Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事

2009 B-6,1:豊倉 賢 「川下から見た豊倉研究室晶析研究の50年(3)
                連続式円筒分級層型晶析装置設計理論の提出ーその2 CFC理論1」

1)はじめに;
  1950年代末になると戦後に荒廃した化学工業の復興も進み、重化学工業を軸にした大型化学工業が盛んになって、連続生産プロセスが開発されるようになった。その流れに呼応して工業晶析プロセスも連続化が採用されるようになって、連続晶析装置設計理論の提出に対する要望も高くなった。その時解決しなければならない晶析プロセスの課題は、装置内で生産される結晶を母液より効率よく分離できるようにすることであり、そのためには均一所望粒径の結晶を比較的容易に生産できる成長型晶析装置を開発することであった。そのような装置は、20世紀前半既にKrystal-Oslo型装置がヨーロッパで開発され、また、1950年代にはDTB型晶析装置が米国Swenson社によって開発されてたが、これらの工業装置を設計する装置設計理論は20世紀後半まで提出されなかった。豊倉は城塚先生のご指導で、1963年これらの連続晶析装置設計理論の研究を始めた。当初、晶析以外の拡散操作対象に提出された化学工業装置設計理論を参考に提出し易いと考えたモデル連続円筒分級層型晶析理論の提出を行った。ここで対象にする論文は「城塚・豊倉・関谷;” 連続式分級層型晶析装置の塔高算出法について” 化学工学。29巻9号、698(1965)および豊倉賢;”晶析装置および操作の設計法(4)”、ケミカルエンジニヤリング、(4)、55,(1966)に発表されいるが、そのコピーは「晶析工学の進歩;p293~299 &p272~283 (1992)に掲載したので、必要に応じてこれらの文献を御覧下さい。

2)連続式円筒分級層型晶析装置設計理論 :
  ここで対象になる晶析装置本体は直径一定の円筒形状の筒を垂直に立てたもので、装置内で結晶核が発生しない範囲の準安定域過飽和溶液が円筒形状の底面に供給され、装置底部より一様な速さで装置上面に向かって上昇して、上面に到達した溶液は液乱れを起こすことなく溶液のみ装置内より排出されると仮定した。装置内の結晶粒子は水平方向の同一円筒断面内では均一粒径の結晶のみが流動層の流動特性に従って浮遊して流動層を形成するが、その流動特性式はその円筒断面を上方向に向かって通過する空筒速度、その円筒面に存在する結晶が沈降する時の終末速度、および今考えている円筒断面に存在している結晶が占めてる面積のその円筒断面積に対して割合(対象にしている結晶の懸濁密度に相当する)の3特性値で表された。ここで、考える円筒形晶析装置の高さ方向に懸濁している結晶懸濁密度の高さ方向分布は、装置底部の大きい結晶の集まる部分に懸濁密度の高い懸濁液が形成され、それより上方に懸濁する結晶粒径は下部に懸濁する結晶粒径より小になり、装置上部に懸濁する結晶はこの装置に種晶として装置上部に供給される小粒径結晶となった。そこで、装置上部に懸濁する結晶の懸濁密度を0,1し、装置底部に懸濁する結晶の懸濁密度を操作可能懸濁密度の0,35と設定すると、この数値によって所望結晶を所定量生産する晶析容積、結晶形状を決定することが出来る。(この装置底部および上部の懸濁密度は装置高さを決定するために極めて重要な数値で、それをどのように考えるべきか、数年に亘る検討の結果決めたが、その内容の詳細については、別の機会い記述する予定ですが、特に、疑問や意見のある時は何時でも問い合わせ下さい。)

次に、ここで想定した装置内に懸濁する結晶の成長現象を考えると装置底部の溶液過飽和度は最大で、溶液が装置内を上方に向かって進む間に、その過飽和溶液は懸濁している結晶を成長させるので、その結晶成長に食われる溶質分だけ溶液過飽和度は低下した。このことは、この晶析装置内に懸濁している結晶の成長速度は装置内上部の方が過飽和度低下に基づいて低下すると考えた。その数値は溶液内に懸濁している結晶の粒径成長と溶液濃度低下の物質収支によると仮定できる場合は容易に算出できる。この研究ではその仮定に従って理論展開を行ったが、工業操作を対象にするとこの仮定が適用できない場合や装置の機能を上げるためにこの仮定から外れた操作法を採用することもある。(そのような場合には装置内の現象により近いモデルを設定して、設計式を修正するとか、その式で使用されてる記号の意味を多少変更して使用する必要がある。) 上記仮定下に単位晶析装置容積当たりの結晶成長速度 1/M・dw/d theta は晶析工学の進歩(以下本稿においては参考文献?と表示する)のp.293の式(1)となる。式中第2項目は総括結晶成長速度Koと単位装置容積当たりの結晶表面積a,過飽和度で表した推進力(ΔC=C?Cs)の積であり、第3項目は拡散段階の物質移動係数KDで表した結晶成長速度、第4項目は結晶表面晶析段階の結晶成長速度係数KRで表した結晶成長速度である。通常、結晶成長速度は総括値Koで表されるが、結晶成長現象を詳細に考えると、結晶成長に寄与する溶液内に懸濁する溶質は結晶周辺の溶液流の影響を受ける部分を表すKDと影響を受けないKRの直列機構で考えられるので、参考文献?のp.293の式(2)の関係が成立する。

         

  晶析装置内の微小高さdzにおける結晶体積の増分をdvで表し、円筒装置の溶液流れ方向に水平な断面積をS、結晶の密度&分子量はそれぞれRho & M、溶液の飽和濃度Cs,装置内より単位時間に取り出される生産結晶の数密度数&溶液流量をそれぞれF’&Fで表すと、このdz高さ内における結晶成長についての関係式は式(3)となる。


  ここで、式(3)のaは単位装置容積内における結晶表面積である。一方、拡散操作における塔形式装置の塔高算出式は次式がある。


  そこで、同様に塔形式晶析装置の塔高算出式は、式(3)をz= 0 ~ 装置高z の範囲で積分し、整理すると、参考文献?のp.294の式(4)となる。参考文献の式(5)&(6)より次式にて算出される。


  なお、このH.CG.U.( Height per Crystal Growth Unit )は 参考文献の式(9)にて示されるようにH.T.U. ( Height per Transfer Unit )およびH.SR.U. ( Height per Surface Reaction Unit )の和として求めることが出来る。
なお、連続円筒分級層型晶析装置の算出に用いられるN.T.U. , H,T,U, , H.SR.U. , H.CG.U. はそれぞれ式(5)、(7)、(8)、(6)にて示される。


  なお、ここで示した Rhoは結晶の密度を示し、装置内に懸濁する結晶では一定と見なして算出する。



  なお、式中のa




2・1)N.T.U. の算出;
  N.T.U.は上記、式(5)で示され、晶析装置内上部の溶液濃度をC2、そこに懸濁している1ケの結晶体積をv2で示して、装置内任意位置の溶液濃度Cと1ケの結晶 体積との間の物質収支を取ると、式(10)が得られる。



  この関係を式 ( 5 )に代入して積分計算をするとN.T.U.は式 ( 11 )となる。

  ここで、f、f’ は溶液、結晶数の空塔速度でF/S、F’/Sである。’

  豊倉での研究では、Krystal-Oslo型晶析装置で代表される、分級流動層型晶析装置の装置上部の溶液には残留過飽和度( C2 ? Cs )が存在すると仮定したことによって無次元源過飽和度の概念を提出することが出来た。それまで、欧米で考えられていたKrystal- Oslo型装置内に懸濁している結晶が構成する流動層高は高いため殆ど飽和溶液になっていると見なされていた。しかし、工業装置を考えるとこの欧米で見なされていた近似モデルも生産量の概算目的には誤りとは言い得ないことも予想されるが、その後、青山さんらが実測された工業装置データからは、流動層高さ5m程度の装置でもこの無次元過飽和度が2~3の数値が実測されている。

2・2)H.T.U.の算出
  H.T.U.は、式(7)で定義されており、目的製品結晶を生産する分級型晶析装置の設計には、目的製品を生産するのに適した操作条件を検討し、そこで決めた数値と式(7)を用いて、H.T.U.することは有効である。そのためには、式(7)のKDとaを決めなければならない。

i)KD の算出;
  ここで、対象になるKDは装置内に懸濁する多結晶を成長させて結晶製品を生産する時、Krystal-Oslo型晶析装置で生産しやすい系を対象に検討する。工業操作で対象になる工業製品結晶の種類は多く、どの場合でも容易に目的製品を生産できるとは限らず、特に、分級流動層型晶析装置では、装置内で成長する固体結晶粒子の沈降終末速度がアレンの範囲にある結晶を生産するのに適している。このような操作条件の物質移動係数を対象に、1962年のAIChE.Journal; 8,No.5, 577にGupta,A.S., G. Thodosが多数の流動層系・固定層系のデータを一括して整理したJ因子とRe数との相関を、さらにRe数で2~500の範囲に限定して再整理した式(12)を適用して得た式( 13 )を使用することにした。



  ここで、C’は溶液濃度〔m の3剰(solvent)/ mの3剰〕、Dは拡散係数、dpは結晶の表面積相当直径、Gは装置内溶液の空塔速度である。

ii〕a ; 装置容積当たりの懸濁結晶表面積の算出;
  均一粒径に篩い分けした結晶を円筒容器に充填した層の底部に飽和溶液を供給し、その溶液を底部より上方に向かって一様に流動させ、溶液流量を次第に増大させると、結晶は流動を開始する。その時の流速を適度に調節して一定に保つと安定した液体流動層を形成することは出来る。日本専売公社小田原塩研究所の諏訪らは1962年に食塩結晶を用いて作成した液体流動層の流動層特性実験を行い、空間率0,4~0.9の範囲における流動特性式( 14 ) を提出している。

  ここで、Utは結晶粒子の沈降終末速度である。分級流動層型装置で対象になる結晶のUtはアレンの法則に従うことが多いと考えるとUtは式( 15 )で表され、

  装置内結晶粒径dpの塔頂部懸濁結晶粒径dp2に対する無次元粒径( y = dp/dp2 )より、装置内任意位置の粒径dp の懸濁する場所の (空間率) は式( 17 ) となる


  ここで用いられる結晶粒径dpは結晶表面積 [ = π(dpの2剰) 基準であり、その結晶体積は体積形状係数をkで表すと、[結晶体積 = k・(dpの3剰) ]装置内任意位置の結晶懸濁液当たりの結晶表面積 a は式( 20 )となる。

iii )書き換えられた H.T.U.算出式 ;
   式(7)にて定義されたH.T.U.の中のKD および aをそれぞれ式 ( 13 )および( 20 )にて置換し、さらに式 ( 22 ),( 23 )で定義されるA1, C.F.D ( Characteristic Factor of Diffusion Step ) を用いると式( 21’ ) にて容易に算出できる。


  ここで、A1は式(22)より明らかなように、塔底部溶液の過飽和度ΔC1および 結晶種粒径dp2・の添加速度、溶液空塔速度Gなど、設計対象の系特性や製品結晶の生産速度等によって決まる数値より構成されており、装置設計に当たってその都度決められる数値である。


  ここのC.F,C,は装置内結晶流動層の塔頂部空間率を0.9とした時の数値で。参考文献 p.295 のFig.3にて無次元結晶粒径y1= dp1 / dp2 および無次元過飽和度φより得られる。なお、Fig.3の線図は無次元であるので、対象になる系や製品粒径の絶対値に関係なくどのような場合にもそのまま適用できる。

2・3)H.SR.U.の算出 ;
  式(8)で定義されるH.SR.C. は、式(7) で示されたH.T.U.と比較すると、式(13) のKDをKRで置き換えることによって、式(22),(23)のA1, C.F.D.は式(24),(25)のA2, C.F.SR.となる。


  ここに記述したA2およびC.F.SR.はA1 & C.F.D,同様設計対象の系特性や製品結晶の生産速度等によって決まる数値より構成されており、装置設計に当たってその都度決められる数値 および 装置内結晶流動層の塔頂部空間率を0.9とした時の数値を参考文献p.295 のFig.4にて無次元結晶粒径y1= dp1 / dp2 および無次元過飽和度φより得られる無次元数値で、対象になる系や製品粒径の絶対値に関係なくどのような場合にもそのまま適用できる。したがって、 H.SR.U.は式(24)’にて算出される。


3)むすび
  今回は、豊倉が45年前に、オリジナルに提出した論文をその後に行った再度検討も含めて纏めた。ここで、書いたものは、設計理論の提出までで、実際の工業装置の設計まで書く時間はなかった。現在の予定では工業装置の設計に適用できるように行った研究について7月1日掲載の記事で扱う予定です。工学研究成果は、実際の工業操作の設計や、改善に使えて初めて評価されるもので、ヨーロッパのWPCの会議に出席した企業技術者の評価も、工業操作の発展に貢献する見込みの薄いものについては厳しいものであった。今回の記事はこれから工学研究を行う若い研究者の参考になればと思って記事を書いているので、不明な部分については何時でも問い合わせ下さい。今回の記事に掲載した式は読みにくい個所があると思うが、そのようなときには、参考文献に掲載している同じ式番号の式で確認下さい。どうしても参考文献が入手できない場合は、豊倉まで連絡下さい。コピーを送付します。


top

Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事