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豊倉賢略歴
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2004C−3,5 山崎康夫 1986年大学院博士後期課程修了  (工学博士)


  山崎さんは1980年に卒論学生として研究室の配属となり、以降大学院博士課程を修了する間の6年間研究室に在籍して、精製晶析操作法の基礎的研究その他を研究した。特に山崎さんが提出した「発汗量と精製結晶純度」の新しい相関は測定データに関する新しい関係であり、多くのデータの整理に適用出来る可能がある。この成果の工学的な意義は大きく、理論的な検討は後輩によって試みられているが、この理論的な体系が出来ると、発汗法を適用して高純度結晶を容易に生成できる晶析技術の提出が期待できると考えている。また、豊倉が1980年の早稲田大学在外研究員としてヨーロッパに滞在した時、当時の西ドイツ、Dueisuburg、Standard Messo 社で研究・提出した設計線図理論を山崎さんはさらに発展させ、結晶の成長速度と形状係数が結晶粒径の指数関数として相関される時に使用可能な新しい設計線図を提出した。これらを纏めて山崎さんは博士論文を完成した。 山崎さんの大学院在学中にはJ.Ulrich博士はフンボルト派遣研究員として豊倉研究室に1年間在籍し、またフィンランドのS.Palosaari 教授との親交が始まるなど、この間多くの国外研究者・技術者との交流が活発に行われ、山崎さんは国際的なセンスを持った研究者に成長した。日本化学工業は、多くの無機結晶製品を生産する早稲田大学と関係の深い化学企業で、山崎さんは大学院後期課程を修了した1986年に嘱望されて就職し、企業現場も経験して晶析工学理論をよく理解した企業技術者に成長した。
  一方、粉体工学会・日本粉体工業技術協会は前より晶析に強い関心を持っていたようで、粉体工学便覧の晶析編の編集・執筆依頼や粉体工学会賞の審査依頼を受けたことがあった。1995年秋に井伊谷鋼一先生から日本粉体工業技術協会に晶析分科会を立ち上げ、世話をするように云われた。この分科会の様子については、いろいろ紹介されてるので
それをお読みいただくとして、日本の晶析に関する動きを少し紹介する。
  卒業生の多くはよく知っていることですが、1968年化学工学協会に晶析に関する研究会が発足して以来、分離技術会、日本海水学会等でも晶析工学・技術は討議されるようになっていた。それらと設立の趣旨の異なる組織として1997年に発足した日本粉体工業技術協会晶析分科会は、そこで会の運営・実務を纏める代表幹事に対して、その職務を充分遂行できる企業に所属し、その上担当する分野で知名度のある技術者であることが必要であると云われた。井伊谷先生から分科会発足の依頼を受け、このような話を聞いて研究室の卒業生である日本化学工業の棚橋社長に相談をし、山崎さんに代表幹事をお願いすることの了解を頂いた。以降山崎さんは意欲的に活動し、最近では早稲田大学出身の大勢の学生が築いた実績をさらに伸ばして知名度をあげている。そろそろ、豊倉の手も離れて来た粉体の晶析分科会も棚橋社長の理解と支援の基に軌道に乗ってきている。今年の11月に開催される国際工業晶析シンポジウムは今迄と趣の変わった21世紀型国際会議です。本HPに掲載する山崎さんの記事をお読んでいただき、日本の晶析技術の発展に携わったことのある方々のご理解とご支援をお願いします。

 (豊倉記)

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(山崎 康夫)

晶析分科会について

日本化学工業株式会社研究技術支援室
山崎康夫
emailaddress: yasuo.yamazaki@nippon-chem.co.jp

晶析分科会は、第2回工業晶析国際シンポジウムを下記の通り開催いたします。

主催:社団法人 日本粉体工業技術協会 晶析分科会
日時:2004年11月10日(水)11日(木)
場所:日本コンベンションセンター(幕張メッセ)国際会議場

概要:(日)米欧亜を代表する晶析研究者が一同に会し、ラウンド・テーブル・ディスカッションを行い、将来の晶析技術について展望する。晶析装置設計に関する専門的な講演会、ナノテクノロジー、結晶多形に関する講演会も開催する。

今回の投稿では、このような国際シンポジウムを主催するに至った経緯について、ご説明したいと考えています。
日本における晶析の研究者・技術者の集まる会は、化学工学会、分離技術会にあり、すでに長期間活動していて、海外からの評価もありますが、豊倉先生が退職される直前に、社団法人日本粉体工業技術協会の井伊谷鋼一初代会長からの提案があり、同協会に晶析分科会を設置することになりました。この辺の経緯は、晶析分科会のホームページにも記されています。(http://www.crystallization.orgを参照)私がかかわった経緯については、同協会の会報「会員の声」に掲載しました。(APPIE NEWS:p.5,vol.12 ,No.177, (2003)会員以外は入手が難しいでしょうから、下記に再掲しました。)
この新しい「晶析分科会」の特徴付けについて、当時は、次のように考えました。

(1) 企業の技術者とくに初学者を対象とした会であること、
(2) 最新情報だけにとらわれず、重要な技術や手法に重点をおくこと、
(3) 国際的なレベルであること

といったことだったと思います。このアイデンティティを確立するには、分科会の幹事、協会役員などとの長い長いディスカッションが必要でかなりの時間を要しましたが、2年くらい前からは落ち着いてきたように感じられます。技術的な面からの会の特徴は、晶析装置設計理論(いわゆる線図を用いたもの)を基本として繰り返し取り上げ、結晶形態や多形など結晶構造を制御するためのパラメータを考える、というところでしょうか。また、従来の化学工学を学んできた方よりも、実際に(現場での)晶析装置で苦労されている分野の方(例えば、医薬品工業とか)にターゲットをおいた講演会を企画するなどしているところもあげられるでしょう。

 この分科会の活動は、実質的には1998年から開始され、豊倉先生の退職を記念したシンポジウムが早稲田大学で開催されたときには、Nyvlt教授、Fischer氏、Kratz氏をお招きして、国際シンポジウムを併催しています。その後も、できる限り、海外の講師を招聘するようにしていますが、2002年に幕張メッセで工業晶析国際シンポジウムを開催したことは、晶析分科会にとって大きな転換期であったかもしれません。(「粉体と工業」晶析特集号,vol.36,No.8(2004)を参照してください。)

この「工業晶析国際シンポジウム」は、第1回でもあり、協会の内部には、「国際化」に対して理解できないムードもありましたが、豊倉先生とは、「とにかく3回はやってみよう。それから考えればいい。」ということで、「まず実行、それから考える」とチャレンジ精神でスタートしました。本ホームページをご覧の方の中にも、(無理やり)参加さ(せら)れた方もいるかもしれませんが、そういった全関係者のご協力によって、内容的に成功だったと思います。中でもJ.Ulrich教授の全面的な協力には、感謝しています。
国際交流のあり方については、いずれ述べたいと思っていますが、国際的でなくても交流ということは、重要だと感じています。複数の人間、特に専門家が集まると、必ず討論が始まります。うまく運営すればそれが新しい考え方に発展して、それまでには、思いもつかなかった考え方、概念が誕生するわけで、誕生の場に立ち会えたときは大いなる感動をともにすることができるでしょう。


さて、現在は、晶析分科会のコーディネータ(城石昭弘富山大学教授、尾上薫千葉工業大学教授)と幹事に加えて、ドイツからUlrich教授、米国からは、Dan Green博士といったメンバーで、Scientific Committeeを組織し、2004年の会議プログラムの検討を行っています。研究者・技術者を寄せ集めるというだけではなく、2006年そしてその後に産業が必要とする、晶析技術とは何か、それに対して現在開発・解明しなければならない技術・研究はどのようなものなのかを考えています。DuPont社のDan Green博士の主張するように、「高度に専門的な知識に基づいて検討された将来技術は、現在では夢のようであっても必ず実現し普遍的なものとなるが、同時に地域の特産物を生産する産業が必要とする技術にも注目しなければならない」ということを考えると、単に普遍的で専門的な技術を追求するだけでなく、なぜその地において、高度な技術を構築することになったのかその背景を知ることも重要であるということであるわけです。


 今回の国際シンポジウムでは、晶析についてもディスカッションしますが、化学工学が産業を通じて全世界に貢献できることは何なのかを考えてみたいと思っています。

会員の声   日本の技術は評価されているのか?

 豊倉賢先生に「そろそろ社会貢献を考えたいのですが・・・」とお伝えしてから3年位したとき、「今度晶析分科会を立ち上げるけどやってみるか?」というお話がありました。代表幹事がどのようなものであるか分からないままにお引き受けしましたが、戸惑うことばかりでした。
 さて、日本は国土が狭く、国際化、特に技術の国際化は、積極的に行わなければなりません。その日本の技術への評価は高く、世界中どこへいっても技術者として恥ずかしいことはありませんが、評価の基準は、客観的・定量的にいえば、「商品の売り上げ」であったり、「論文が参照される数量」であったりします。
 日本の技術、たとえば粉体技術についていえば、大いに世界経済に寄与していることは間違いありません。しかし、日本の技術者の意見が国際社会で反映されるには、まだ、時間がかかりそうです。
 技術者は、現象をみつめ、その背後にある法則を聞き出す良い「声無き声の聞き役」でなければなりません。その点では、常に複数の言語を操っているといえますが、第3の言語である、英語などが不得手なことが多いようです。個人レベルでいえば、「勉強しろ!」となってしまいますが、これは、いろいろな手段で解決できる問題だと思います。国際社会で組織的に技術を展開するには、組織的な参加が必要なのです。情報収集や分析の時代は終焉し、情報発信が求められているようです。日本からの積極的・組織的な情報提供は、我が国の技術体系に新たな枠組みをもたらすでしょう。我々が何気なく利用している科学は、先進国の税金だけで構築されたわけではなく、科学の発展が産業の発展につながると信じて産業が先行投資した結果なのだと思います。
 技術は、金銭では評価できない特別な財産ですが、その形成方法に特別なやり方はありません。とりあえず、国際社会(かつての銀行のようなもの)にお預けし、運用し利息と併せて返済してもらえばいいのです。もちろん、自分で運用することも忘れてはなりませんが。





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