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「 プラント建設便り 」
2007年8月8日
三井化学株式会社 電子・情報材事業部 機能性ポリマーG AOP建設班
(大阪工場 技術部 AOP建設G兼務)
中野 哲也
<はじめに>
tc−pmtをご愛読の皆様、ご無沙汰いたしております。私は2006年4月に大阪工場に戻り、現在は岩国大竹工場で増強に関わった機能性ポリマー製造プラント、製品名「アペル」の第2プラント建設に携わっています。機能性製品は汎用品と異なり、製品の移り変わりが早いので好機を逃すと上昇気流に乗り損なってしまいます。
「アペル」はポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンの一種ですが、環状オレフィンをモノマーとして使用するため「環状オレフィンコポリマー(COC)」と呼ばれています。代表的な用途はDVDのピックアップレンズや携帯電話のカメラ用レンズです。屈折率が高く、防湿性に優れたアペルは加工しやすい樹脂の特徴を活かし、ガラス代替品として花開きました。
<組織>
今回のプラント建設プロジェクト組織名は「AOP建設班」と言います。AOPはアモルファス(非晶質)オレフィンポリマーの略です。建設班は事業部直下の組織ですが、実際には工場在勤で業務に当たるため、大阪工場の技術部にAOP建設Gとして兼務辞令が出ています。メンバーは建設班長以下、プロセス・運転側、エンジ側合わせて40数名で構成されています。工事に携わる人員数は各フェーズにより異なりましが、配管工事が始まると数百人規模になります。
<スケジュール>
建設スケジュールはおよそ次のように進んでゆきます。概念設計(立地検討、超概算投融資額推算)、基本設計(主要機器仕様設計、P&ID作成)、詳細設計(機器詳細設計、配管設計、HAZOPスタディー)、土建工事(杭打ち、基礎、鉄骨工事)、機器据付工事、配管工事、保温・塗装工事、完成検査、試運転、営業運転
現状は機器据付工事がほぼ完了し、盆明けより配管工事フェーズに移行予定です。大阪の夏は湿度が高く、体感気温は実際の気温より1℃程度高くなるため熱中症にならないよう水分補給を充分に行うとともに、「不安全行為をしない・させない」などルール遵守で事故・災害防止に努めています。
<プラントを建設するということ>
プラントを建設するとはどういうことだと思われますか?「アペル」の場合は第2プラントですからゼロからのスタートではありませんが、製造・販売・研究の連携がとても重要となります。営業は販売時期を見極め、それに応じた製品を研究が開発する。建設期間を配慮して人選、投融資認可そして販売に間に合うように工事完工、試運転、営業運転へと結びつける必要があります。どのプロセスが欠けても事業は成り立ちません。最近は各社とも研究に注力するあまり、現場力が低下する傾向にあります。研究者(理学屋さん)がどんなに素晴らしい製品を開発しても、それをスケールアップし、安全に安定運転できるような設備に仕上げる技術者(プロセスエンジニアやメカニカルエンジニアなどといった工学屋さん)がいないと製品を上市することはできないのです。
わかりやすい話をしましょう。1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生しました。当時のオウム真理教は理学博士や医学博士といった優秀な人材を集めていろいろなことをしておりました。サリンの製造もその中のひとつであったと思います。優秀な研究者を集めた結果、フラスコでのサリンの合成は成功した。しかし、それを安全に安定運転できる製造設備(プラント)を造ることはできなかった。TVで公開された第7サティアンの無秩序な配管の羅列を見れば明らかでした。もし、あの集団に優秀な化学工学屋や機械工学屋がいたらどうなっていたことでしょう?想像するのも恐ろしいです。工学屋さんの使命は、(原油が上昇したら資源を天然ガスに切り替えるなど)時代の要求に対応して「安全かつ安定的に」製品を生産し続けることなのです。
今やプロセスが完成された汎用品プラントの場合、建設地はほとんどが東南アジアになりましたが、プロセス改良が必須である機能性製品はまだまだ国内建設の可能性が高いのです。そういったプラント建設プロジェクトで建設班長を経験できる機会は滅多にありません。私は今自分がおかれた状況に感謝しながら、日々の課題をクリアーしています。(クリアーできない課題の方が多いのですが。。。)
プロジェクトとは一回限りで再利用はできません。以前のプロジェクトでうまくいったから今回もうまく行くとは限らない。限られた人材・資金・スケジュールの中で最良の解を探し続ける。一度走り出したらゼロリセットはできません。与えられた条件をうまく使いこなすことが最重要なのです。(人生と同じですね)
<最後に>
前向きな仕事は、どんなに忙しくても楽しいものです。肉体的にしんどくても精神的につらくなることはほとんどありません。次回の報告では、建設・試運転の苦労話などを披露できると思います。メンバー一同健康で怪我なくこのプロジェクトを完遂したいと思います。
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