Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴 | apppendix | 新規掲載記事
2007B-6,2 城石昭弘、富山大学地域共同研究センター教授
略歴 | |||
1965年 | 東北大学工学部化学工学科卒業 | ||
同年 | 日産化学工業入社 メラミンプロセスの開発はじめ晶析工程を有する多くの化成品、肥料、農薬製造プ セスの開発研究やプロセス改善研究と取り組む |
||
1992年 | 同社富山工場技術部長 | ||
1993年 |
1993 同社研究開発センター長 | ||
1997年 | 1997 博士(工学)取得 学位論文:晶析プロセスにおける結晶形状制御と溶液側の移動現象論的研究 |
||
2001年 | 同社退社 | ||
同年 | 富山大学地域共同研究センター教授 |
||
現在に至る 現在:日本粉体工業技術協会晶析分科会コーデネーター |
工業晶析における開発技術と学問的研究の発展経緯シリーズ第1回
「 晶析装置の設計理論と実装置への適用 」
富山大学地域共同研究センター
教授 城石昭弘
2.1溶液の過溶解度と過飽和度およびその測定方法
過溶解度
微粒子と粗大粒子では溶解度自身が異なることもあり、過溶解度はごく微粒子の溶解度を示していると考えることも出来る。実際に実験してみると確かに溶解度を超えても結晶は直ちに析出せず準安定域は存在しているようだが、単に測定者の観察できないほどの微粒子が溶液中に生成しているのかもしれない。 過飽和溶液中にきらりと光る微粒子が生成したらそれが過溶解度であると一応説明してきたが私はそれが過溶解度であると断言できる自信がない。
過飽和度とその測定方法
供給液を予め所定の過飽和溶液としこれを結晶槽に導いて晶析させる場合はその溶液の過飽和度は比較的簡単に評価出来る(結晶が見えず透明溶液だから)が結晶槽内の懸濁溶液中の過飽和度の測定はかなり厄介である。
基礎実験では懸濁液中に小さなガラスフィルターを逆さまにして浸漬しておき、結晶がまさに成長している過飽和溶液のみをそのフィルターを通じてサンプリングし、瞬時に(サンプリング液の温度が変化しないうちに)そのサンプリング液を希釈するなどしてサンプリングした液量を重量測定すると共に希釈された液中の溶質濃度を測定すれば何とか懸濁液の溶質濃度(過飽和濃度)を測定できる。実際の工業装置に おける懸濁液中の過飽和濃度の実測を試みみたことがあるが、ヌッチエろ過装置一式を現場に設置し、それらを結晶槽と同温度に予熱しておいてそれを用いて結晶槽から抜き出したスラリーを速やかにろ過し、過飽和濃度を測定したが、相当手際よく実験しないと良いデータが得られなかった経験がある。そのようにして過飽和濃度を測定してみるとその値は臨界飽和度△Cssの2〜5%程度であった。即ち殆ど溶解度そのものであり注意深い測定技術が要求されることを痛感した。逆に言えば工業装置で懸濁液中の過飽和度△Cを推進力として結晶が成長するからといって、それを操作の外部独立変数として管理することは実際問題不可能に近い。それ故過飽和濃度運搬層型結晶槽ではP/R(P::結晶生産量;R:内部循環量)を操作過飽和度等と定義する場合があるが、これはドラフトチューブ内で結晶成長のためか飽和度が消費されドラフトチューブのトップでは溶液の過飽和度が完全に消費され(飽和溶液となり)その溶液がドラフト外側を下降して新たな供給液と混合することによりある過飽和度が生成すると仮定しているからであるが、ドラフトトップで過飽和度が常に完全に消滅しているという保証はなく上述の操作過飽和度もある便宜的な規定でしかないように思える。
2.2結晶成長速度係数の測定法
基礎実験では比較的手際よく過飽和度が測定できるので生成した結晶の粒子径の測定結果と組み合わせて結晶成長速度係数を求めることが出来る。結晶成長速度係数の求め方及びその整理方法については豊倉教授らの単結晶懸垂による方法や粒度のそろった種結晶を回分晶析実験で求める方法(核発生が生じない条件化での実験)あるいはポピュレーションバランス式を用いた基礎実験結果の解析法(縦軸に粒子径単位長さあたりの個数の対数、横軸に結晶粒子径をとってその直線の勾配(1/Gτ)からd /dθを求めこれを △ Cで除して総括的な結晶成長速度係数を算出することが出来る。詳細は原報等を参照されたい。
結晶成長速度係数が求まれば前述の懸濁液中の過飽和濃度を独立変数として求めなくても計算で算出できることになる。この総括成長速度係数を温度に対してプロットしておけば晶析温度が変化しても晶析槽の設計、操作が規定できる。
次に総括成長速度係数Koは1/Ko=1/Kr +1/Kdとされ拡散過程の移動係数Kdについては粒子の周りの流れ等をレイノルズで表した実験式等が提出されているが(豊倉教授ら)結晶表面における析出過程の移動係数Krについての研究は十分でないように考える。ただ析出過程の物質移動は析出現象を一種の反応過程と見なすことが出来、従ってKrが支配的な系においては晶析温度を5〜10℃程度上昇させるだけでKoが30%程度も上昇することがあり、操作温度を最適化する方が生産能力UPに直接的に寄与することがある。
2.3核化速度の測定法
工業晶析では粒度分布に現れない粒子は核ではない。即ち生成粒子の総数が核化速度を表すことになる。核化速度は前述の基礎実験結果や解析法から縦軸の切片を読み取れば核化速度が求まる。得られた核化速度は過飽和度のべき関数として与えられている。しかしながらその実験式では2次核発生速度は攪拌による結晶破砕や微粒子の凝集などを全て包括したもので汎用性はあまりない。
3.実際の装置設計とスケールアップの問題点
前節で述べた装置設計理論では結晶槽の大きさ、槽高さなど基本諸元の決定法が議論されてきたが実際の装置設計及び晶析装置のスケールアップ時には懸濁密度や粒子径のオンライン計測や操作上の問題回避のために種々の工夫と配慮多が必要となる。
1)攪拌翼の先端速度と混合強度,内部循環量
異常な二次核の発生や装置内上部と下部の過飽和度比(△C1/△C2)を適正に保つためには,液の粘性にもよるが,基本的にはゆっくり大きな羽根で攪拌することが必要である。同時に攪拌羽根による粒子の破砕と渦流ロスを最小限にしつつ内部循環量を増大させるためにはスクリュウータイプの羽根を選択することもある。また単位容積当たりの攪拌動力をそろえてスケールアップすることが無機微粒子のMSMPR型晶析槽でしばしば検討される。また運搬槽型晶析装置においては通常は結晶槽の上下の内部循環流は一定であり(設計時に決定)操業度が変わると結晶の滞留時間がそれに伴って変化することから所望の結晶が内部循環流内で懸垂しなくなったり、微細結晶が装置内を循環流と共に循環する(mixed Magma Type)に結果として移行して運転されるようになる。従って所望の粒子径に対する要求と広い操業度に対応出来るように、過飽和度比、懸濁密度、結晶の滞留時間等の操作範囲を考慮した内部循環流量の決定が肝要である。
2)L/D、液浸、蒸発部面積
分級層型結晶槽では装置径Dは装置内で懸垂している結晶粒子の終末速度を基本に設計されるが大容量の装置ほどL/Dが小さくなり過大な内部循環量が必要となる。実際には一部の微粒子は溶液の流れに乗って循環させ,内部循環の流路とのバランスを考えることも必要である。過大な装置高さLは液圧による液温の変化を増大させるがこれも内部循環量により槽内の均温化を図る必要がある。特に断熱冷却型,及び蒸発型晶析装置では内部フラッシュによる核化速度の増大が懸念される。
断熱蒸発により溶液を冷却する場合は溶媒は蒸発部での表面蒸発により行われものとしているが、蒸発部が蒸発量に対して過小であると懸濁液の飛沫同伴や蒸発部での局部冷却が起こり、異常な核発生が起こるとされる。通常蒸発部表面積あたり200〜300KgH2O/m2/Hrが適当とされている。
3)熱交換器(加熱,又は冷却)スケーリング
通常溶液の循環ラインに熱交換器が設置されるが熱交換量の設計に加えてスケーリング或いは過度の冷却による異常核化が懸念され,伝熱管表面の温度に対する配慮等きめ細い配慮が必要である。
4)懸濁密度
MSMPR型晶析槽では懸濁密度(1-ε)を可能な限り高めて生産性の向上を図るが核化速度も増大する。しかしながら粒度分布の細粒側に異常が発生しない限り核化速度の増大は製品全体の結晶径をわずか に小さくするにとどまる場合が多い。但し懸濁密度(1-ε)は結晶径と結晶の形状に大きく左右され,その限界は懸濁スラリーの充分な流動性の確保を最優先に考えるべきである。
以上いくつかのスケールアップを考慮した結晶槽の設計運転操作因子に対する配慮に言及したがスケールアップで必ず変わってしまう因子と変化させなくても良い因子があり,設計理論に照らして変化の度合いを評価すると共に,結晶成長速度と核化速度が正常かどうかを常に評価判定しておくことが肝要である。
4.おわりに
豊倉教授等が開発,展開された晶析装置の設計理論は基礎化学品などでは既に幅広く普及している。しかしながら設計理論の適用以前に、いくつかの基礎設計因子を実験的または推算式にて検証しておく必要があり、設計理論の適用以前にギブアップしてしまうことも多かったように思う。
1970年代の後半における我が国の産業政策の大変換を契機として、それまでに確立された晶析装置の設計理論や生産力向上のための多くの技術展開はいつの間にか置き去りにされ、産業界及び大学の研究対象は機能性微粒子やファインケミカル等のより付加価値の高い製品や技術にシフトしていった。しかしながらものつくりとしての晶析装置の設計理論等は対象が微粒子であれ、有機結晶であれ、普遍的に役立つ工学(技術)であり、20世紀にやり残した工学(技術)上の課題の解明と集大成は、今後の先端技術による新産業創出のためにも、その基盤を支える重要で忘れてはならない研究課題ではないだろうか。
以後次回に続く。
Home | ホームページ設立の趣旨 | 掲載予定の記事について
豊倉賢略歴 | apppendix | 新規掲載記事