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豊倉賢略歴
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2004 Cム2,4:中野 哲也 1989年大学院修士課程修了  (工学修士)



  中野さんは早稲田大学修士課程を修了後直ちに、三井東圧に就職し、大阪工業所を経て現在三井化学(株)岩国大竹工場に勤務しております。早稲田大学の学生は真面目で、常に自らに誇りと自信を持って活動してますが、中野さんはその良き早稲田精神を最も良く身に付けた卒業生の1人で、仲間や後輩思いのやさしいさは皆から慕われています。学生時代の生活は行動的で発言は飾ることなく、正しいと信じることを率直に表現していました。卒業後も学生時代の長所は更に磨きがかかったようで、これからの困難な時代に頼もしい卒業生の1人です。 
  先日中野さんとオリジナルな技術を構築できる技術者についてメールで意見の交換をしていた時、最近部下の教育にも心配りをしているようで、「製造部のスタッフ教育についての指針」を纏めた話を聞きました。 この他にも、他社に就職した若い卒業生から社内の仕事の進め方についていろいろ考えている話を聞いているので、中野さんの製造部スタッフ教育についの考えをtc-PMTに掲載したら喜ばれるのでないかと思いお願いしました。 最近は自分にあった得意なことをよく磨いてそれを生かして活躍することが必要になっていまして、このような記事を参考にする卒業生が多いのでないかと想像しています。卒業生が平素考えていることを気楽に記事に纏めていただけたら、書く本人の整理に役立ち、また仲間の参考になりますので、宜しくお願いします。
                           〈豊倉記〉

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若手生産技術系社員の教育について
―製造部のスタッフ教育に関する指針―

2004.5.10
生産技術G 中野哲也

<背景>

 入社して5年〜10年経過した生産技術系社員のレベルが昔(10〜20年前)と比べ大幅にダウンしている。この事実は工場運営にあたり、大きな障害となっており早急に解決しなければ近い将来マネージャー(部長、課長、係長、GL)適任者がいなくなる危険性を示唆している。そこで「製造スタッフの教育指針」について以下に纏めてみる。

<製造スタッフのあるべき姿>

1. 担当プラントプロセスの理解(含MB/HBプロセス解析)
2. 担当
プラントプロセスの問題点(課題)抽出
3.問題点(課題)解決のための方策検討
4.投資案件の策定(含法対応資料作成)
5.トラブルを事前に察知する能力の習得
6.
トラブルに対する解決策の提言および指示
7.関連資格の取得

<製造スタッフに求められる情意>

1. 積極性
2. 協調性
3. 緻密性
4. 折衝力
5. 判断力


<製造スタッフの教育方法>

1.プラントプロセスの理解
 配属されたらまず自由に記入可能な個人資料として
既存PID・PFD・機器リストのコピーをさせ、常時この3つの資料を持たせる。特にPIDは重要で見開きA3版の冊子として持ち歩けるようにし、最初の半年くらいでプラント内にある機器の配置や配管ルートを理解できるようにする。(プラント内オリエンテーリング)

 大型の連続プラントでPIDが百枚以上になる場合は、主要プロセス(例:合成系・精製系)、サブプロセス(例:回収系・脱灰系)、用役関連プロセス(例:スチーム系・CW系・BR系)に分け、どこをコピーしたらいいかを教える。(3冊になっても問題なし)

 PFDについては整備されていないプラントが多いが、MB/HB(物質収支/熱収支)を入れたPFDをコピーする。(なければ作成させる)
 機器リスト(含計装リスト)についてはいろいろな仕様があり(ポンプといっても遠心ポンプ・キャンドポンプ・ナッシュポンプ等)各機器が選定されている理由を学ばせる。

 これらの資料を理解するには一日中机に座っていてはだめであり、わからないこと(PIDに記載されている各種の記号・MB/HBの計算方法・機器の原理の理解)は関係者(オペレータや先輩スタッフだけでなく工務系社員や出入業者も含む)に聞きまくらなくてはならない。従って新人スタッフに与えるものは基本的にこの3種類の資料(除新入社員用プラント教育資料)で十分であり、OJTとしては例えば上司は「熱交換器E3411の能力が落ちてきているようだから解析しなさい」と新人スタッフに伝えるだけで良いと考える。課題を与えられた新人スタッフは、おそらく何もわからないのでいろいろ聞いてくることであろう。(熱交換器の能力って何?その熱交換器はどういう目的で設置されているの?MB/HBを作成するにはどうすればいいの?。。。)ここで上司は見守る勇気が必要となる。OJTの意味を履き違えて雑用に近い仕事をさせてはならない。そんなことをすれば、新人スタッフは混乱するだけである。決して秘書代わりに使ってはいけない。スタッフの性格を見抜き(おっとり型・慌て者型・依頼心が強い・理屈っぽい等)適宜指示を与えてゆくことがポイントである。(依頼心が強すぎる場合は「もう少し過去の資料や便覧等で調べてみてはどうか?」とか、また引っ込み思案な場合は「工務部の○○さんに聞いてみてはどうか?」など。。。)

 そうすればスタッフは適宜いろいろな職場と人間関係を作り、疲れたらプラント内で配管を追っかけながら気分転換し、自然と自分に求められていることを理解できるようになるのである。


2.プラントの抱える問題点(課題)の抽出  
方法は問わない。上司は「今、このプラントが抱えている問題点をまとめてごらん」というだけでよい。そうすると新人スタッフはいろいろ考える。オペレータにアンケート調査を実施する者もあれば、過去のトラブル集を見直す者もいる。あるいは事業部の中計資料に目を通し将来増強する可能性が高いことを見越してプロセスのデボトル発掘に燃える者もいるであろう。まずはそこからで良いと思う。
 まとめかたについても様々で良い。箇条書きでまとめる者もあれば、一覧表にする者もいるであろう。いきなり完璧なものなどできないのであるから、都度「こうするともっと見やすくなるよ」というように指導してゆけば良いのである。
☆ この1.2.項目は新人スタッフに必ず通過させるべきであり、見直した資料はプラントの財産となる。PID・PFD・機器リストについては現状と異なっていれば指摘されるはずであり適宜改定できるし、問題点一覧については過去の問題点で解消されているものがあったり、新たに発生してくる問題点があったりして常に最新情報の共有化が可能となる。これは新人スタッフに限らず、異動してきた課長・係長・スタッフにとっても新しく配属されたプラントの概要を短期間で把握できるという大きなメリットがある。

3.問題点(課題)解決のための方策検討 
エンジニアリング的アプローチは基本的に「化学工学便覧」「熱交換器設計ハンドブック」「物性定数推算法」をベースに検討することができる。(問題点解決といっても基本はプロセスのMB/HBの見直しから始めるのが普通である)
 現在は、ASPENやEQUATRANといったシミュレーションソフトやPIと呼ばれるプラント情報管理システム(運転履歴データ入手が可能)があり机上でほとんど仕事ができるつもりになっているがこれは危険である。シミュレーションソフトは確かに便利であるし自分も使用するが、原理原則を理解せずに使用すると知識・理解の空洞化現象に陥ることになる。安易にプログラムソフトを使用するのではなく、最初の数年間は原理原則を理解するために紙と鉛筆でウンウン唸って計算すべきである。(気液平衡計算や総括伝熱係数の計算などは特にそういった訓練が重要である)
 問題点解決のための方策。。。当然新人スタッフにいきなり求めるのは酷である。方策までは上司が提案もしくはヒントを与えどのように検討するかを考えさせることがOJTとなる。

4.投資案件の策定
 製造スタッフが一番自分をアピールできるのが投資案件の策定である。プラントによっては法対応関連資料については専属で作成する人員(含環境安全部との折衝)のいる課もあるが、本来これは製造スタッフの仕事である。
 アイデアは出すがあとは他人に任せるのではプラントを理解できていることにはならない。将来どこかのプラントの課長候補として育成するのであれば法対応資料作成も含めてスタッフ教育を行うべきである。
 製造スタッフが忙し過ぎてそこまでさせられないというのは課長がスタッフを秘書代わりに使っていることを認めていることに他ならない。製造スタッフにライン管理業務をさせてはならないのである。製造スタッフはフリーラジカル状態にすべきである。

5.トラブルを事前に察知する能力の習得
 トラブルの事前察知能力はプラントに足を運んだ回数に比例してアップする。例えば、毎日決めた時間にぶらっとプラントを歩き回り重要機器(主として熱交換器)に触れてみる。そこで通常と違ったら(例えばいつもよりプロセス側出口配管が熱いとかスチームトラップの噴出し間隔が短いとか。。。)最近の温度履歴をチェックしたり(TIがなければ接触温度計を借りてきてしばらく計測してみるとか。。。)ドレンチェックをしてみて素早く異常を発見する習慣をつける。
 人は熱っぽかったりして自己判断で薬を飲み、安静にして体力の回復を待つ場合と医者に行って薬を処方してもらう場合がある。ケミカルエンジニアはプラントドクターであるからプラントが風邪を引く前にその兆候が認められたら薬を処方し安静にさせて回復させる(CSD等を行う)ようにしなくてはならない。熱があるのにそのままにしておいて風邪を引かせてしまう(閉塞等による緊急停止や品質異常)となかなか治らないものである。
 プラントに風邪を引かせないために絶えず「今日も元気か?」と言ってプラントを診て回る。。。これが最も重要なことである。

6.トラブルに対する解決策の提言および指示
 そうは言っても風邪を引かせてしまったらいち早く治さないといけない。過去に似たような症状(状況)はなかったか?そのときはどのような薬を処方した(対策を実施した)か?
 このころにはPID・PFD・機器リストを理解し「化学工学便覧」「熱交換器設計ハンドブック」「物性定数推算法」を使いこなせるようになっているであろう製造スタッフであれば対策会議で誰かが指示をしてくれるのを待つといった情けないことにはならないと思うのだが。。。


7.製造スタッフの資格取得について
(1) 危険物取扱甲種  :消防法関連の知識修得
(2) 高圧ガス甲種化学 :高圧ガス保安法関連の知識修得
(3)
熱管理士     :熱収支(HB)の計算に関する知識修得

(4) 公害防止管理者大気1種:熱管理士と共通する部分がありエンジニアには馴染み易い
(5) 公害防止管理者水質1種:測定技術の習得に最適だがエンジニアには馴染みにくい
(6) 特級ボイラー技士   :設備管理(腐食防止や機器の強度等)の知識修得も可能
特に熱管理士はHB計算には欠かせないエンジニアにとって一番重要な資格であり絶対に取得すべきである。

<スタッフの(理想的な)異動時期>

 新人スタッフに限らず、(理想的な)移動時期とは自分が配属されてそのプラントの概要を理解し、問題点(課題)をまとめた際、モチベーションが高いスタッフであればそのプラントのあるべき姿を思い描くであろう。何年か経過して自分としては「あの問題点も解決したし、この課題はクリアーできた。
そろそろ自分の理想に近づいてきたかな?」そう考えたときが異動の時期と思う。その後、別のスタッフが来て従来とは違った視点で問題点を抽出してくれることであろう。プラントはその繰り返しで成長してゆくのである。

<最近の傾向>

 「本当は研究所に行きたい。」「バッチプラントではなく連続プラントで仕事がしたい。」「コア事業関連の仕事がしたい。」などと言った意見を聞くことが多い。ここで確認すべきことは、「化学工学出身だから製造スタッフ向きということはない。」ことと同じ位「化学工学出身でない(理学系・機械系)場合でも製造スタッフ向きの人は多い。」という事実である。重要なことは、仕事にどれだけ興味を示せるかである。
 
大学は問題解決手法を学ぶところであり、将来の仕事内容を決定するところではない。この一番重要なことを理解していない学生が多い。「自分は高分子関係の研究をしてきたのだから会社に入っても当然その関連の仕事がしたい」と思うのは自由だが会社が求めるのは、自分で課題をみつけてそれを解決することができる人材である。
 興味とやる気を持ち、良い環境を作り上げれば(良い環境に恵まれることではない)どのような部署でも成長することができるのである。ただし、そうはいっても人には向き不向きがある。数年でこれを見極め製造スタッフには向かないと判断されれば、速やかに異動させるべきである。そうしないとプラントドクターが不在なわけでプラントも正常に機能しなくなってしまう。

<最後に>

 製造スタッフに限ったことではないが。。。
上司と部下の関係は師匠と弟子の関係であることが望ましい。社会人になるまでは、ほとんどすべての教育体系は先生と生徒の関係である。すなわち「(予め解答が準備された)問題を与えられ生徒は一生懸命先生に期待される解答を求めようと努力をする。期待通りの解答を出せる生徒が優等生でありエリートコースを歩んでゆく。」
 ここに面白い話がある。日本には受験戦争を煽るようなK文式と呼ばれる塾がある。そこではひたすら決められた解答を求めさせる。例えば3×4=□(12)といった感じで。。。ところが、海外では○×△=12で○と△の組合せを考えさせる。(3,4)(2,6)(1,12)。。。いろいろな解答があるわけで、考えている方もワクワクする。ひょっとすると12という数字を聞いてトランプ→ハートのクイーンや12月→スキーシーズンを想像できる人の方が将来性はあるかもしれない。

 師匠と弟子の関係。。。師匠は弟子に最小限のことしか教えない。あとは自分で考えて師匠から技術を盗み取ってゆく。これこそスタッフに求められる姿勢ではないだろうか?




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