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豊倉賢略歴
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2005C−2,5 安井尚人 1984年大学院修士課程修了  (工学修士)


安井さんは昭和46年4月に学部4年で研究室に配属した。その前年に豊倉は早稲田大学海外派遣研究員として4ヶ月ヨ−ロッパに滞在し、晶析分野で著名な研究室や最新の晶析技術を開発してきた企業を訪問して「世界で評価される研究は、欧米先進国で認められる高度なオリジナリテイーに基づいた成果に限られること」を改めて認識して帰国した。安井さんが研究室に在籍した時には中国政府派遣留学生試験を最高位の成績で合格した羅蜀生(帰国後中国・成都・化工設計院・総経理)氏が研究室に在籍しており、安井さんは羅さんと2段晶析装置・操作設計法の研究を行った。その成果は化学工学シンポジウムシリーズ7に発表した。この研究では、安井さんはオリジナルな手法で進めた。その進め方等についてしばしば討議を行ったが、安井さんの論理は整然としており、またその研究成果に対しては工学的な価値高めるためにどのように仕上げるべきかについて当時からはっきりした考えを持っていた。これは安井さんの学生時代から豊倉が評価していた安井さんの個性で、1984年に大学院博士前期課程を修了後、就職した花王においてもそれを伸ばしながら20年間種々の仕事をして来たようである。そこでは、常に新しい環境下で新しい回答を出しながら進めており、今回はその様な仕事を進める上で重要な「創造性を生む組織」、「価値観の変化への対応」、「現実とのギャップへの対応」についてこれらに共通して適用できる独自な考えを経験に基づいて記述された。その内容には豊倉も非常に興味を持っており、その内容はすべてのことに通用する普遍的なもので、多くの卒業生の参考になるところが多いと思う。
                              (05,3 豊倉記)

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(安井 尚人)

(入社後の経歴)
1984年に花王(株)に入社後、主に家庭品製品のプロセス関連の応用研究、設計、建設に従事してきました。1997年には、生産関連の企画部門に移動し全工場の構造改革に取り組みました。2001年には、酒田工場に配属、2003年より、花王(台湾)の新竹工場にて工場マネジメントに、従事しております。
1984年 装置技術部(東京) :エンジニアリング
1988年 生産技術研究所(和歌山) :プロセス研究
1997年 生産技術部門(和歌山) :工場運営・企画
2001年 酒田工場(山形) :技術課長
2003年 花王(台湾)新竹工場 :工場長
(2004年 売上げ180億円、従業員250名:家庭品,化学品製造)

入社20年を振り返って「変化することに躊躇してはいけないと感じる今日」

入社して20年になり、人間としてはまだ未熟者ですが、企業人としてはベテランの域に入ってきたかなと言う感じです。今回は、豊倉先生からメールを頂き、内容はなんでも良いからと言う言葉に甘えさせていただき寄稿させて頂きました。豊倉研OBが方々は、現在も研究職を長く続けられる方もいると思いますが、ある段階で、生産関連の仕事に変化をされた方も多いと思います。私も、研究や技術開発を離れ約8年になり、今は工場運営といったマネジメントに従事するようになりました。今回は、技術や研究分野から、工場運営業務への変更によって、生じてきた価値観の変化について書いてみたく思います。特に、2年前から海外工場の責任者として立場や課題や目標は大きく変わりましたが、どのような環境に置かれても、豊倉研究室で教えていただいたオリジナリティへの考え方は、環境やレベルの差はあるにせよ、根本の思想や個人が仕事を遂行してゆくプロセスでの行動指針や発想と着眼点の絞込む手法の面では共通ではないのかといった考えをするようになっております。世の中には、ノウハウ本はたくさんありますが、実践ではあまり役に立ちません。管理手法は学べるが実践とは大きなギャップがあり、結局最後は自分独自の考え方をしっかりもち続けることが企業人として、求められているのではないかと、最近身にしみて感じております。以下、考え方にまとまりはありませんが、これまでの経験をベースに気づいたことを述べさせていただきます。

まず、「創造性を生む組織」についてです。「オリジナリティは如何にして生まれるか?」については、個人能力レベルをベースにしたアプローチ方法において、学生時代に先生に教えて頂いたり、議論をした記憶があります。しかし、現実のアクションとしては、あるテーマに対して「考える」といった行為に、どれくらい辛抱強く、興味を持ち続けられるかによって決まるような気がします。周りを見てみるとおもしろくなさそうに仕事をしている人でも、好きなマージャンやゴルフになると急に工夫を凝らすことができることが多々あります。これも、興味があるから「考える」といった行為の結果です。しかし、実際の企業は、自分の興味を見出した仕事を与えられて、スペシャリストを目指す可能性は非常に少なく、大部分は小さなオリジナリティ(以下アイデアと記す)を生かし、組織力で拡大してゆく推進力とスピードが求められています。言いかえると95%までが、小さなアイデアの成功例を継続して、たくさん生み出すシステムが組織として機能しているかが大切で、この組織をベースにした人材の働きに、会社の強さや業績が大きく左右されると言って過言ではないという気がします。それでは、「創造性が育つ組織環境・システムとは何か?」 生産現場の話になりますが、アイデアを具現化する環境作りがもっとも大切ではないかと思います。私の経験した国内工場、海外工場でも、現場の第一線の担当者は案外と、レベルは違いますが、暗黙知原則、5ゲン主義をベースにした品質会議の徹底等により活性化の手段やアイデアを駆使してモチベーションアップに努めています。各工場には個性がありますので、独特のシステム作りを試験し、最適解を見つけ実践してゆき、従業員のモチベーションアップができれば、自然と生産性向上を達成し、競争力が生まれるではないかと感じています。

次は、「価値観の変化への対応」についてです。海外の工場長の辞令を頂いた際、トップの方より、「大きな会社の部長より、小さな会社の社長の立場の方が勉強になる。工場の最高責任者として、いろんな課題に対しての意思決定の能力・決断力を磨きなさい」と励まされて赴任いたしました。しかし、最高責任者になってみると課題の大小の差はありますが、色々な問題が毎日のようにあり、少し判断を先送りすると、現場が混乱し問題が山積してゆきます。日本では、誰かが補っているために大きな問題になりませんが、海外工場の場合顕著です。最近、この場合の判断能力は、経験と物事に取り組む姿勢が大切ではと思い始めております。今考えていますと、入社してから、研究、技術、生産企画、国内工場勤務などを経験したため幅広い視野が非常に役に立っています。業務が変化することに躊躇しないで、前向きに取り組んでいれば、その期間の経験は必ず身についており、将来役に立つと身をもって感じております。目下、私が一番変化に戸惑っていることは、安全・環境などに関する社会的責任遂行とリスクマネジメント対応への考え方です。特に安全は、起こらなくて当たり前といったことが評価されるため、非常にモチベーションの維持するのが難しい業務です。しかし、事故が事件になれば、会社の存在を左右しかねない要素も含んでおります。特に、最近は大企業での大規模な災害が多く発生しており、一部マスコミでは、「リストラにより現場の熟練者が不足したため」などと書かれていますが、本当でしょうか。私は、従来の日本人の持っていた、勤勉やまじめに努力すると言った価値観が薄れて来ているのが原因ではないのかという気がします。このような問題に対しての自分の捉え方や今まで気に留めなかったことへの関心が上がってきたのも、立場の変化ではと思っています。立場が変わるとこれまで重視していなかった業務がいきなり優先順位の第一位になることが多々あります。変化に対して如何に柔軟に対応できるか、そしてその場所でこれまでの経験とオリジナリティを発揮し、これまでと違った切り口を提案し、価値観を見つけることができるかが、変化への対応の処世と考えています。

3番目は、「現実とのギャップへの対応」についてです。「現場は理屈どおり行くものではない」とは良く聞きます。最初は、問題がおきなくてもその日の機械の調子、原材料差異、運転人間の性格、また天候などによって安定運転ができないことが多々あります。反応系などの設計は、安全率や自己制御によりある程度の安定化は可能ですが、実際の多くのモノ作りは、安定運転継続とは日々との戦いで、「昨日より今日、今日より明日」の積み重ねが基本です。また、実際の生産の安定化は、案外人に関わる要素が多いもので、1日1回の現場パトロールでも随分改善されることを身を持って経験しました。また、課題解決や原因追求の糸口は、演繹法ではなく帰納法が有効であったり、改善や現象の追及には、統計手法の活用と経験をベースにした勘が有効と考えはじめるようになりました。この手法は、曖昧ですが、一年ぐらいかかって独自の形にして実践できればと思っております。

これまで、とりとめもなく書かせていただきましたが、オリジナリティを発揮する場所は、研究だけでなく、あらゆる立場で最も必要とされる要素技術です。今は、研究や開発から離れて、こんなことを言える立場ではありませんが、工学者と理学者の違いの本質は、最終目標を社会貢献か理論構築においているかの違いではないかと思います。そういった意味からすると工学者と企業経営者は案外目的意識は近いかも知れませんし、比較的変化に強い人種かもしれないと感じております。

最後になりますが、今回の寄稿内容がホームページのレベルを落としはしないかと心配しておりますが、豊倉研OBが海外においても、日々葛藤の毎日を送っていることをわかって頂けたら幸いと存じます。豊倉研OBの方々、来台時はぜひご一報下さい。

E-mail:yasui.h@kao.com.tw




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