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豊倉賢略歴
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2005C−1,4 内山 誠 1982年大学院博士課程修了  (工学博士)


   内山さんは1976年早稲田大学応用化学科4年に在籍し、豊倉研究室配属になって晶析研究を始めた。当時の研究室では、晶析装置設計、2次核化現象、晶析法による精製法、環境問題などと関連する難溶性物質の晶析等の研究を行っていた。内山さんは研究室配属直後から大学院博士課程進学を希望しており、学部在籍時の学習態度等より判断して博士課程進学の可能性は十分あると考えて研究テーマを決めた。その段階では、将来晶析分野で活躍しても、また他の分野で活躍しても6年間の研究室生活の経験が充分役立つように未だ余り研究されてないがこれから益々重要になると予想される分野の研究テーマと、最近急速に研究が進んで現象が明らかになりそれらを集約して体系化が期待される分野のテーマを考えた。そこで、まず、最初に取り組んでもらった研究課題は、研究室である程度の成果は出ていたが、未だその研究方向が絞れてない精製晶析で選定して貰った。そこでは1972年に修士論文を纏めた村田さんの研究で明らかになっていた結晶純度に顕著な影響を与える結晶中に包含されてる母液を結晶中より効果的に除去する発汗操作に関する研究を選定した。この研究成果は1978年にワルシャワで開催された晶析シンポジウムで発表した。当時はこの発汗操作に対する研究者の認識はほとんどなく、1980年にスイスのBuchsでMWB晶析装置の精製機構についてSaxerと議論した時、早稲田大学で内山さんが研究した発汗操作に関する成果でその装置の精製機構が説明できることを示した。その後この装置のカタログに発汗操作を生かした説明が加えられるようになった。さらに1980年代になって日本国内でも発汗操作が注目され、精製工業晶析操作で最も重要な現象として認められるようになった。この研究は後輩によって継承され、発汗量と結晶中の不純物減少量との定量的な関係式が山崎さんの博士論文で提出されるようになった。晶析分野の研究を集約的に纏めて工学理論の体系化を目指した研究としては大学院博士課程で、MSMPR型晶析装置内の2次核発生速度を装置内の結晶と撹拌翼との衝突によるコンタクト核化速度と撹拌翼上部に懸濁する結晶による2次核化速度の和より推算する理論体系の構築を研究した。そこでは、晶析装置内で発生した直後の2次核はそこに懸濁する結晶に付着するモデルを考案し、そのモデルに基づいて相関式を理論的に提出し、1981年にブダペストで開催された晶析シンポジウムで内山さんが講演発表した。この相関式は全く新しいアイデイアに基づいて提出したもので、内山さんの発表を皆真剣に聞いていた。この研究発表が終わると直ちにオランダ、デルフト工科大学のProf. de Jong はこの発表内容に非常に興味を持って質問した。また、このシンポジウム終了後、イギリスUCL のProf.J.W.Mullin は内山をUCLに招聘したいと申し出た。内山さんはこの申し出を受けて、翌年3月博士課程を修了し工学博士となったところで、滞在費の支給を受けてロンドンに留学し、研究生活を続けた。帰国後早稲田大学理工学部に新設された助手制度の適用を受けて、豊倉研究室所属の早稲田大学理工学部助手(現在の助手制度の1号でその枠は現在とは比較にならない程少なかった。)に就任した。このように内山さんは晶析研究で立派な成果をあげ、早稲田大学の豊倉研究室で行った晶析理論体系の構築に貢献した。

  その後、内山さんは日産自動車に就職し、そこでの活躍は内山さんがこのHPに書いた記事の通りである。現代社会の進歩・発展テンポは非常に早く、そこでの活躍は多種多様で、いろいろなケースがある。このように種々のことが錯綜する社会のにおいて活動する道を選ぶには、自分の個性と長所を考えて将来の姿を想定することは重要なことと思う。しかし、そこで想定した未来を目指して進む方向を決定しても、そこで想定したように順調に進むことが出来るか否かは定かでない。人の周囲には常に不確定な要素があり、その環境要因を考えて自分が選んだ道をよく考え、自分に適合した修正をしつつ努力して進むことが、納得出来る人生を送る上で必要と思う。 その時、先輩や身近な人々が考え・経験したことは自分にとって非常に参考になることであり、このHPに内山さんが書いた記事は私にとっても尤もと思えたことが多々あり、誰でも参考になることが多いことと思う。
 ( 豊倉記 05年1月 )

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(内山 誠)

「自動車会社での研究を振り返って」

 昭和57年に、豊倉研究室で博士後期過程を終了し、ロンドン大学助手、理工学部助手を勤めさせて頂いてから、20年余が経っております。豊倉研究室には、卒論から助手まで、通算7年間もの長きに渡って大変お世話になりました。

  色々な事が懐かしく思い出されます。博士後期課程に入る年に、応用化学新棟が竣工し、研究室の移転作業に皆で汗を流した事、その年に、豊倉先生が、4ヶ月間の滞欧研究でご不在だったのも鮮明に憶えております。7年の間に、世界中から多士済々の留学研究者、学生が多かった事等も懐かしく思い出されます。ポーランドからカルピンスキー博士、ドイツよりウルリッヒ博士、中国から羅氏、インドネシアからダニー氏など。

 豊倉研究室は、国際化において最も進んだ研究室の一つだったのではないかと思います。その後、現在奉職中の日産自動車の総合研究所で自動車関連の研究に携わり、はやいもので18年余が過ぎてしまいました。その間、2年研究企画、2年の研究管理業務を除き、自動車技術のラインの研究活動に従事して来ました。その間、世界も、日本も、自動車業界も、会社も、家族も、自身も大きく変化し変貌しました。白頭掻更短 渾欲不勝簪の杜甫の心境が何となく解るような歳に成ってしまいました。

 私が、博士課程後期1年の時と記憶しておりますが、豊倉先生が、「40歳代、50歳代でもオリジナリテイは出せるもんだねー」と、4ヶ月間の滞欧研究からお戻りになられて、滞欧でのご成果の線図を前にして、しみじみ言われたお言葉を時々思い起こして、未だ未だ頑張らなければと自分に言い聞かせています。そんな思いも噛みしめながら、最近、悩みつつ思うことを、思い付くままに少し書き止めさせて頂きました。

【近況】
 自動車用の半導体センサー、トランジスタの研究を入社以来一貫して続行しています。また、最近では、次々世代の燃料電池の要素技術なども先進技術の応用として少し手掛けて居ます。此れ等は、自動車用の先進の動力や安全システムのキーとなると想定されるもので、上手く行くと、お客様にとって価値のあるものなのですが 、仲々に難しく、苦戦、苦労の連続でしたし、現在も思うように行かない有様です。
なお、研究を進めるに当たって、豊倉研で学んだ、固体を含む相変換の考え方が非常に役に立って居ます。固体を含む相変換現象には実に驚く程多くお目に掛かります。多分、半導体のプロセス、広範な材料開発に従事する場合、晶析も含む結晶に関する専門性があれば、かなりのレベルの仕事が出来るのではないかと実感しています。

【自動車の研究は化学シフト、先端シフト】
 自動車の技術は伝統的に機械工学が主流です。しかし、燃料電池に代表されるように、自動車の技術開発そのものもかなり大きく変りつつあるようです。伝統的な機械工学だけでは、自動車を革新的には進歩させられない時代になりつつあります。

ナノ技術は勿論、バイオ等も視野に入れる事がもとめられています。バイオ・マスと言われるエネルギーだけでなく、人間を研究する事も求められています。カバーしなければならない領域が広範になり、かつ、先端にシフトもしております。

元来、エンジンも、別の見方をすれば、排気ガス生成のバッチの燃焼反応器と言っても良いのかも知れませんが、機械エネルギー変換機としての側面から主に機械工学の分野で訴求されてきているようです。それに比べて、例えば、燃料電池は、完全に電気化学装置と言えると思います。これからの自動車技術研究では化学屋が此れまで以上に大活躍出来るのではないかと思います。勿論、その他の学問分野の活躍の場も拡大しつつ有ると思います。
此れまでは、化学と言うと、自動車では、触媒、塗装、一部の材料系の研究等がその活躍の主な舞台でしたが、既に多くの化学分野の人が燃料電池などの更に多様な活躍をしています。なお、遅ればせながら、日産自動車株式会社も、2004年度から化学工学会に法人会員として加入させて頂きました。このような流れは、自動車研究だけに限らず、多分、他の産業分野の研究でも大きな転換点を迎えているような気がします。一方、誰もが大学や大学院で勉強、学習出来る量は限られています。それまで、何を勉強したかが大切なのでなく、常に新分野に果敢に挑戦する姿勢が最も大切なように感じております。

【益々グローバルにシームレスにダイナミックに】
学会を取り巻く技術の研究開発シーンも大きく変貌しつつあるようです。例えば、燃料電池関連で言いますと、燃料電池のみにフォーカスした大掛かりなシンポジウムが、毎年、隔年開催などが、年に計5回前後世界中で開催され、それに、電気化学学会、化学工学会、AIChE、高分子、金属等の材料関連の多くの学会が夫々の専門学会で燃料電池をメジャーなアイテムとして取上げています。極端な場合は、異なる学会にほぼ同時に同じ研究グループがほぼ内容の似た発表をすると言う有様です。

工業産品を産み出すツールとしての学問の塊を訴求する学会やシンポジウムの開催がメインと言うスタイルから、学際的な大物工業産品そのものを追求訴求する、工業産品そのものを名前に冠した多くの学会やシンポジウム、展示会等が目まぐるしく開催され、玉石混合、場合に依っては、誤謬も詐欺まがいの情報も混じっているような、情報がドンドン発信されていると言うスタイルになって居るように感じられます。

開発資源が膨大に要る大物技術開発が増えていると言うことも有るのでしょうが、グローバル化と学際化、技術間のシームレス化が信じられないようなスピードで急速に進んでいるように感じられます。時代の要請と言うより、一つには、インターネット、HPなどの情報技術が進み、様々な情報がリアルタイムで飛び交うということがその背景にあるようです。例えば、シンポジウムの開催に関しても、会告から、参加申し込み、論文の投稿、果ては、ホテルの予約までもが、PC端末で、距離も越え、時差も緩和しつつ、非常なスピードで行なわれるというのが現状のようです。燃料電池だけではありません、例えば、或るサイトで検索すると、2005年の2-5月だけで、世界中でザット100以上ものナノ技術関連のシンポジウム、学会、展示会が催されるようです。此処の処、急増している感が有ります。

此れからの、研究者、技術者は、場合に依っては、こう言う状況の渦中に在りながら、自分の専門力を養い成長させながら、訴求する工業産品が変っても通用する自分の専門力を養って、勝負して行かなければならないと言うことのようです。つまり、此れからの、人は、私共が経験した事のないダイナミズムとスピードの中で活動する事になるのではないかと思われます。一寸、結論を急ぎ過ぎるきらいが有るのをお許し頂いて、あえて結論付ければ、この事は、反面、多くの情報に振り回されるのでなく、選別された有為な知識と、思考に依って裏打ちされた本質を見抜く自分なりの見識と、それを信念にまで高め、不抜に実行して行くことを、此れまで以上に問われる時代に競争して行かなければ成らないと言うことを言っているのではないでしょうか。

例えば、就職活動でもそんなことが問われているのではないかと思わされます。
何年か前に、応用化学科の一人の学生さんが応募して来ました。「燃料電池に興味が有り、是非、自動車会社でそれを遣りたい。」と言う志望理由でした。質疑を少ししたのですが、志望の割には、燃料電池の知識が殆ど無さそうだと気付き、「燃料電池の原理図を書いて下さい。」とお願いしたのですが、モジモジしていて少しも書けない。遂に、何も描けませんでした。隣に居る、同僚の面接官の手前、その学生さんの先輩として赤面する思いでした。

これは極端な例かも知れませんし、多分、色々な事情もあったのでしょうが、今思うに、ひょっとするとマスコミの上辺の流行情報のみに踊らされて、上辺で誤魔化すという典型だったのかも知れません。企業の人間は「上述したような力に対する、若い人のポテンシャルを知りたい。」と切実に真剣に願っているのです。お説教ではありませんが、せめて、自らの力を見せるためのスタートライン立つようにして貰いたいものです。そして、面接試験などの大切な場では、真剣な精一杯の努力に裏打ちされた自分なりの見識と決意を堂々と述べてもらいたいと思うのです。見識や決意の内容が些か未熟でも稚拙でも良い事は言うまでもありません。それは、此れからの努力でどうにでもなる場合が多いのではないでしょうか。「ポテンシャルを知りたい。」のです。

自分の体験からしても、自分の言葉で精一杯の努力に裏打ちされた自分なりの見識と決意を述べたと自覚された時は、どうも結果が良かったように思います。例えば、自分としては清水の舞台から飛び降りるようなとんでもない(と思われる)提案をした結果、ゴーンCEOに「OK. Thank you very much.」と言われるのは嬉しいものです。勿論、その殆どが苦い失敗経験ですが‥。

「燃料電池は自動車動力の主流になるか?なるとすれば何時か?」。しばしば聞かれます。答えは、神のみぞ知るです。少しく関わって居る者として、自らの見識、信念を信じて、多くの仲間と協力し、出来るだけの事を実行して行くことしかないと思って居ます。実態は、しょっちゅう迷い、惑って、冷や汗ばかり掻いています。そして、時には、とんでもない失敗や、辛く厳しい判断にも迫られますが、実にエキサイテングな大物技術の変革シーンに参加させて貰っているということなのかも知れないと、自らを慰めつつ、納得させつつ、日々バタバタもがいています。

尻切れトンボで申し訳ないのですが、余り、スペースを占有しては恐縮ですのでこの辺にしておきます。奇麗事を書いた積りではないのですが、若い方々の参考になるような内容でもなく、思い付く侭で断片的で、言葉が足りない雑駁な内容になっておりますがその点はご容赦いただきたいと思います。

先生が益々ご健康であられますように、また、本サイトが益々盛んになりますように心から祈念しております。
以上



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