<製造スタッフの教育方法>
1.プラントプロセスの理解
配属されたらまず自由に記入可能な個人資料として既存PID・PFD・機器リストのコピーをさせ、常時この3つの資料を持たせる。特にPIDは重要で見開きA3版の冊子として持ち歩けるようにし、最初の半年くらいでプラント内にある機器の配置や配管ルートを理解できるようにする。(プラント内オリエンテーリング)
大型の連続プラントでPIDが百枚以上になる場合は、主要プロセス(例:合成系・精製系)、サブプロセス(例:回収系・脱灰系)、用役関連プロセス(例:スチーム系・CW系・BR系)に分け、どこをコピーしたらいいかを教える。(3冊になっても問題なし)
PFDについては整備されていないプラントが多いが、MB/HB(物質収支/熱収支)を入れたPFDをコピーする。(なければ作成させる)
機器リスト(含計装リスト)についてはいろいろな仕様があり(ポンプといっても遠心ポンプ・キャンドポンプ・ナッシュポンプ等)各機器が選定されている理由を学ばせる。
これらの資料を理解するには一日中机に座っていてはだめであり、わからないこと(PIDに記載されている各種の記号・MB/HBの計算方法・機器の原理の理解)は関係者(オペレータや先輩スタッフだけでなく工務系社員や出入業者も含む)に聞きまくらなくてはならない。従って新人スタッフに与えるものは基本的にこの3種類の資料(除新入社員用プラント教育資料)で十分であり、OJTとしては例えば上司は「熱交換器E3411の能力が落ちてきているようだから解析しなさい」と新人スタッフに伝えるだけで良いと考える。課題を与えられた新人スタッフは、おそらく何もわからないのでいろいろ聞いてくることであろう。(熱交換器の能力って何?その熱交換器はどういう目的で設置されているの?MB/HBを作成するにはどうすればいいの?。。。)ここで上司は見守る勇気が必要となる。OJTの意味を履き違えて雑用に近い仕事をさせてはならない。そんなことをすれば、新人スタッフは混乱するだけである。決して秘書代わりに使ってはいけない。スタッフの性格を見抜き(おっとり型・慌て者型・依頼心が強い・理屈っぽい等)適宜指示を与えてゆくことがポイントである。(依頼心が強すぎる場合は「もう少し過去の資料や便覧等で調べてみてはどうか?」とか、また引っ込み思案な場合は「工務部の○○さんに聞いてみてはどうか?」など。。。)
そうすればスタッフは適宜いろいろな職場と人間関係を作り、疲れたらプラント内で配管を追っかけながら気分転換し、自然と自分に求められていることを理解できるようになるのである。
2.プラントの抱える問題点(課題)の抽出
方法は問わない。上司は「今、このプラントが抱えている問題点をまとめてごらん」というだけでよい。そうすると新人スタッフはいろいろ考える。オペレータにアンケート調査を実施する者もあれば、過去のトラブル集を見直す者もいる。あるいは事業部の中計資料に目を通し将来増強する可能性が高いことを見越してプロセスのデボトル発掘に燃える者もいるであろう。まずはそこからで良いと思う。
まとめかたについても様々で良い。箇条書きでまとめる者もあれば、一覧表にする者もいるであろう。いきなり完璧なものなどできないのであるから、都度「こうするともっと見やすくなるよ」というように指導してゆけば良いのである。
☆ この1.2.項目は新人スタッフに必ず通過させるべきであり、見直した資料はプラントの財産となる。PID・PFD・機器リストについては現状と異なっていれば指摘されるはずであり適宜改定できるし、問題点一覧については過去の問題点で解消されているものがあったり、新たに発生してくる問題点があったりして常に最新情報の共有化が可能となる。これは新人スタッフに限らず、異動してきた課長・係長・スタッフにとっても新しく配属されたプラントの概要を短期間で把握できるという大きなメリットがある。
3.問題点(課題)解決のための方策検討
エンジニアリング的アプローチは基本的に「化学工学便覧」「熱交換器設計ハンドブック」「物性定数推算法」をベースに検討することができる。(問題点解決といっても基本はプロセスのMB/HBの見直しから始めるのが普通である)
現在は、ASPENやEQUATRANといったシミュレーションソフトやPIと呼ばれるプラント情報管理システム(運転履歴データ入手が可能)があり机上でほとんど仕事ができるつもりになっているがこれは危険である。シミュレーションソフトは確かに便利であるし自分も使用するが、原理原則を理解せずに使用すると知識・理解の空洞化現象に陥ることになる。安易にプログラムソフトを使用するのではなく、最初の数年間は原理原則を理解するために紙と鉛筆でウンウン唸って計算すべきである。(気液平衡計算や総括伝熱係数の計算などは特にそういった訓練が重要である)
問題点解決のための方策。。。当然新人スタッフにいきなり求めるのは酷である。方策までは上司が提案もしくはヒントを与えどのように検討するかを考えさせることがOJTとなる。
4.投資案件の策定
製造スタッフが一番自分をアピールできるのが投資案件の策定である。プラントによっては法対応関連資料については専属で作成する人員(含環境安全部との折衝)のいる課もあるが、本来これは製造スタッフの仕事である。
アイデアは出すがあとは他人に任せるのではプラントを理解できていることにはならない。将来どこかのプラントの課長候補として育成するのであれば法対応資料作成も含めてスタッフ教育を行うべきである。
製造スタッフが忙し過ぎてそこまでさせられないというのは課長がスタッフを秘書代わりに使っていることを認めていることに他ならない。製造スタッフにライン管理業務をさせてはならないのである。製造スタッフはフリーラジカル状態にすべきである。
5.トラブルを事前に察知する能力の習得
トラブルの事前察知能力はプラントに足を運んだ回数に比例してアップする。例えば、毎日決めた時間にぶらっとプラントを歩き回り重要機器(主として熱交換器)に触れてみる。そこで通常と違ったら(例えばいつもよりプロセス側出口配管が熱いとかスチームトラップの噴出し間隔が短いとか。。。)最近の温度履歴をチェックしたり(TIがなければ接触温度計を借りてきてしばらく計測してみるとか。。。)ドレンチェックをしてみて素早く異常を発見する習慣をつける。
人は熱っぽかったりして自己判断で薬を飲み、安静にして体力の回復を待つ場合と医者に行って薬を処方してもらう場合がある。ケミカルエンジニアはプラントドクターであるからプラントが風邪を引く前にその兆候が認められたら薬を処方し安静にさせて回復させる(CSD等を行う)ようにしなくてはならない。熱があるのにそのままにしておいて風邪を引かせてしまう(閉塞等による緊急停止や品質異常)となかなか治らないものである。
プラントに風邪を引かせないために絶えず「今日も元気か?」と言ってプラントを診て回る。。。これが最も重要なことである。
6.トラブルに対する解決策の提言および指示
そうは言っても風邪を引かせてしまったらいち早く治さないといけない。過去に似たような症状(状況)はなかったか?そのときはどのような薬を処方した(対策を実施した)か?
このころにはPID・PFD・機器リストを理解し「化学工学便覧」「熱交換器設計ハンドブック」「物性定数推算法」を使いこなせるようになっているであろう製造スタッフであれば対策会議で誰かが指示をしてくれるのを待つといった情けないことにはならないと思うのだが。。。
|