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豊倉賢略歴
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2009 B-9,1:豊倉 賢 「化学工学協会・晶析研究会を支えた城塚・豊倉研究室・・50年の晶析研究活動」(1)・・・城塚・豊倉研究室初期10年間の晶析研究とそれと関連した晶析技術

1)はじめに :
  今年は城塚研究室に席を置いて50年を経過し、その後、晶析研究会を立ち上げ て40,また豊倉が早稲田大学を退職して10年経過した特別の年で、3月に横浜国立大学で開催されて化学工学会年会にも参加した。そこで開催された晶析技術分科会で新代表に決まった大嶋先生のお誘いがあって化学工学会・晶析技術分科会夏期セミナーにも参加することになった。当初は、現在、第一線で活躍している晶析分野の研究者・技術者の話を聞いて陰から応援する積もりであったが、研究会発足40年の節目であると考えると、この間の晶析研究会の歩みを伝えることも意味あることでないかと思い、大嶋先生と相談して「日本における晶析研究・技術に関する40年の活動を振り返って」についての話をすることになった。このような機会は、豊倉にとって恐らく最後になるであろうと思っていろいろ準備しているうちに、講演内容が広がって詳細を話すことは難しくなり、その大部分は研究室のHP”tc-pmt”に9~11月の3回に分けて掲載することにした。

  今回の記事の概要を紹介すると9月からの第一期2 )に掲載する記事の内容は、豊倉が城塚研究室に在籍してから、1968年の欧米留学から帰国するまで10年間である。この10年間の最大の収穫は、当時世界の晶析研究をリードしていた米国のLarson & Randolph, やヨーロッパのMullin & Nyvltに日本の晶析研究・技術の評価を得たことであった。それに引き続いた15年間では日本の晶析研究・技術に対する世界の評価をさらに高めることが出来、1986年東京で開催された第3回世界化学工学会議に設置された晶析セッションを成功させることが出来た。この間の日本晶析グループ活動状況を第二期 3 〉に、それ以降の活動状況は第三期 4 〉に掲示の予定です。今回の記事は 2 ) ~4 )に分け、数ヶ月のシリーズとして掲示するが、そこでの記事内容は細部記述より個々の研究の流れを重視しているので、これまで記述して来たHPと一味違ったものにして、晶析に関心のある人達に新しい印象を提供したいと期待している。

2)1950年代末から1960年代末にかけての晶析技術・晶析研究 :

2−1)産業界における結晶生産技術
  一部の企業では既に結晶製品を生産していたが、そこでは、結晶学の分野で研究された理論に従って工業操作を開発していたようであった。20世紀前半の晶析に関する研究では、溶液組成と操作温度によって決まる安定な結晶系や結晶組成を示す相図が種々の系で発表されていた。この関係を適用すると晶析操作で必要とされる製品結晶とその生産量を生産する操作条件を比較的容易に決定できた。しかし、そこで決定した操作条件で操作しても、溶液相から析出する結晶と母液を簡単に濾過分離できる結晶を生産することは容易でなかった。それは、この相図だけで、製品結晶として所望の形状や粒径その他の物性を有する結晶を所望量生産することはむずかしかったからである。当時の晶析操作でしばしば起こるトラブルは、装置内で析出した結晶が装置壁面上にスケール状に析出し、そのスケール状結晶は強固な結晶層に成長して、装置よりそれを取り出すことは非常に難しく、円滑な晶析操作の妨げとなっていた。

  また、装置内で生産される結晶を懸濁させていた母液から分離して製品輸送ラインにスムースに移送することは、製品結晶の品質低下を防止するだけでなく生産作業を円滑に進める上でも重要なことで、生産コスト削減のためにも企業技術者が抱える重要な課題であった。実際、この課題解決なくして晶析操作を化学工業等における分離操作法として一般プロセスに広く適用することはできないと考えられ、企業技術者との非公式な討議の場でしばしば話題になり、その対策の意見交換は行われていた。

  この問題が未解決であった時代は、結晶製品を生産しなければならない場合、晶析操作は工業生産プロセスとして採択されていたが、晶析操作を避けて生産プロセスの構築できる場合は、晶析操作の選択を避ける企業は多いようであった。このような状況下にあっても、化学工業の将来を考えて晶析プロセスの採択を進めていた研究者・技術者の多くは、液相からの晶析操作における結晶成長現象と結晶核発生現象が晶析操作を難しくしてると考え、個々のケースを対象に晶析現象を研究してこれらの難問を徐々に解決していた。実際、技術者の試行錯誤的開発研究で運良く生産条件を見つけることの出来た場合、商品としての結晶製品を生産することが出来、それによって新しい化学産業の構築が期待された。当時の晶析操作はどちらかと云えば市場ニーズに応える結晶製品を安定供給出来るプロセスを開発して工場建設をすることが将来への道を拓くと考え、生産コストの削減を図ることはその次の段階の課題として取り組まれたようであった。

  当時、日本国内で稼働していた晶析装置の中には、一部の企業が海外の文献等を参考に自社技術として開発したものがあった。それらの中には装置の概観や装置内の理想的な状況のみを理解してそれと似た装置を設計し・運転すれば、文献にあるような製品が生産できると想定していたようで、全く期待した製品が生産出来ないことも可成りあった。これらは、企業現場のことであったので、企業名や系を発表することはほとんどなかったが、データは、既に発表されてるものもあるので、それらの中から豊倉が経験したものの一部を列記する。

・・・・スケーリング関連現象・・・・
a) 配管内部・装置壁面状のスケール状結晶析出・・2次元核化基づく。
b) 装置底面上への結晶沈積による結晶析出・・・・装置内の不十分流動。
c) 高懸濁スラリー・高過飽和溶液・高速撹拌翼による微結晶付着
d) 蒸発型晶析装置の気液界面付近のスケール・・・洗浄操作の利用
e) 溶媒晶析等多量成分晶析時のスケール・・・・・・・
・・・・粒径制御、媒晶剤添加による製品結晶制御・・・・
f) 成長型晶析装置による均一粗粒結晶・・Oslo型、分級脚効果
g) 尿素添加塩化アンモニウム系水溶液からの塩安の晶析法
h) 燐酸生産プロセスにおける半水・2水石膏晶析法
i) 石膏硫安法:石膏+炭酸アンモニウムによる高速炭酸カルシューム晶析法
j) 粗粒硫安製造プロセスにおける過剰核の制御法
k) 連続光学活性物質の優先晶析法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2−2)化学工学分野における晶析工学と晶析技術
  1960年代における日本の晶析研究は、 晶析装置内で成長した懸濁液中の結晶を容易に濾過分離出来る製品として安定生産するための晶析現象の研究と、他の拡散単位操作と較べて後れをとっていた所望結晶製品を工業的に生産出来る晶析装置設計理論の提出に関する研究が主であった。

i) 晶析装置内表面に析出した結晶化現象とその対策 :
  晶析プロセスで使用される装置の内表面やそれらの装置を結ぶ配管内面への結晶の析出は、安定操作を行うために極めて重大な障害となる。それは、装置内表面上に発生する2次元結晶核とその成長に起因することが多い。2次元結晶核発生を含め、過飽和溶液中での核化現象の研究では、結晶核発生前後における対象過飽和溶液内の自由エネルギー変化が検討され、それに基づいて結晶核発生の難易は検討出来るようになっていた。それによると、2次元結晶核の発生は結晶核が発生する固体表面に接している過飽和溶液との界面エネルギーとその界面に接している溶液過飽和度の影響を受けることが明らかで、装置壁面状の結晶層生成の基点になる2次元核発生を抑制するには、過飽和溶液が接している装置表面の仕上げ程度や装置表面に接している溶液過飽和度を2次元結晶核発生が抑制される範囲に維持して操作することが必要である。しかし、操作上の何らかのトラブルで、結晶核が発生したような場合、その結晶核は素早く成長することがあり、安定晶析操作の障害になることもあった。従って、そのような結晶核の発生が危惧される時は、予め、直ちに除去出来るような準備を検討しておくことが大切であった。

  しかし、常識的には、2次元結晶核が発生し難いような個所、即ち、装置内で結晶スラリーを激しく撹拌する撹拌翼やそれを固定する撹拌軸の表面に結晶が付着したように発生したり、また殆ど過飽和度のないような溶液を輸送する配管中で結晶が配管を閉塞することがあった。そのような場合、結晶生産プロセスの何処かで激しい2次核発生が起こり、それが原因になって配管が閉塞したこともあった。その当時は、まだ、2次核発生現象の研究が余り進んでいなかった頃のことで、2次核発生現象を新しくオリジナルに研究しながら、慎重に検討してこの問題を解決したこともあった。

  一般に晶析操作で対象になる系の特性値は多種多様であって、その物性値によってはこれまで他の系で経験したことのないようなトラブルが起こることがある。通常の蒸発晶析操作では、晶析装置から排出される溶液は再び熱交換器に送られ、そこで加熱昇温されて蒸発室に供給された。この時、その溶解度が温度と共に上昇すると、熱交換器の中で適度に蒸発して濃縮されても加熱伝熱面上に結晶が析出することはない。しかし、蒸発缶の蒸発面から熱交換器伝熱面までの液深が充分でないと、伝熱面上を溶液が通過しても、その表面が常に溶液によって覆われないことがあり、その濡れの不十分な個所に結晶が発生し、それが急速に成長して出来たスケール状の結晶層が溶液通路を閉塞することもあった。これらは、初歩的なミスのように思えるが、経験豊富なエンジニヤリング企業の技術者も失敗したことがあり、晶析操作対象系の物性値を充分考慮して装置・操作法を設計する必要があった。

ii) 工業晶析操作による所定量の所望粒径結晶生産:
  晶析装置で所望粒径結晶を所定量生産するには、その装置内に懸濁している結晶の平均体積成長速度と平均線成長速度および装置内の結晶核発生速度が極めて重要です。ここで、議論の対象になる濾過分離の容易な粗粒結晶を生産するには、生産される結晶は晶析装置内で所望粒径の結晶に成長した後、母液から分離・乾燥等の後処理を行って製品として工場から出荷される。この結晶はこの処理操作中に目立った破砕がなく、安定した取り扱いが出来るような結晶形状等の特性と粒径分布を持つことが必要です。そのためそのような製品結晶を生産するのに適した装置を設計し、操作条件を決定することが大切です。この場合、小型実験装置を組み立てて実験を行い、所望製品を生産できる操作条件決定することが重要です。合わせて、このテストで、装置設計に適用できる結晶成長速度や、操作過飽和度あるいは、その結晶を生産するのに必要な有効結晶核の発生速度を決定することも有効です。1960年代、結晶成長速度の研究は多くの研究者によって行われ、結晶成長速度に関与する因子は理学分野の研究成果と合わせて可成り明らかになっている。しかし、結晶の生成、生産の観点から結晶成長を考えると、結晶成長の基点になる結晶核の発生や種結晶の生成は極めて重要ですが、川下の最終製品と結晶核、種結晶との関係は一部の装置内現象を除いて明らかでなかった。

  結晶成長の基点である結晶核や種結晶の成長については、未だに不明な部分が多いが、製品結晶の粒径制御を検討する際に対象になる結晶は、比較的製品粒径に近い大きさに成長した結晶である。そのような結晶の成長現象は過飽和溶液内の析出成分の拡散現象と結晶表面段階の晶析現象の直列機構モデルが提案されている。そのような結晶を対象に両段階の結晶成長速度係数を定量化すると、結晶成長速度に影響を与える環境因子を考慮した結晶成長速度が表現できる。しかし、これらの環境因子の影響を全て考慮して小型装置で測定した結晶成長速度に基づいて装置設計を行う場合、注意しなければならない点についての研究課題は未だ残されている。

  結晶核の発生速度に関する研究は理学的な理想モデルに従って発生するとした理論的研究は1950年代に多数報告されていたが、その研究成果を用いた工業晶析装置・操作を設計する段階には至っていなかった。そこで、工業晶析操作担当の技術者は、20世紀初頭より研究されてきたMiersらが提出した準安定域の概念を適用して、装置内溶液の濃度を準安定域過飽和度内に保ち、その溶液の中に所定量の種結晶を添加してそれを所望粒径に成長させる操作法を基本に晶析プロセスの開発を行った。ここでは、回分晶析プロセスを対象に、予備実験で決めた準安定域操作過飽和度で操作した場合晶析装置内現象を検討する。装置内の状況について、溶液過飽和度およびそこに懸濁している結晶は、装置内を通してほぼ均一状態に分散する理想状態で操作されるように工夫されると仮定する。このような操作では、結晶種を添加してから所望粒径結晶に成長するまでの操作時間Tは、予備テストで決定された結晶の粒径成長速度Grで成長したと考えて、所望粒径Lpを割った成長時間と等しくなり、その時の最終結晶の懸濁容積を30%と設定すると単位装置容積当たりの結晶容積生産速度P= 0.3 x Gr / Lp となる。( ここでは種晶粒径は製品粒径に対して近似的に無視できるとする。)

  実際の工業晶析装置内現象は、ここに記述したように理想モデルに近い状態で操作することも可能な場合があるが、現実にはある程度の差異は存在する。 それは、現実の晶析操作は、ここで想定した理想モデルと厳密に一致する操作を想定することは出来ないからである。しかし、工業操作の改善を目的に検討するためには、実際の工業操作に近いモデル装置・操作を想定した計算結果と実際に生産される結晶をほぼ同一とみなせるようにモデルを修正し、計算法を改善することが大切である。また、ここで設定したモデルが工業生産の理想的な姿に近いものであれば、晶析操作法や晶析条件を可能な限り理想モデルに近づけることも必要である。そのためには晶析基礎現象を実際の工業装置内現象に近づけるような工夫をして研究することが大切で、その成果を適用して、より妥当な設計理論を提出し、工業生産プロセスの構築が望まれた。

iii) 工業晶析装置設計理論とそれによって設計された工業晶析装置 :

a) 連続円筒形流動層型晶析装置・・ Krystal-Oslo型晶析装置
  20世紀後半の晶析装置は、濾過分離の容易な比較的粒径の揃った結晶を生産出来る装置の開発が話題になり、そのような結晶製品の生産に適した連続成長型晶析装置に対する関心が高かった。Krystal-Oslo型晶析装置は20世紀前半に開発された成長型装置で、1940年代にその装置設計理論の研究は欧米で始まっていた。この装置は、蒸発室で濃縮されて過飽和になった溶液を晶析装置本体底部に供給し、そこに懸濁している粗粒結晶を分級して均一粗粒結晶を生産するように操作された。そこに供給された溶液の過飽和度は、懸濁している結晶を成長させて減少しながら装置内を上昇し、塔頂より溢流して熱交換器に送入され、加熱・濃縮を繰り返して晶析装置に送られた。晶析装置本体内に懸濁している結晶は流動層の流動特性に従って分級層を形成し、装置本体を簡単な円筒とし、装置内を上昇する空塔速度はほぼ一定と見なすと、装置内に形成される流動層粒子は高さ方向に分級した。また、装置内の結晶懸濁密度は、局所的な操作条件によって規定される懸濁結晶粒径に応じて決まる高さ方向の懸濁密度分布を形成して定常的に操作された。

  このKrystal-Oslo型晶析装置に対して豊倉らは、ガス吸収装置設計理論の導出同様に物質収支式を立て、装置塔頂部の結晶懸濁密度を10%と置いて晶析操作特性因子(C.F.C.)を提案し、円筒形Krystal-Oslo型晶析装置塔高算出式(1)を提出した。

   塔高 = (設計定数:αD,αR)(製品結晶・物性値・操作条件)(C.F.C.)・・(1)

  ここで、設計定数αは同形式のパイロットプラントデータより求めた数値で、添字D,Rは拡散段階律速支配および表面晶析段階律速支配を示し、(製品結晶・物性値・操作条件)は、製品結晶粒径および装置断面積当たりの生産速度・対象となる系特有な物性値で、安定した結晶製品を生産できるときの装置内最大過飽和度等設計に必要な物性値, (C.F.C.)は個々の代表的な連続成長型晶析装置に対して提出された無次元晶析操作特性因子で、系や製品結晶の粒径や生産速度に関係なく、その装置形式に対して提出されている無次元結晶粒径y1と無次元操作溶液過飽和度φによって決まる数値で、それは無次元粒径と無次元過飽和度に対して線図が提出されており、それを利用して容易に求めることが出来た。ここで紹介した設計式は「化学工学29巻、2号、698(1965)」に発表されているので、この式等の詳細はそれを参照いただきたい。なお、式(1)に示した結晶の生産速度は装置単位断面積当たりの生産速度である。従って、装置全体の生産速度が与えられる場合、この設計計算に用いた断面積当たりの生産速度で割ることによって、装置断面積は求めることは出来た。一方、装置断面積当たりの結晶生産速度は装置内を上昇する溶液の空塔速度と塔底部および塔頂部溶液の濃度差から求められ、ここで用いられる装置内溶液空塔速度は、塔底部の結晶粒径および結晶懸濁密度等より表されてる流動層の流動特製式より求められる。一方、装置塔底部の結晶の懸濁密度は、製品結晶形状によっても異なるが、高効率晶析装置においては、30~40%の数値で安定操作が可能なことが多く、その数値を適用する場合、容易に空塔速度を決定することが出来た。しかし、この晶析操作では装置塔頂部の溶液過飽和度は決めてないため、塔頂部過飽和度を小さくすると、溶液の装置通過当たりの結晶生産量は大きくなるが、塔高を高くする必要があり、装置容積当たりの生産量は低下する。これらを総合的に検討して、晶析装置の塔径と塔高の釣り合いのとれた、安定操作が可能な装置を設計する必要があった。

b) 連続円錐形分級層型晶析装置とその設計法
  a) の円筒形分級層型晶析装置においては、装置の特性上装置底部の結晶懸濁密度を安定操作可能域の最大懸濁密度に保っても、装置底部より上方に離れるに従って懸濁している結晶粒径は小さくなり、その装置全体の平均結晶懸濁密度も小さくなる。言い換えると、円筒形晶析装置の結晶懸濁密度は流動層型晶析装置の安定操作可能域の最大結晶懸濁より小さくなる。そこで、晶析装置容積当たりの結晶の生産速度を出来るだけ大きくするため、装置内各所の結晶懸濁密度を装置底部の最大結晶懸濁密度に保つようにするための晶析装置外壁形状を検討した。

  ここでは、まず、流動層の流動特性式に着目して、日本専売公社の諏訪らが、専売公社小田原塩実験所報告No.6,106(1961)に発表した食塩結晶による流動層のデータおよび相関式を検討して、装置内の空間率( = 1- 結晶懸濁密度) を一定にしたときの無次元結晶粒径( y = dp/dp2 ) と装置断面積( S )との積は一定となる関係式に着目した。そこで、この研究においては、上記式(1) の円筒形晶析装置塔高算出式で用いた断面積一定の表示を装置内懸濁密度一定の条件に変え、無次元結晶粒径 y をパラメータに塔底からの距離Zと装置断面積Sを算出し、同じyに対応したZとSを結んで、装置外壁の曲線を書いた。ここで誘導した関係式および装置内結晶懸濁密度一定時の晶析操作特性因子(C.F.C.)void fraction=const.の誘導と無次元粒径yおよび無次元過飽和度φとの相関を示した線図は「化学工学30巻、4号、359,(1966)」に発表しているので、この研究の詳細に関心の有る諸氏はそれを御覧頂きたい。

  この研究で提出した円錐形分級層型晶析装置は、大同鉛の青山氏の研究で前年に成立した特許(日本特許昭和40-22367)と装置形状がよく似ており、1966年12月に豊倉が米国に出発まで、青山氏や青山氏傘下の技術担当の技術者とこの装置を中心にした討議を数回行った。1968年末、豊倉が米国より帰国した時、青山氏は、豊倉の設計理論に従って設計した円錐形工業晶析装置の運転データは、その操作条件を入れて計算した推算値とよい一致をしていたと話された。その後、硫酸ナトリウムの晶析装置を円筒形分級層型パイロットプラントのテストデータを基に設計定数 αD および αR を算出し、それを使って設計したプラントの試運転データを取得した。このデータは、それを取得した時の操作条件を設計式に入れて推算した数値と比較し、それらを纏めた論文は青山吉雄・豊倉賢の連名で「化学工学37巻、4号、416(1973)」に発表した。以降、1989年8月、青山さんがお亡くなりになるまで、20年余の長期に渡って親交を続け、日本の晶析技術の発展に尽くすことが出来た。化学工学37巻416頁掲載の論文を発表してから何年か経って、蒸留技術懇話会恒例の夏期検討会・懇親会の席で、化学工学協会元会長の東京工業大学名誉教授藤田重文先生から「豊倉さん、君は青山さんとのお付き合いを大切にするように」と云われたことがあって、青山氏と討議したことを思い出す時は、今でも藤田先生のお言葉を思い出している。

c) 他形式結晶成長型連続晶析装置の設計理論:
  連続分級層型晶析装置は均一粗粒結晶の生産に適した装置で、現在でも広く工業晶析装置として稼働している。しかし、対象となる結晶や過飽和溶液の特性値によっては、過飽和溶液内を沈降する結晶の終末速度が小さいことがあって、そのような系の晶析操作に分級層型晶析装置を選定しても産業界の要望に応える結晶を生産し難いことがあった。そのような系に対して、装置内溶液の平均過飽和度を大きく維持できるように装置内懸濁結晶の混合状態をよくして操作する結晶運搬層型装置や特殊撹拌槽型装置が開発された。しかし、このような晶析装置では結晶破砕が起こりやすく、それを防止するような工夫がなされ、各装置メーカー特有な方法を用いた新型装置が開発された。それらの新型装置内で発生する有効結晶核の発生速度やそれらの影響を受ける結晶の成長速度は操作過飽和度等によっても異なっていたが、その後の研究で、それらの定量的な関係は明らかになっており、それらと装置の特性を組み合わせることによって開発された装置で生産される製品結晶粒径と生産速度は生産担当技術者の期待に近づけられた。しかし、この形式の装置による連続晶析操作では装置内で生産される結晶は分級されないため、濾過分離の段階で均一粒径の結晶生産を考えることは出来なかった。そこで、このような装置を成長型にするために、晶析装置から製品結晶を取り出す前に湿式分級装置(通常分級脚を用いる)を付けそこを通して所望粒径の結晶のみを生産するような装置も開発された。

  湿式分級脚を付けた混合型晶析装置は、Swenson社が開発したDTB型晶析装置と月島機械(株)が開発したDP型晶析装置が広く世界各地で稼働している。この装置は装置内の循環部分に大幅な違いはあるが、装置内の結晶はドラフトチューブを通して装置内を効率よく循環するようになっており、製品結晶に成長したものは分級脚にて優先的に分級されて所望粒径に成長したもののみ取り出されるようになっている。これらの装置設計もC.F.C.因子を用いた設計式が提出されており、その詳細はケミカルエンジニヤリング,No.6,62 ( 1966 )に掲載されている。

3)むすび・・1960年代の晶析技術・晶析研究の纏め :
  1960年代は、一部の化学工学研究が先行して進められ、一部の単位操作は既に高レベルに達して戦後の化学産業の発展に貢献していた。それに対して、晶析操作は、先行単位操作と異なる現象があって、なかなか進まなかった。しかし、1960年代末になって先進国の晶析研究が進み、日本の研究者・技術者の晶析に対する関心も高くなった。次号では日本晶析研究者の研究成果の進捗に合わせた国際交流の状況と1970年以降の晶析工学の発展および日本の当該分野における研究者・技術者の活動とその成果を紹介して、これからの研究者・技術者の参考に供することを期待して記述する。

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