Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事


2007B-9,1 中野哲也  三井化学株式会社 
(1989年3月 早稲田大学大学院理工学研究科応用化学 専攻化学工学専修博士課程前期修了 工学修士)

 
 中野さんは、本ホームページに既に数回寄稿しており、多くの卒業生は中野さんのことは知っていると思う。昨年中野さんから受け取ったメールで、近々大阪工場のプラント建設に従事するので忙しくなると云う話は聞いていたが、8/1発行の地域広報誌「たかしのはま」に「機能性樹脂(製品名:アペル)プラント」建設中の記事が掲載されたと聞いたので、そのホットなニュースを書ける範囲で9月1日に発行するHPに寄稿出来ないか依頼した。最近、日本国内の化学工場で建設される化学プラントは少なくなっていると聞いていた。一方、日本が産業立国を国是として発展し続けることを考える場合、日本でオリジナルに考案した新生産技術を開発し続け、世界に誇る高品質な化学製品を生産し続けることが必要である。そのためには、日本国内で新アイデイアに基づいて構築されたプラント建設を絶えず続けて新しいオリジナルな高度生産技術を開発し、同時にその工場の建設を通して、若い優れた技術者を養成することが必要です。今回、研究室を卒業した中野さんが、新工場の建設に責任ある立場で活躍することは、早稲田大学の化学工学に関係するものとして非常に喜ばしいことで、このようなニュースを若い卒業生に紹介することは、将来の化学産業を担う化学工学の卒業生に勇気と誇りを与えるものである。新しい機能を持つ化学物質を開発すれば、あとはこれまでに開発した生産技術を駆使することで、その新製品を生産できると考えている人は多いようである。しかし、それを必要量・妥当なコストで安全かつ安定的に生産し、世の中に供給して社会の発展に貢献することは容易でない。現実に国内大手化学企業が世界の化学企業をその傘下に入れて、生産技術の開発競争に携わる中で、その化学工学的生産技術で新しいオリジナルな方法を開発した当該企業が決定的に有利な結果を得たことを見たことがあった。化学工学的手法による生産技術開発への貢献は、開発の最終段階に近いこともあり、どちらかといえば地味なことが多いようである。しかし、成功すると大きな利益に貢献することがあり、労多くしてメリットも大きいことを肝に銘じて努力して欲しいと思う。中野さんは学生時代から難問に対して慎重に検討して臆することなく真面目に立ち向かう頼もしい性格の持ち主であった。中野さんの略歴は昨年6月の寄稿時に記事と合わせて掲載しているので、必要でしたらそれをご覧下さい。。   (07年8月、豊倉記)

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

号ののまたがるとうの

「 プラント建設便り 」

2007年8月8日
三井化学株式会社 電子・情報材事業部 機能性ポリマーG AOP建設班
(大阪工場 技術部 AOP建設G兼務)
中野 哲也        

<はじめに>
  tc−pmtをご愛読の皆様、ご無沙汰いたしております。私は2006年4月に大阪工場に戻り、現在は岩国大竹工場で増強に関わった機能性ポリマー製造プラント、製品名「アペル」の第2プラント建設に携わっています。機能性製品は汎用品と異なり、製品の移り変わりが早いので好機を逃すと上昇気流に乗り損なってしまいます。
  「アペル」はポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンの一種ですが、環状オレフィンをモノマーとして使用するため「環状オレフィンコポリマー(COC)」と呼ばれています。代表的な用途はDVDのピックアップレンズや携帯電話のカメラ用レンズです。屈折率が高く、防湿性に優れたアペルは加工しやすい樹脂の特徴を活かし、ガラス代替品として花開きました。

<組織>
  今回のプラント建設プロジェクト組織名は「AOP建設班」と言います。AOPはアモルファス(非晶質)オレフィンポリマーの略です。建設班は事業部直下の組織ですが、実際には工場在勤で業務に当たるため、大阪工場の技術部にAOP建設Gとして兼務辞令が出ています。メンバーは建設班長以下、プロセス・運転側、エンジ側合わせて40数名で構成されています。工事に携わる人員数は各フェーズにより異なりましが、配管工事が始まると数百人規模になります。

<スケジュール>
  建設スケジュールはおよそ次のように進んでゆきます。概念設計(立地検討、超概算投融資額推算)、基本設計(主要機器仕様設計、P&ID作成)、詳細設計(機器詳細設計、配管設計、HAZOPスタディー)、土建工事(杭打ち、基礎、鉄骨工事)、機器据付工事、配管工事、保温・塗装工事、完成検査、試運転、営業運転

  現状は機器据付工事がほぼ完了し、盆明けより配管工事フェーズに移行予定です。大阪の夏は湿度が高く、体感気温は実際の気温より1℃程度高くなるため熱中症にならないよう水分補給を充分に行うとともに、「不安全行為をしない・させない」などルール遵守で事故・災害防止に努めています。

<プラントを建設するということ>
  プラントを建設するとはどういうことだと思われますか?「アペル」の場合は第2プラントですからゼロからのスタートではありませんが、製造・販売・研究の連携がとても重要となります。営業は販売時期を見極め、それに応じた製品を研究が開発する。建設期間を配慮して人選、投融資認可そして販売に間に合うように工事完工、試運転、営業運転へと結びつける必要があります。どのプロセスが欠けても事業は成り立ちません。最近は各社とも研究に注力するあまり、現場力が低下する傾向にあります。研究者(理学屋さん)がどんなに素晴らしい製品を開発しても、それをスケールアップし、安全に安定運転できるような設備に仕上げる技術者(プロセスエンジニアやメカニカルエンジニアなどといった工学屋さん)がいないと製品を上市することはできないのです。

  わかりやすい話をしましょう。1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生しました。当時のオウム真理教は理学博士や医学博士といった優秀な人材を集めていろいろなことをしておりました。サリンの製造もその中のひとつであったと思います。優秀な研究者を集めた結果、フラスコでのサリンの合成は成功した。しかし、それを安全に安定運転できる製造設備(プラント)を造ることはできなかった。TVで公開された第7サティアンの無秩序な配管の羅列を見れば明らかでした。もし、あの集団に優秀な化学工学屋や機械工学屋がいたらどうなっていたことでしょう?想像するのも恐ろしいです。工学屋さんの使命は、(原油が上昇したら資源を天然ガスに切り替えるなど)時代の要求に対応して「安全かつ安定的に」製品を生産し続けることなのです。

  今やプロセスが完成された汎用品プラントの場合、建設地はほとんどが東南アジアになりましたが、プロセス改良が必須である機能性製品はまだまだ国内建設の可能性が高いのです。そういったプラント建設プロジェクトで建設班長を経験できる機会は滅多にありません。私は今自分がおかれた状況に感謝しながら、日々の課題をクリアーしています。(クリアーできない課題の方が多いのですが。。。)
プロジェクトとは一回限りで再利用はできません。以前のプロジェクトでうまくいったから今回もうまく行くとは限らない。限られた人材・資金・スケジュールの中で最良の解を探し続ける。一度走り出したらゼロリセットはできません。与えられた条件をうまく使いこなすことが最重要なのです。(人生と同じですね)

<最後に>
  前向きな仕事は、どんなに忙しくても楽しいものです。肉体的にしんどくても精神的につらくなることはほとんどありません。次回の報告では、建設・試運転の苦労話などを披露できると思います。メンバー一同健康で怪我なくこのプロジェクトを完遂したいと思います。

top

Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴
| apppendix | 新規掲載記事