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2007B-8,1 城石昭弘、富山大学地域共同研究センター教授
工業晶析における開発技術と学問的研究の発展経緯シリーズ第3回
有機多形結晶の晶相制御プロセスの開発
「 滴下晶析法による多形制御について 」
富山大学地域共同研究センター
教授 城石昭弘
logCs= A + △H/RT Cs:溶解度: △H:結晶化熱 R:ガス定数 T:温度
多形関係にあるα結晶とβ結晶は溶解している状態ではエネルギーレベルに差異はないが結晶構造にエネルギーレベルの差異があるので結晶化熱△Hαと△Hβは僅かながらでも必ず異なる。logCsと1/Tは直線関係にあるのでその直線の勾配△H/Rは必ず異なる値をとる。直線の勾配が異なるということはこの2つの直線はどこかの温度で必ず交わることになる。一般に溶解度が小さい結晶を安定型と呼んでいるが2つの溶解度曲線は必ずどこかで交わるので温度領域によっては安定型がα結晶になったりβ結晶になったりする。γ結晶、δ結晶等が出現する場合も同様の考え方で整理される
3.多形結晶の溶媒媒介転移
また一般にα晶とβ晶の等量混合物(等量でなくても良いが)を溶媒中で懸濁させておくと(擬平衡と考えられる程度の時間内で。この実験のタイムスケールという考え方は非平衡の操作では特に重要である)不安定型の一部(全部)が安定型に変化する。このとき此の懸濁液中の溶液における溶質の濃度は安定型の溶解度であるはずがないしまた不安定型結晶の溶解度を超えることはないはずである。即ち不安定型と安定型の溶解度の間にあるはずである。またこの状況では溶液中の溶質の濃度は安定型結晶に対しては過飽和であり、不安定型結晶にとっては未飽和であるから安定型は結晶成長し、不安定型が溶解するので簡単に溶媒媒介転移を説明できることになる。
一方100%α晶を用いてこの結晶が不安定型となる温度領域で懸濁液として攪拌しても直ちに安定型であるβ結晶が生成するとは限らない。その理由は懸濁液中の溶質の濃度がβ結晶に対して過飽和であるとしてもβ結晶の核化がおきなければ、β結晶の成長も起こりえず結局溶液中の溶質濃度はα晶の溶解度をそのまま維持することになる。このことはまた不安定型結晶の溶解度を実際測定することが可能であることの証明にもなる。
しかしながら事実はもっと複雑なようである。懸濁液中の溶質の濃度が不安定型結晶に対して飽和または若干未飽和であるとしても結晶の破砕等により不安定結晶の微粒子(核化)が生成してもおかしくない。またこの結晶が不安定型であったとしてもそれに安定型結晶であるβ結晶にたいして溶液中の溶質濃度は過飽和であるから微結晶としてのα結晶を核としてβ結晶が成長してもおかしくない(エピタキシャル成長の一種と考えてもよい)。 実際の実験では100%α晶を用いてこの結晶が不安定型となる温度領域で懸濁、保持しても、実験のタイムスケールと不安定性の限度内では不安定型に容易に転移することはない(徐々には転移するのであろう)。
4.回分冷却晶析による多形結晶の出現
回分晶析で所望の結晶量を析出させるためには冷却開始時と終了時の溶解度差が20%程度あることが理想的である。そのために調整される溶質濃度を不純物が生成しない限りできるだけ高温とし濃厚な溶液を調整する必要がある。ところがそのような高温での安定型が所望の結晶でない場合(即ち所望の結晶が安定型となるのが低温である場合)高温から冷却する過程で不要な結晶相が安定型となる温度領域を避けて通れない。不安定型が生成しようと低温熟成すればいずれ所望の結晶に溶媒媒介転移するのであるからそれでも良い場合もあるがワンバッチの操作に長時間が必要となる。
5.滴下晶析法
所望の結晶が低温で安定型となる場合にこの結晶を効率的に析出させるには以下の滴下晶析法が望ましい場合がある。すなわち高温で濃厚な溶液を調整しておきこれを予め低温に保持された結晶槽に順次導いて結晶を析出させる方法であり、滴下に先立ち少量の溶媒を結晶槽に張り込んで置いたほうが良い、滴下開始時は結晶槽の液面が低位にあり結晶槽の冷却能力も小さいので滴下速度も抑えておくが液面の上昇に伴い冷却能力も増大するので、滴下速度を上げることが出来る。結晶槽が結晶スラリーで満杯となったらワンバッチの終了である。 本法をキザロフップエチルに適用した結果を以下に発表している。
Shiroishi A.,I.Hashiba,R.Kokubo,K.Miyake and Y.Kawamura;ACS Symp.438,261(1990)
6. その他の回分晶析法
酸沈法をはじめとする様々な反応晶析法が工業的に行なわれているが経験技術と基礎実験をそのまま工業化したものが多く、回分晶析装置の設計操作理論はいまだ確立されていない。 特にナトリウム塩を酸で中和して溶解度の小さい有機酸を結晶として得る場合の反応のプロファイルと結晶の成長速度や核化速度を組み合わせた装置の設計及び操作理論については今後の課題となろう。一般には反応のために添加する酸やアルカリを数回以上に分割投入して反応を進行さ、結晶の成長速度と核化速度とを経験的にマッチングさせた操作法が各社で開発されノーハウとして蓄積されている。豊倉らは連続プロセスの設計理論を回分にも適用できるとしてその理論の適用を試みているが十分とはいえない。不純物を用いて多形制御を行う方法も発表されているがそのメカニズムは十分解明されていない。
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