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豊倉賢略歴
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2006 B-1,1:「 2期目(1968年帰国後)の晶析研究 」

1)はじめに
  1959年早稲田大学大学院に入学し、晶析研究の手始めとして過飽和溶液内の溶質拡散現象に着目して、結晶成長速度を化学工学的に研究した。当時の化学工学では、晶析操作の重要なことを先駆的な研究者は認識していたが、それを前向きに研究していた研究者はまだ少数であった。1965年度化学工学協会関東支部主催の最近の化学工学講習会で、“晶析操作と晶析装置の設計法について” 講演した時、「 晶析なんて云う研究をよく行いましたね 」と味の素〔株〕研究所に所属していた当時の関東支部幹事から云われたことを今でも鮮明に覚えているが、これは当時の化学工学研究者の晶析研究に対する一般的な認識であった。また1980年代後半、ドイツ, Stuttgart 郊外のサンドビック本社を訪問した時、Olofson社長からも「晶析の研究を始めたのは非常に良かったですね。でも化学工学研究者が余り研究してない“晶析研究”をなぜ人より先に始めたのか?」 と聞かれことがあった。その時「大学院に入学した時、指導教授の城塚先生から晶析を研究テーマに与えられたから」と答えたが、今から考えてもそれは豊倉にとって非常によかったと城塚先生に感謝している。しかし実際にそのように言えるのは、大学院入学後の研究が順調に進んだからであって、その頃の研究を思い出して今回の記事を書くことにする。研究を始めた10年間の主な研究成果は、CFC因子を提出してそれによって豊倉研究室初期の晶析装置設計理論を体系化したことであった。これは海外留学の足がかりとなった。この理論体系化に成功してからの次の10年間はそれまでの研究成果の上にその裾野を拡げる研究を行った期間で、1980年代以降の研究に繋げる非常に重要な時期であったと思っている。今、このホームページを始めて3年目を迎えるに当たり、初めての海外研究生活から帰国した後の10年間の研究概要を紹介し、この間共に研究した研究室所属の学生の活躍に謝するとともに、将来が期待される若い研究者の参考になればと思っている。

2)帰国直後・・1970年以降の研究活動について:
1968年11月に帰国した時、大学院に在籍していた大学院修士過程の学生 は城塚研究室の晶析研究を続けていたが、その研究は豊倉が渡米する前の‘66年に学生と打ち合わせた継続研究と新テーマとして考えた晶析法による精製分離法の研究であった。当時金属分野の人達はゾンメルテイング法に強い関心を持って研究していたが、豊倉の留守中は晶析による精製分離法の研究としてそのゾンメルテイング法の基礎的研究を行っていた。しかし、その方法を化学工業プロセスにどのように展開させたらよいか見通しが立たなかったので、帰国した段階でこの研究を含めて研究構想全体を見直すことにした。そこでは、まず豊倉が帰国した時までの10年間の早稲田大学での晶析研究を検討した。その結果、1959年に始めた晶析研究は帰国までの10年間に国内外で然るべき評価が得られており、今後飛躍的に発展する可能性のある研究課題が多いと予想されたので、これまでの成果を足掛かりに晶析装置・操作法を発展させる研究を継続することとした。

3)1968年帰国直後に検討した晶析研究テーマ:

ウ)オリジナルに提出した連続晶析装置設計理論の発展的研究;
  米国から帰国するまでの晶析研究では、連続工業晶析装置の主流である@クリスタルーオスロ型装置、ADTB型装置、およびB撹拌槽型装置を対象に理想モデルで想定し、それらの装置を設計する理論を提出した。これを受けて、1968年以降の研究では提出された設計理論を用いて工業晶析装置を容易に設計するための理論とその設計手法の開発を目的とした。また、理想状態と異なる工業装置内の結晶懸濁状態に対する取り扱い、工業装置設計に適用するための結晶成長速度の簡便な測定法、理想モデル装置から生産される製品結晶粒径分布と工業晶析装置で生産される製品との差異ついての検討、簡便な設計計算法の検討などを対象にした研究をすることにした。

エ)晶析法による精製分離法の研究;
  結晶化法による精製分離法は古くから実験室で行われていたが、その工業操作への拡張を新テーマとして研究することにした。特に当面は精製工業プロセス開発のための基礎的現象に焦点を合わせることにした。

オ)2次核化現象の研究;
  結晶が存在した過飽和溶液内の核発生現象は結晶の存在しない場合とは全く異なっていることが実験的に知られていたが、これについての研究は1960年代の後半から化学工学研究者によって始めていた。当時の研究は過飽和溶液内の結晶と他の固体棒との衝突によるコンタクト核化現象を中心に行われた。それに対して豊倉研究室では数年遅れて研究を始めようとしたので、その研究開始の時点で大きなハンデキャップがあった。そこで、このハンデイを取り戻すために豊倉研究室では、全く異なった発想で研究を始める必要があると考え、欧米で殆ど使用されなくなっていたが比較的粒径の大きい、均一度の高い結晶の生産に適していて、日本国内で広く使われている流動層型装置内の2次核発生の基礎現象解明から研究を始めることにした。

カ)環境対策技術開発を目的とした晶析基礎現象の研究;
  戦後の日本産業は1950年代に入って急激に活発になり、発電所からの排気ガスやその他の産業廃棄物は急激に増大し、1970年代には日本の環境汚染は重要な問題になっていた。これらの廃棄物を比較的安定な固体として取り出す技術として、晶析法による環境対策技術の開発を目指した研究を対象に研究することにした。
キ)晶析装置、操作法の設計が容易になれば、晶析操作プロセスの開発は行いやすくなる。そのことより機会があれば晶析プロセルに関する研究も視野に入れながら研究することにした。

4)1970年代の晶析研究:
3)に記述した研究課題を具体的に研究する場合、次の3通りの進め方を考 え、各テーマに対してここに記述した方針で進めた。

a) 既に研究が行なわれており、その進展の過程で取り組むべき研究テーマとして設定された研究課題は多くの場合それを研究することにやって目的とする成果を上げ易い。そのテーマとしては、豊倉研究室で提出したCFC設計理論の進展に係わる研究と晶析法による精製分離に関する研究があり、それらはすみやかに研究を始めることにした。

b)  学会や産業界で活発に研究されるようになった重要なテーマは出来るだ け早く研究を開始することを検討すべきである。そこで研究対象になるテーマに対して研究した経験のない場合は、最近の発表された論文をよく調べ、オリジナリテイーがありしかもその成果が多方面に発展する可能性のあるものを選択する。また、その研究課題が今まで研究した成果と結びつくテーマは優先的に選択する。今回はその様な観点から2次核発生速度の研究を行うことにした。

c)  もう一つの選択基準としては、研究室と親しい企業が操業している工業 プロセスと関連のありそうなテーマから選定したり、また、産業界で抱えている重要課題と関係のありそうなテーマから選定することにした。この範疇のテーマとしては環境対策技術や晶析プロセスの中から具体的なテーマを選定した。

このような考え方で研究を始めた研究成果は学会誌に掲載しているが、その主な内容と研究したときの裏話等は06年の3月以降の奇数月記事としてこのHPに掲載する予定である。

5)970年代の国内外の学会や産業界の活動との関連について:
工学研究成果は産業界の現業技術の発展に寄与するものでなければなら ない。また、産業界の技術は市場にニーズに応える製品を生産しなければならず、そのために、現実の工学理論で検討できない技術でも製品の生産に必要なものはあえて開発し、工業製品の生産に使用している。しかし、大学研究者がそのような生産技術の討議に参加すると、その技術を構築するのに有効な工学理論を研究し、提出することがある。そのような工学理論が完成するとその理論を適用することによって、その技術急速に発展し、所望製品を生産する最適装置・操作法を設計することが可能になることがある。この場合、その理論を提出した研究者にとっても、その技術を使って製品を生産する企業とっても、またその製品を使用する人々にとっても好ましいことで、皆がその工学理論提出の恩恵を受けることが出来る。その意味では研究者は企業技術者と交流を重ねることが重要である。同時に研究者は良い研究成果を提出し、工学理論、生産技術を発展させるためには、国内外の研究者・技術者との交流を活発に行うことが有効である。今年のHPに掲載する記事では、国内外の学会活動や産学の交流を纏めて記述することは出来ないが、個々の研究報告の裏話として、各研究の記事内容と重ねてこれらの交流の実体やその効果を記述する予定である。

6)むすび
  今回豊倉が記述した記事は、立ち上げてから3年目のHP(06年の奇数月の記事)に寄稿する内容として「1970年代の豊倉研究室の活動紹介をする」ことを伝え、その内容の概略と執筆の意図を示した。ここで特にお伝えしたいことはこのHPで紹介した活動は豊倉が30歳代の後半から40歳代の後半に掛けてのもので、豊倉のライフワークの構築に大いに寄与したものである。しかし、この記事のスペースは限られてるので、内容記述に不十分の箇所があり、個々の内容については何時でも何でもお問い合わせ下さい。                          

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