間を過ぎている状態となっていたが、無事設備も稼働し、今でも生産に寄与していると思う。

BPA
現在コンパクトディスクなどに代表されるようにPC(ポリカーボネート)の需要の増加はめざましい。このPCの原料となるのが、ビスフェノールAである。環境ホルモンで若干悪者のイメージはあるものの、アジア圏での伸びはすさまじく中国を中心として新増設が相次ぐ。このBPAの精製は結晶化法が用いられている。共存不純物との沸点差が小さく、溶媒とのアダクト結晶を形成し、精製を行うのが一般的となっている。10万トン以上の規模の大型設備であり、連続結晶設備を日本、韓国、台湾、シンガポール、中国に納入している。この結晶缶はDP型を採用し、1年間の連続操業が可能な設備として好評をいただいている。

【溶融精製】
入社して10年ほどブローディーピュアリファイアー、後の4Cと呼ばれた溶融精製技術の開発、計画、試運転を行ってきた。これは豊倉研の卒論テーマであった「ベンゼン・安息香酸系での溶融精製」の延長線での技術でした。研究では共晶系であるベンゼン・安息香酸の系を冷却チューブ表面に結晶を析出させ、ある時間放置すると結晶中の不純物が結晶層から母液中に拡散して、結晶純度が向上するというものでした。ブローディーピュアリファイアーは基本的にはこの原理と同じであり、O-、P-の共存する系からPDCB(パラジクロールベンゼン:パラゾールの別名)を精製する設備でした。横型ジャケット型の結晶缶で析出したP-体の結晶を竪型のカラムにためて下部ヒーターで結晶を溶解し、1部を還流液として結晶に包含された不純物を洗浄除去し、精製を行い残りは製品として抜き出す構造となっています。この技術はオーストラリアのユニオンカーバイド社からの技術導入品であり、諸先輩の努力のおかげで何とかモノになったというある種の欠陥商品でした。最初に納入した顧客には迷惑をおかけし、試運転開始から1年後にやっと手が離れた大クレームとなった。この装置原理はすばらしく、横型の結晶缶を数本つなげ、最後に竪型の精製塔にて最終製品を液として抜き出すというもので、他の分離設備、あるいはタンク、ポンプを必要としない利点がありました。しかし、熱効率が悪く、その後竪型結晶缶数機をポンプでつないぎ、最終精製塔にて製品に仕上げる4Cシステムに改良変更し、ポリエステル原料に大きな需要のあるパラキシレンに採用され、三菱ガス化学水島工場に納入しました。最終的には3期工事まで増設していただき、評価された技術となったと自負しておりますが、深冷分離法でのパラキシレン製造から吸着法にプロセスが代わり、今は使われなくなったようです。しかし、最近吸着法に結晶法を組み込むと増設対応として魅力があると言われており、新たな需要が望めると見ている。

【現在の仕事】
ここ4年間ほど結晶の仕事を離れ、バイオマスエタノールの技術開発に取り組んでいる。本技術は米国からの導入品であるが、米国でも商業設備が建設されていない状況で、将来の市場の形成を期待して導入・技術開発を行ってきた。

基本的には木材からのエタノール製造技術であり、バイオマス資源の有効活用に寄与する技術である。木材からエタノールを作る技術は100年前から行われてはいたが、採算の合わない技術と見なされてきた。技術的には木材中に含まれるキシロースなどの5炭糖と呼ばれる成分がエタノール発酵が出来ない欠点があったが、遺伝子組み換え菌の採用により可能となった点がある。更に、ここ10年ほどで廃棄物の処理の考えは大きく変化しており、かなり採算に合ってきている。

このような背景において、京都議定書批准に関係して、自動車燃料に3%エタノールを混入する動くが本格化し始めている。廃棄物である家屋廃材を原料にし、燃料用エタノールを製造するPJが現在進行中である。更に、東南アジアではサトウキビの絞りかすであるバガスを原料に燃料エタノール製造を提案している。

最後に
昭和49年度の豊倉研の学生として1年間、卒業後も仲人をして頂き、豊倉先生にはお世話をかけ通しであるにもかかわらずこのような場をいただき、改めて豊倉先生にお礼を申し上げたいと思います。これからもこの場が我々卒業生にとって意義のある場であることを願っております。

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