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2005 B-1,4:「晶析装置内に懸濁する結晶の流動状態と装置内核発生現象」

 豊倉研究室において2次核発生現象の研究を始めた時の経緯と初期のカリ明礬系の流動層種晶による2次核発生現象に関する研究成果の概要は本ホームページ2005B−1〜3に紹介した。これら初期の研究成果を基に装置内の核化現象を考えると1次核化現象と2次核化現象は独立に起こるものであり、また2次核化現象においても懸濁結晶周辺を流れる溶液流の粘性力に基づくと考えられる現象と懸濁している結晶同士や結晶と撹拌翼あるいは装置壁などとの衝突によるコンタクト核化現象がそれぞれ独立に起こると考えられる。しかも、ここで起こる核発生速度は系の特性、操作過飽和度、装置内の流動条件その他の影響を複雑に受けるので、それらの影響因子をすべて包含した特性式で表示することは現段階では出来ない。またそのような一般化された特性式を提出するような研究を行うことも容易でない。そこで、豊倉研究室では、初期の研究成果に基づいて第2段階の研究として晶析装置内結晶核発生モデルを提出してそれらによって研究しており、それを今月の05B−1&2,4で紹介する。ここで扱う05B-1,4は単純化された晶析装置内結晶核発生モデルの解説を中心に行い、05B-2,4では想定された核発生モデル装置を組み立てて実験した結果を中心に解説する。これらの成果を理解することによって対象とする系に適した装置内における結晶核発生速度を実験的に予測する可能性があり、工業晶析装置・操作法の設計を容易にすることが出来ると考えている。

1) 単純化されたモデル装置内核化現象:
  前にも扱ったことがあるが、20世紀前半の結晶核発生速度に対する研究では、溶液内の過飽和成分の溶質は会合・分散を繰り返すが、熱力学的に決定される臨界粒径以上の会合物は結晶と考え、それは熱力学の第2法則に従って成長して所望粒径の結晶になるが、結晶になったものはその過飽和溶液内では相互に会合して粗大結晶にはならない。結晶核の発生過程では同一組成の結晶多形転移は起こらない。また一度結晶になったものは未飽和状態にしない限り消滅して結晶数を減少させることはない。通常の工業操作では上記のモデルがほぼ適用できると考えられることは多いが、それと矛盾する現象も操作法によってはしばしば起こっている。工学理論は理学的基礎理論を基に組み立てられることがしばしばあり、その工学理論の中には理学的理想モデルでは包含できない工業装置特有な現象に対する配慮なされていないものがある。その場合は工学理論と云えども工業晶析装置内の現象解明に適用できない。また、その理論式をそのまま適用しても工業装置内の結晶核発生速度を操作条件より推算することは出来ない。理学分野で扱う結晶核発生は一次核発生であり、対象とする溶液に所定の過飽和を与えても直ちに臨界粒径以上の結晶が生成すると考えることは出来ない。そのため、この現象を考える場合、所定の過飽和状態になってより結晶核の発生が認められるまでの時間、すなわち“待ち時間”あるいは“誘導時間”で研究されている。一方05B−1〜3、2で扱われた2次核発生においても1次核発生同様“待ち時間”を考える研究者もいるが、過飽和溶液内に懸濁する結晶に起因する2次核発生においてはその待ち時間を考慮しなければならないような実験結果を(工業装置のデータを含めて)豊倉は経験していないので、この単純化モデルでは、2次核発生の待ち時間はないものとして扱う。2次核発生現象においては、特殊な場合を除くと結晶核を発生させる母結晶は過飽和溶液内を懸濁しており、その結晶を懸濁させる過飽和溶液が結晶表面に当たり・沿って流れる時の粘性流等によって結晶表面より結晶核を剥離させるモデルと装置内懸濁している結晶の衝突に起因するコンタクト核化のモデルが考えられる。ここで、母結晶より発生すると考えられる微結晶の粒径には種々の粒径が存在すると考えられるが、それらの微結晶は製品結晶より遙かに小さいものとして、工業装置内では粒径0の結晶核が発生するモデルを考える。

2) 1次核化現象:
  1次核化現象は結晶核を理解するのに極めて重要な現象であるが、2次核を生むための最小母結晶粒径以下の所望製品結晶を生産する以外、多数の1次結晶核が生成するような操作条件を避ける操作法が選択されている。通常考えられるような操作条件で発生する1次核化現象では、05B−2,3で示した少数の1次核が徐々に発生する現象と操作中に一度に膨大な数の1次核が発生する現象とがあり、特に工業操作では後者の1次核発生現象は起こらない範囲で操作しなければならない。前者の僅かな数の1次核の発生は、工業操作では無視して操作しても製品結晶に影響を与えることはほとんどない。そのため、今回のホームページでは、1次核化現象な扱わないことにする。1次核化現象については微小結晶の生産を対象にしたところで別の機会に扱う。

3) 粘性流に基づく2次核化現象:
  1) で説明した粘性流による2次核発生は過飽和度や流動条件の変化によって受ける影響は一般に比較的緩く、その発生速度を比較的簡単な操作条件の変更によって制御することができる。工業晶析装置内で支配的に起こると考えられるこの粘性流に基づく2次核化現象とコンタクト2次核化現象は装置内に懸濁する結晶によって同時に起こることが考えられるが、そのどちらが支配的に起こるかは、系や装置内に懸濁する結晶の粒径およびその他の特性の影響を受ける。これに関する研究は余り報告されていないが、豊倉研究室で、一部の無機結晶を対象に研究し、工業晶析操作条件の決定に重要で極めて参考になる成果が得られているので、05B−2,4にその要点を解説する。

4) コンタクト2次核化現象:
  20世紀以降に開発された工業晶析装置内では結晶は多くの場合懸濁状態に保って操作されており、装置内の結晶は衝突を繰り返しながら所望粒径に成長する。これらの結晶衝突はコンタクト2次核化を起因するので、晶析装置内ではコンタクト2次核化現象が支配的に起こっていると考えられ、特に欧米では単一結晶の衝突を中心に研究されてきた。しかし、3)で扱ったように過飽和溶液内で結晶が衝突して微細な結晶が多数発生するか否かは衝突の激しさと衝突を起こす結晶の破砕を受け易いか否かによって異なってくる。そのため装置内の結晶が発生・成長した過程が衝突による微細な結晶の発生に影響する。また、晶析装置内では多数の結晶が高懸濁密度で浮遊しているので、工業晶析装置の設計に適用できる2次核発生速度を求めるためには、結晶が高懸濁密度で懸濁した状態で発生した結晶核数を実測する必要があると考え実験的研究を行った。そこで実測される結晶については可能な限り結晶核に近い微小結晶個数を測定するという考えがある一方、工業晶析装置で生産される結晶粒子に近い粒径の結晶で測定しようとする考えがある。それぞれの測定結果には、それぞれに特有な利用目的があるので、その目的によって測定法を選定すべきである。豊倉研究室では所望製品を生産できる装置・操作の設計を第一目的にして来たので、後者の製品に近い粒径の結晶数を実測する方法を選択している。 

5) モデル核化現象に基づく装置内核化現象の予測について:
  自然界の現象あるいは工業生産技術開発を研究する場合、研究課題に適した現象モデルを想定して研究することがある。それは研究対象の系・装置形式および操作条件等を限定して研究を進めることが出来るので、再現性のよい実験結果を比較的容易に得ることが出来、しかも短時間に成果をあげることが出来る。豊倉研究室の多くの研究においては、研究対象課題に支配的に関与する因子を取り上げ、それらが研究目的にどのように関与するかを慎重に検討し、それらをモデル化して研究を進めた。晶析装置内で起こる核発生現象に対してもこの方法で現象をモデル化し、そのモデル装置内で起こる核化現象を実験的に研究した。その実験結果を機能的に整理して工業装置内の現象を推測し、工業装置内における核化現象と比較検討することで工業装置内の核化現象を解明した。しかし、工業装置内の現象は、規模の小さいモデル装置のそれとは本質的に同一視出来ない部分があるので、その部分の最終結果に対する関与を推定してその補正法を提案しつつ検討を進めている。それに対する検討は個々の場合で異なるものであり、ケーススタデーにおいて対応を取っている。

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