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豊倉賢略歴
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2009 B-8,1:豊倉 賢 「川下から見た豊倉研究室晶析研究の50年(5)
                連続式円錐形分級流動層型晶析装置設計理論の提出ー CFC理論3」

1 ) はじめに:
  豊倉が連続分級層型晶析装置設計理論式を誘導し、それを使った新しい設計法を提出したのは、1963年の初夏であった。当時日本のエンジニヤリング企業は、競って新商品の開発を行っていた時期で、晶析装置もその対象の一つとして一部の企業で真剣に研究されていた。偶々、1965年1月、当時親しくしていたエンジニヤリング企業・化学装置事業部の新春講演に晶析装置設計理論の話をするように云われたことがあった。そこでの講演終了後の質疑の場で、文献等で紹介されてる分級層型晶析装置の外壁は、垂直な円筒缶ではなく、壁面に勾配が付けられることが多いが、それはどのような考えによってその外壁等の角度が決められてるかと質問を受けた。この頃の研究室は、工業晶析装置の研究を始めて日が浅く、最初の基本式を提出して1年足らずであって、この問題について企業技術者と真面目な討論をした経験はほとんどなかった。そこで、当時考えていた、「装置内の結晶スラリーの流動状態が安定してスムースに流れるように決めることは必要と思うが、もう一つの考えとして装置の生産効率を高くするような装置形状も考えられるのでないか?」と答えた。

  通常の分級流動層型晶析装置では、適度な過飽和度になるように決められた操作条件を前提に調整された溶液を装置本体内底部に供給し、装置内の全結晶が緩やかに流動するように結晶層の下部より結晶粒子間を通して上昇させた。そのような状態にある結晶流動層内の結晶の状態を考えると、装置内特定個所に存在する粒径の異なる結晶は、着目する結晶粒子の沈降速度(この速度はその粒子結晶の沈降終末速度と考える)が装置内を上昇する溶液の空塔速度と等しい時はその場所に浮遊するが、その空塔速度より沈降終末速度の速い場合はその個所より沈降し、局所的な空塔速度と等しい所に到達してそこに留まって懸濁する。それとは逆に、その特定個所の溶液空塔速度より遅い沈降速度の結晶・・その特定個所の空塔速度と釣り合ってそこに浮遊している結晶粒径より小さい結晶・・は溶液流に乗って装置内を上昇し、それぞれの速度が均衡した個所に到達して浮遊するようになる。そのため、円筒型晶析装置内に粒径分布のある結晶が一定空塔速度の上昇溶液中に懸濁していると、粗粒結晶は次第に装置底部に集まるが、それとは逆に微粒結晶は溶液流に乗って上昇し、微結晶の沈降速度が装置内上部の容液空塔速度と釣り合うところに集まって懸濁するようになると考えられている。

  ここで、分級流動層内に懸濁する結晶粒子の挙動を検討するために、装置内溶液を 飽和溶液と考えると、この円筒形流動層型装置内における結晶粒径は成長も減少も起こさない理想的状態(厳密には貧溶媒での操作と考える)と想定できる。そのような装置内に比較的狭い粒径範囲に篩い分けされた適量の結晶を入れると、それぞれの結晶は流動層の流動特性によって装置底部からの距離に応じて分級される。この時装置内の空塔速度は装置内高さ方向の位置によって変わることがないと考えられるので、流動層内の状態は、空塔速度と結晶の終末速度および空間率によって表される流動層の流動特性式によって表される。ここで、空塔速度を一定とすると、特定粒径の結晶は装置底部よりの距離によって規定される位置に懸濁しており、その範囲での空間率(結晶の懸濁密度で考えてもよい)も一定になってくる。一方、装置内単位容積当たりの全結晶成長速度を考えるとそれは、装置内特定個所の装置単位容積当たりの全結晶表面積とその場所に懸濁している結晶の線成長速度との積によって決まる。この装置単位容積当たりの全結晶表面積は単位容積当たりに懸濁する結晶個数と一個の結晶表面積との積である。また、一定粒径の結晶が懸濁する結晶流動層の結晶懸濁密度は、結晶体積基準で考えると流動層単位体積当たりの総結晶数と一個の結晶体積の積であり、それより安定流動層の単位装置容積当たりの結晶表面積は円筒形流動層型装置においては、装置底部からの距離、(ここでは装置底部からの高さ) の増大によって単調に減少する。

  そこで、晶析装置に供給される溶液過飽和度を一定にし、また定常操作時の装置内に懸濁している結晶の沈降終末速度はAllenの範囲であって、その全結晶の量および粒径分布は同じで、その装置内結晶の体積当たりの結晶懸濁密度が0.1~0.4の範囲で結晶粒径に関係なく安定操作が可能であると仮定すると、装置内各所の結晶懸濁密度を装置内全域の操作可能域の最大値で設計すると、その装置容積当たりの結晶生産速度が最高値になると考えられる。そこで、装置内溶液の空塔速度Gを一定にして装置内各所の空間率を一定にするには、流動層の流動特性式によって相関されるように装置断面積を変化させねばならない。以下、このような考えで設計される晶析装置の形状とその形状の分級層型晶析装置の設計法を扱う。

2)装置内空間率e一定の流動層型晶析装置断面積と無次元結晶粒径の関係
  連続式円錐形分級層型晶析装置の設計法は化学工学30巻4号、359,(1966)に発表したが、そのコピーは「晶析工学の進歩p.300~301・・参考文献I」、関連記事は「同書p.278~280のIV・・参考文献II、および同書p.283のe・・参考文献III」に記載されており、本稿はそれらを使って記述するので、必要に応じてそれらを参照されたい。 本稿で対象にする連続式円錐形分級層型晶析装置については、上記 1)はじめに : 円錐形分級層型晶析装置の研究を始めた経緯とこの装置の特徴およびそこで提案した装置・操作のモデル化したものを記述した。ここでは、そのモデル装置を対象にした設計式を2009B6-1,1で扱ったモデル円筒形装置と対比して誘導する。ここで対象にする装置の水平断面積Sは、着目される断面に懸濁している分級結晶粒径dpの関数であり、また装置内を上昇する溶液流量Fuは、装置内を通過する溶液流中に懸濁する結晶の成長に費やされる質量に比して非常に大きいので装置内を通してほぼ一定と考える。そこで、この装置内を通過する溶液の空塔速度Gは参考文献1の式(1)となる。・・・〔式(1)は、2009B6-1,1で引用されてる式(14)と同じ考えで使用している。〕

G/ut = Fu/S ut = ( e /1.05 )の3剰 ( 1 )

  ここで、装置塔頂部の断面積および結晶粒径をそれぞれ、S2およびdp2 、また無次元粒径yは dp/dp2, 粒径dpの結晶の終末速度をutで表すと式(2) , (2’)は得られる。

S dp2.y = Fu / I ( e / 1.05 )の3剰 = constant ( 2 )
S dp = Fu / I ( e / 1.05 )の3剰 = constant ( 2’ )

  ここで、Iは ut / dp である。

3)装置内空間率e一定の流動層型晶析装置の塔高算出式 :
  2009B6-1,1で対象にした晶析装置は円筒形晶析装置であったが、ここで対象にしている晶析装置は円筒形でないため、その違いによって基本式で変更しなければならないことは、晶析装置本体の水平断面積が装置高さの位置によって異なることで、その他の装置内の状態は全く同じであった。従って、参考文献Iの式(3),(4),(5)(6)は、円筒形において考えた式を使って式(7)は得られた。それより塔高Zの関係式(9)は、装置空間率一定の装置内断面積Sが塔高Zの関数であるので式中のSをS2に無次元結晶粒径yを乗じたS2yに置換して塔頂から塔底まで積分して誘導した。

Z = 0.54(結晶密度)(形状係数の2剰)F’( Iの2/3剰)(空間率の3剰)(dp2の16/3剰)
x (C.F.D)e=const. / F(1-空間率)M(Dの2/3剰)(ΔC1)
+ 0.83(結晶密度)(形状係数の2剰)F’I(空間率の3剰)(dp2の5剰)C’
x (C.F.SR,)e=const. / F(1-空間率)MKR(ΔC1) ( 9 )

  ここで、(C.F.D)e=const. および (C.F.SR)e=const.はそれぞれ、式(10),(11)で表され、 (C.F.D)e=const. = Φ(yの13/3剰) dy / ( 1+(Φー1)(yの3剰ー1)/(y1の3剰ー1) ) の1からy1までの定積分 ( 10 )

(C.F.SR)e=const. = Φ(yの4剰) dy / ( 1+(Φー1)(yの3剰ー1)/(y1の3剰ー1) ) の
1からy1までの定積分 ( 11 )

  それらの数値はそれぞれ、参考文献IIの図3・23および図3・24に求められる。

  なお、式(10),(11)で使用したF’, F, M,D,は晶析装置に供給された種晶の添加速度、溶媒基準溶液の供給速度、分子量、拡散係数で、下付き1,2はそれぞれ塔底および塔頂を示す。

4)装置内空間率e一定の流動層型晶析装置の塔高算出法 :
  空間率e一定の流動層型晶析装置の塔高は、円筒形晶析装置と同様に拡散律速支配の系と表面晶析律速支配に分けて行うと容易である。式(9)で示される塔高算出式を拡散律速支配と表面律速支配に分け、2009B7−1,1の式(29),(30)で示される円筒形装置設計式の中で用いた設計定数 : 拡散律速定数 αD = 0,63k/(Iの1/3剰)MC’(Dの2/3剰) および 表面晶析律速定数 αR = 0,96k/MKR : を用いるとそれぞれに対して塔高算出式は式(13),(14)となる。

拡散段階律速支配 : Z = ( 0,86 (αD) I (空間率の3剰) P2 (dp2の7/3剰) C’
(C.F.D.)e=const.) / ( F(1-e)(ΔC1) ) ( 13 )
表面晶析段階律速 : Z = ( 0.86・(αR) I (空間率の3剰) P2 (dp2の2剰) C’
(C.F.SR.)e =const. / F(1-e) (ΔC1) ( 15 )

  なお、式(13), (14)におけるP2は晶析装置に供給される種晶 添加速度である。

5)装置内空間率e一定分級流動層型晶析装置設計法
  塔形式晶析装置の結晶生産速度P1は塔頂、塔底の物質収支より式(129)となる。

P1 = MF (ΔC1 ー ΔC2 ) + P2 (129)・・参考文献IIのp.279

  装置設計に当たり、生産量P1 および装置底部に供給される溶液過飽和度ΔC1等は予め決められるので、装置内を上昇する溶液流量Fは、無次元過飽和度φ=ΔC1/ΔC2 の関数として決められる。一方装置塔底部や塔頂部の断面積は、塔底部および塔頂部懸濁結晶粒径dp1 およぶdp2より流動層懸濁結晶の流動特性式(1)から決定出来る。

  装置内空間率e一定分級流動層型晶析装置の塔高Zの算出は、まず、円筒形分級層型実験装置で連続定常運転を行い、データを取得して、2009B7-1,1の4)に示したFig.7の点綴を行って、その勾配より分級流動層型晶析装置設計のための設計定数、αD または αR を決定する。この設計定数を用いて、本稿4)の式(13) または式(15)の適切な方を使用して晶析装置塔高を算出する。なお、設計式の算出においては、使用される装置内における結晶の懸濁密度は、可能な範囲で大きい方が望ましく、また装置内底部に供給される過飽和溶液の過飽和度も所望結晶を生産できる範囲の最大値であることが、装置容積当たりの生産量を大きくするためには望ましい。しかし、過酷な操作条件となるような高過飽和度、高懸濁密度、装置内溶液の高循環速度で操作すると、製品結晶粒径や品質の低下が起こることがある。したがって、設計定数を決定するための予備テストの操作条件を所望結晶が生産できる範囲に留め、設計される工業晶析装置の操作条件を設計データ取得のための予備テストの範囲内で行うようにすることが望ましい。一連の予備テストで、所望の結晶製品の生産が出来ない場合は、結晶核発生現象を含めて、工業晶析装置内晶析基礎現象を慎重に検討し、所望結晶製品を生産出来るようにするための支援操作を工夫したり、別形式の晶析装置や操作法を検討することが望ましい。

  ここで記述した、塔形式の晶析装置は、φをパラメーターにして装置内溶液循環速度Fを決定して装置塔高および、装置断面積塔を決定した。しかし、晶析装置は装置内に大量の結晶懸濁溶液を収めており。これらのスラリーを穏やかで円滑に循環することが必要である。また、安全操作等の立場からも比較的均衡のとれた形状の装置を設計することも大切である。そのため、今回の設計において比較的自由度の大きいパラメーターφを調整して均衡の整った晶析装置を設計することや、装置容積当たりの生産速度を大きくするのと合わせ、安定操業の行い易い装置を設計することも大切である。

  本稿で対象にした空間率一定分級流動層型晶析装置の水平断面の直径は、高さ方向に移動することによって変化する。そこで、この装置の水平断面の中心を通る垂直線で切った垂直断面の装置外壁の形状は側面の設計に重要である。本稿第2章の式(2)より、本装置の無次元結晶粒径yに対応する断面積Syはyに反比例する。一方その断面の位置は塔高算出式(13),あるいは式(15)の適切な方の式を用いて、yに対応する高さZyを算出し、無次元粒径yに対応するSyとZyを結んだ線は装置外壁となる。ここで、Zyはφの代わりのφy ( = ΔCy/ΔC2 )を式(13)あるいは式(15)に代入すると算出することが出来る。そこで、塔頂部の過飽和度ΔC2と懸濁結晶粒径dp2 および無次元粒径yの位置の溶液過飽和度 ΔCyと懸濁結晶粒径dpy , 塔底部の過飽和度ΔC1 懸濁結晶粒径dp1 の間の関係は、参考文献IIの式(134)~(136)であり、その結果φy は式(137)となって、その式より求めることが出来る。

Φy = ( φー1 )( y1 の3剰ー1 )/( Yyの3剰ー1) +1 (137)

  ここに示した関係式を用いて、φ= 2, y1 = 2.67に対応した装置外壁の形状は参考文献IIIのp.283に掲載された図3・32となった。その形状は青山が日本特許昭 40-22367示した装置形状とよく似ていた。

6)むすび
  1959年4月に早稲田大学大学院に入学し、城塚研究室で晶析研究を始めた、1961年4月に博士課程に進学し、城塚先生より、博士論文は「晶析装置設計理論の提出」を課題にするようご指導を受けた。その結果、1963年にオリジナルに円筒形分級流動層型晶析装置設計理論を提出した。この理論では新規に提出したC.F.C.によって基本的な連続晶析装置は、設計できるようになったが、すぐ工業晶析装置の設計には結びつかなかった。その後1965年1月に行われた国内のエンジニヤリング企業技術部の討議が切っ掛けになって、装置内空間率一定の円錐形分級流動層型晶析装置設計理論の提出になった。この論文は1966年4月号の化学工学に発表した。その論文発表とほぼ同じ頃、2年前に研究室を卒業した卒業生から青山さんの類似形状装置を特許にしたというがあった。その後豊倉が米国・TVA公社研究所に出発するまでの半年間に3度青山さんと晶析装置についての討議を行った。その3度目の討議は米国出発数日前に大同鉛の大阪本社を訪問して行った。この一連の討議を経て早稲田大学で提出した設計理論を理解していただき、青山さんが蓄積していたデータをその設計理論で整理された。その研究成果の一部は1972年Prahaで開催されたISIC5thで発表し、早稲田大学で提出した晶析装置設計理論は、工業晶析装置の設計に適用できるとの評価に繋がった。

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